誉れ高き家畜道
@dantuzidou
第1話
「いやだ、そんなの嫌だ」
感情のままに豚小屋を駆け出した僕は裏手の林を抜けいつの間にか山に入った
「僕はまだまだ生きるんだ。食われて死ぬなんて嫌だ」
体力も尽き、川で休憩していると
「タスケテー、タスケテー」
と大きな声が聞こえた
なんだと思って寄ってみると
そこには自分と似ているけど少し違う毛が長く黒い大きな豚がオリに入っていた
「大丈夫か」
僕はそこから助け出してやった
「大丈夫か」
「ハイ、アリガトウ」
そういって豚の親子は立ち去ろうとした
「まてよ」
「君たちはどこの小屋から逃げ出してきたんだ?」
「コヤ!?」
「コヤカラキテナイ、ココ二スンデイル」
{なんだか聞き取りにくいな}
「ここに?住んでるのか?」
「ソウ、モウイク」
「そうか、さようなら」
「おい」
「うわびっくりした」
茂みから大きな黒い豚が現れた
「君も黒いんだね」
「この辺の豚はみんなそうなのかい?」
「・・・」
「お前は何者だ」
「僕はこの先の養豚所から逃げてきたんだ」
「どうして?」
「食われるからさ」
「・・・」
「信じられるか?ヤスは僕らを食うんだ。あんなに仲良くやっていたのに僕らを食うんだ」
「しかも仲間にそれを話しても、全然話が通じない、世間話でも聞いている感じだ」
「どうなっているんだ」
落胆する僕に黒い豚は
「ここでは人間に見つかるかもしれない、離れよう」
「わかった」
少し聞き取り安い話し方になった黒い豚に僕はついていった
檻から離れたところで
「まず私は豚じゃないイノシシだ」
「イノシシ?」
「そうお前ら豚の祖先にあたる種だ」
「へえ」
「さっきお前は食われるといったな、なぜそれがわかった」
「人間がそう言っていたからさ」
「理解できるのか」
「うん」
人間は僕たちに食べ物をくれる、その時「ほーらたーんと食って大きくなれー」という
食うとは口にものを入れてかみ砕いて飲み込むことだと学んだ
「そんなことされたら僕は死んでしまう」
「人間というのも会話から聞き取ったのか」
「そう、僕を見て「食べごろ」だとヤスは言ったヤスはおしゃべりでね。いろんな言葉を学んだよ」
「そうか・・・」
「そんなにしゃべれる奴はいない」
「そうなの?」
「ああこの山ではおそらくお前と私くらいのものだろう」
「でもさっきの親子はしゃべってたよ」
「あれは私が教えたのさ」
「教えた?」
「そうだつまりは教育だな」
「教育か、、、」
「私の父がそうだった」
「お前と同じ養豚所から逃げ出した豚だった」
「父は賢い豚だった」
「人里に降りては学校というところに行き人の観察をしていた」
「その豚も人の言葉がわかったんだ」
「ああ生まれて数ヶ月でほとんどの人語は話せたらしい」
「父はお前と同じ理由で養豚所を抜け出して山に入った」
「父も言っていたヤスはお人よしだと」
「ほかの人間を知ってからは以前にもましてそういっていたよ」
「ヤスはお人よしだ、そんなんだから俺みたいのができちまったんだって」
「確かにヤスはいいやつだった、ずーっと豚小屋で俺たちに話しかけていた」
「奥さんがなくなってもう長いことになる、それからの話し相手はお前たちだっていってた」
「父も最初は人間を恨んでいた、だけど途中で言ったんだ「これが世の中だって」」
「なにそれ」
「私も最初はよくわからなかった」
「でも最近はその言葉がなんとなくわかる気もしている」
「例えばお前、腹は減ってないか?」
「減ってる」
「何か食いたいだろ」
「食いたい」
「それはみんな私たちと同じものだ」
「生き物だ」
「かわいそうと思うか?」
「思わない」
「そうだろ、人間も同じさ」
「そうか」
「でもなんでここまで俺を育てたんだろ」
「だから食うためだよ」
「うまく食うために食い物をやって育てたんだよ」
「なんでわざわざ育てるんだ?」
「野生、つまり山にいる私たちを捕まえるのは難しいからさ」
「最初から檻に入れておけば、わざわざ山で捕まえることもしなくていい」
「そうか、そのための命だったのか、」
僕はその場から離れようとすっと腰を上げた
「どこに行く?」
「帰る、養豚所に」
「?なぜだ?」
「食われるぞ、食われたら死ぬぞ」
「そうだな」
「死にたいのか」
「死にたいわけじゃない」
「でもその話を聞いていると、僕が逃げたことはなんだか不義理におもう」
「不義理?どうしてだ、お前は好きでそこに生まれたわけじゃないだろ」
「もちろんそうだけど、それは向こうも一緒だろ」
「僕も腹が減ったら食うもん」
「僕を生んだのは母親だけど、母親だって俺に何してほしいってことはなかった」
「その母親に僕を生ませてここまで育ててくれたのはヤスだ、僕は食われるために生まれてきたんだ」
「生きたくないのか?本能でそう思うだろ?」
「そう思って出てきたけど、今の話を聞くと俺にその選択はない気がする」
「生まれた意味があるならそれを果たしたい」
「お前は真の豚だな」
「そうやって役割だけ守って何にも考えずに死んでいけばいいよ!勝手に食われちまえ」
「私は違う」
「私は父との約束を果たす、そのためにこの山の豚を教育し人間より上位な存在になっていずれは人間を飼ってやる」
「そうか、君は野生のイノシシだ、生まれた意味なんかない。だから君の意味は君で決めてもいいかもしれない」
「ちがう、私の勝手で決めたんじゃないこれは父の遺志だ!」
「そうだねでもそのお父さんの遺志に従うか決めてるのは君の意思だろ?」
「!!・・・」
「僕も一緒さヤスの意思を尊重したい」
「・・・そうか、変わったやつだ」
「そうかもしれない、でもこれが僕の意地でもある」
「プッ そうだな」
立ち去ろうとする僕を彼女はもう一度呼び止めた
「おい待て、今夜はもう遅い、明日案内してやるから今日は一泊していけ」
「でもまだ日は沈んでないよ」
「私は父の意思を次いで人間より高位な存在を目指しこれからもこの山で教育を続ける」
「そのためにお前の子種が役に立ちそうだ」
「・・・!」
「どうした?」
「これだから野生の動物は嫌なんだよな、アプローチの仕方とかさぁ」
「何を言っている種豚にもなれなかった劣等遺伝子を私がもらってやろうというのだぞ」
「・・・」
「まんざらでもあるまい」
イノシシの色っぽい毛並みに唾を飲み込みながら、僕は言った。
「・・・所詮は動物か、、、」
イノシシの大笑いを聞きながら僕は観念して本能の家畜となった後、養豚所に戻った。
誉れ高き家畜道 @dantuzidou
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