クラス(職業)がガチャなゲームへ転生した

たま。

第1話

 一体、これはどういう事なのだろうか。

俺は振り上げていた拳を誰かに見られる前に下ろす。

それよりも『アノマリスファンタジア』をプレイしていた筈の俺が何故こんな所にいるのだろうか。


『アノマリスファンタジア』は、いわゆる基本料金無料(Pay2win)の多人数非同期型RPGだ。

マルチプラットフォームが採用されていて自宅ではPC版を外出先ではスマホ版をなんていう遊び方が出来る。

どちらのプラットフォームでも遊べる事が前提なので負荷のかかる3Dは採用されず、2D(ドット絵とイラスト)で表現されている。

基本的にシングルつまり一人用のゲームなのだが、このゲームには戦争という要素があり、そこで他のプレイヤーと対戦する事になる。

勿論、非同期型なので対戦している相手はプレイヤーではなく、ある程度思考設定がされたAIが相手である。

この戦争の戦果が結構大きな報酬なので無課金勢がほとんどいない。

とはいえ、初期投資の後は一切課金しないというプレイヤーが結構いると聞く。

このゲームは少し特殊で全てのキャラがストーリーを進める事で漏れなく入手出来、キャラ自体もレア度が存在しない。


 では、どこに課金要素があるのかというと、それは転職だ。

『アノマリスファンタジア』に出てくる職業(クラス)は、約三百五十種類(さらにアップデートで追加)あり、転職する際にランダムで決定する。

そして、この転職に対して課金が発生する。

当たり前であるが、レア度の高いクラスほど確率が低く設定されており、課金アイテムをより多く投資するほど確率を高くする事が出来る。

だが、注意しないといけないのはレア度の低いクラスはそのままの確率だという事だ。

つまり、中途半端な課金だと高レアの確率が上がったとしても低レアよりもまだ低いという事だ。

具体的な数値を書くと五千円でやっと低レアと同確率になる。

前述で初期投資だけするプレイヤーがいると言ったが、実は主人公の一次転職で今後の展開が大きく変わると言っても過言ではない。

主人公キャラ以外は初期職業が固定されているのだが、主人公だけはあらゆる職業に転職できるのだ。

ここで強クラスを引き当てれば序盤のストーリーが楽になる。

なんせ、主人公は強制戦闘参加なのだから・・・。

それ以外には課金要素はあるが、鍛造は転職とよく似たシステムだしギルドはそこまで重要ではない。


 さて、話を戻そう。

俺は『アノマリスファンタジア』をプレイしていた最中で主人公である『レーナス(変更可)』をギルドにて転生転職ガチャで一次職『ソードワーカー』を引き「よっしゃ、ユニークレア職GET!!」と拳を振り上げたところで冒頭に戻る訳だ。

あ、転生転職というのは五回目の転職の事で四次転職した後レベルをMAXにする事で出来る転職の事。

レベルが初期化し初期職業が一次転職の職業へと入れ替わる事で五次転職が解禁される。

『ソードワーカー』は、ユニークレア職業で八千円分ほど課金して引き当てた。

まぁ、引き当てたと言っても結局は確率の問題なので例え八千円課金してもノーマルになる可能性もあった。

ちなみにユニークレアはレア度的に上から二つ目にあたる。

でだ。 今現在、見ている画面が『アノマリスファンタジア』だと仮定した場合、どう見てもVRいや現実に匹敵するほど超リアルな訳だ。

そして、いる場所、ギルドにいた筈なのにどう見ても裏路地で人っ子一人いない。

そもそも俺は誰だ?

周りを見渡すが、感覚的に一人称視点で見ている感じで当然だが顔が見えない。

装備は、地味な布の服、手袋や靴は皮製の様だがあまり良い素材ではない。

てか、どう見ても初期装備じゃねぇか。

武器は? 武器は腰のベルトに二振りの素朴な剣が交差する様に釣り下がっている。

二刀流? いや、確かに二刀流のキャラはいるが、あれは女キャラだったし、剣も鎧ももっと豪華だった。

じゃあ、俺は誰なのだ?

ていうか、そもそも初期装備の可能性があるのは、転生したての主人公である『レーナス』だけだ。

つまり、今の俺は『レーナス』という事になる。 多分。

『レーナス』と仮定して何故ギルドにいないのだ?


「仕方ない。 表通りに出るか・・・!?」


 この声・・・、レーナスの声で間違いない。

ここ最近、人気の男性声優で約半年ずっとスピーカーから聞いていた声だ。

余談であるが主人公であるレーナスは、就く職業によって性格と声質が変わって行く。

取り合えず、ここにいても仕方がない。

俺は表通りがあると思われる灯りがある方向へ歩き出す。


「よう兄ちゃん。 有り金全部出しな」


 まぁ、当然といえば当然か、こんな暗がりにある路地裏でこういう輩に出会うのは必然と言っていい。

声を掛けてきたガラの悪い男とは別に後ろにも二人ほどの気配がある。

視線だけ後ろに移すとヒョロい男と小太りの男、何れもガラが良いとは言いづらい二人だ。

三人とも手入れの行き届いていない所々錆付いた短剣を手に持っている。


「ん?」


 どこかで見たチンピラだと思ったら『アノマリスファンタジア』の戦闘チュートリアルに出てくる人攫いの背格好に凄く似ている。

とは言え、背格好だけで状況は結構違う。

本来は、初期職業『ニート』でさらわれた幼馴染を助ける為になけなしの勇気を振り絞って人攫いと戦う。

そして、この戦闘(チュートリアル)では絶対に勝てず必ず負け、この出来事の後に主人公は強くなろうと決意する。

しかし、幼馴染がおらず人攫いではなくチンピラ、レーナスの職業も『ニート』ではなく『ソードワーカー』だ。

勝てる、かも知れない。


「聞こえねぇのか? 金を出せってんだよ」


 だが、待って欲しい。

ここはゲームの世界ではなく現実だ。

剣なんぞ使った事がないし、使ってもまともな攻撃が出来るとは思えない。

そもそも『ソードワーカー』ってどんな職業なんだ?


【UR】ソードワーカー

戦闘タイプ◆物理系魔法職

成長タイプ◆魔法

クラス説明◆通称『操剣師』

      魔力にて剣を自在に操る魔術師。

  剣の様に振るうのは勿論、矢の様に射出する事も出来る。

      魔術師ながら革製武具も装備出来る。

スキル一覧◆魔力+ P (1)レベルが上がると本来とは別に魔力が+1される。

     ◆射出・前 A(1)二本の剣を矢の様に前方直線状に放つ。

     ◆パリィ A (1)前方からのあらゆる物理攻撃を弾く。

     ◆幻影剣 EX (1)いずれ到達するであろう操剣師の極致の一端。

 ◆回天 A  (5)体を中心に剣を横回転させ薙ぎ払う。

     ◆射出・時 A(8)予め剣を射出し時間を置いて相手に命中させる。

     ◆交差斬り A(10)二振りの剣による近接攻撃。 アンデットに有効

     ◆環境利用 P(10)スキル強化。周辺に落ちている剣を一時利用可能。

     ◆一閃一射 A(12)一本は近接攻撃、もう一本は射出で攻撃。

     ◆乱れ射ち A(15)環境利用が出来る状況でのみ可。

              前方直線状へ複数の剣による連続射出。

     ◆茨の剣 A (18)環境利用が出来る状況でのみ可。

              あらゆる方向から敵一体に対しての連続射出。

     ◆パリィ P (20)環境利用が出来る状況でのみ可。

              意識せずとも前方からのあらゆる物理攻撃を弾く。



 ゲーム画面の様なものが頭の隅に思い浮かぶ。

書かれている説明とクラスイラストで大体だがこの職業の事は分った。

後はどう使うか、だ。

ちなみにAはアクティブ、Pはパッシブ、EXは超必殺技の意味だ。

そして、現在俺のレベルは1であるから使えるスキルは四つとなる。


「何だビビってんのか? 仕方ねぇな。 殺してから金を頂くとするか」


 前方の男は短剣を構え、俺目掛けて突撃をしてくる。

攻撃は直線的で単調、しかし、俺はどう動けば良いのか分らず硬直していた。

しかし、脳裏に一瞬だがスキルの使い方が浮かぶ。

(パリィ!!)

心の中でそう叫ぶと、腰のベルトに吊り下げられていた二本の剣は、手にする事なく鞘から自然と抜け男の持つ短剣を払いのける。


「なっ!?」


 男が弾かれて飛んだ短剣を拾いなおし、俺の方を向いた瞬間に表情が硬直する。

その気持ちは分らないでもない。 なんせ、二本の剣が俺を守るように空中に浮遊しているのだから。

男が硬直して動かないのは好機と、俺は右手を前方へ突き出し手の平を男へ向ける。

剣先を下にして浮遊していた剣は、俺の意思に反映するかの様に剣先が目の前の男に向けられる。

(射出!)

二本の剣に命が吹き込まれたかの様に男目掛けて飛翔する。

そして、大した距離もなかった事から二本の剣は男の胸に深々と突き刺さった。


「ぐぁ・・・」


 後ろから二人の気配が迫ってくる。

俺は咄嗟に視線と腕を後方へ伸ばし、二人を視界に入れる。

二人はほぼ同時に俺へと斬り掛かっていた。

(射出!)

本来、射出は敵一体にしか攻撃出来ない(正確には正面真っ直ぐにしか飛ばせない)スキルなのだが、何故か二人同時に相手にしても対処出来ると何故か確信できた。

二本の剣は、ガリとデブにそれぞれ突き刺さり、二人を戦闘不能へと陥るが正面にいた男と違い死んでいない。


「ガッ」

「ひぎィ」


 伸ばしていた腕を戻すと二人に突き刺さっていた剣は、体から離れ軽く血振りした後に鞘へと収まった。


「勝った・・・」


 ハハッやれば出来るじゃないか・・・。


「ふぅ」


 初めての戦闘で勝利もした・・・、それなのに右手が震えて止まらない。

左手で右手首を押さえるが一向に震えが止まらない。


「ほぅ・・・助太刀の必要はなかったみたいだな」

「え」


 聞いた事のある声、いやレーナスの声と同じで半年以上も聞きなれていた声・・・。


「アリステル・・・」


 顔を上げる。

イラストとドット絵でしか見た事がなかったが、予想以上に綺麗な顔立ちでモデルの様な女性だ。

リアルになるとこのような顔立ちになるのかと俺は納得する。


「私の事を知っているのか?」

「え、ああ、まぁ、この街で貴方の事を知らない人はいないですよ」


 ゲームの知識です、とは言えないので設定に書いてあった事を思い出し答えた。

それよりも何故彼女がここにいるのだろう。

彼女の登場は二年後になる筈、確かにこの時点での彼女の居場所はゲームでは描かれていないけれど予想外過ぎる。


「さて、騒ぎになる前にここから離れようではないか」

「あ、はい」


 俺はアリステルの後を付いていく様に裏路地から出て表通りを歩いていく。


「どこへ向かうのですか?」

「冒険者組合だ」


★★★


 この街一番の大きさがある建物の一階が酒場、二階が冒険者組合、三・四階が宿屋となっている。

彼女に連れられて来た場所は、二階ではなく一階の酒場だった。

ここには多くの冒険者がおり飲食の他に情報交換の場として機能している。

流石、有名人である彼女が店に入ると中にいた冒険者の視線が集まる。

また、その彼女が連れ立って来た俺にも視線が集まる。

彼女はそんな視線を物ともせずに空いている席を見付け、そこへ座りウエイトレスに適当な料理を頼んだ。


「では、自己紹介でもしようか。

私は、キミも知っている様にアリステルという。

Dランク冒険者だ」


 この街で知らない人はいない程の有名人にも関わらず、SSランクまである冒険者ランクでDという低ランクにいる理由は、ただ単に昇級試験を頑なに受けない所為らしい。

ちなみに、この事は本人から聞いた話ではなくゲームでの設定だ。

Dランクまでは登録した街及びその周辺の依頼しか受けなくても良い上に長期間依頼を達成していなくても冒険者ランクが下がる事がない。

実力的に言えばBランクほどあってもおかしくはない。


「レーナスです」

「やはり、冒険者ではないのだな」

「はい」

「いくら相手が犯罪者でも許可のある者や冒険者以外が人を殺せば罪となる。 知っているな?」

「・・・はい」


 ゲームでは、結局ボコられてしまう訳だが、主人公が人攫いとはいえ殺すのを覚悟で襲う際に葛藤している表現があった。

犯罪者になってしまうけれど幼馴染は助けたい・・・と、その事から大体、察しがついていた。


「そこで騒ぎになる前に冒険者になってしまえば罪にならない。 そう思わないか?」

「え」

「あの戦いを見ていた者は、私を含めて数名だ。 捜査の手がキミに行き着くまで少し時間があるだろう」


 そう彼女が言うと同時に「おまたせしましたぁ」とウエイトレスが料理を机に並べていく。


「さて、まずは食事だ。 私のおごりだから遠慮せず食べてくれ給え」

「はぁ、頂きます」

「うむ」


★★★

 

「冒険者組合にようこそ。 依頼申請でしょうか?」

「いや、冒険者登録だ」


 アリステルに昼をご馳走になり、そのまま二階にある冒険者組合へと向かった。

冒険者タグを首に下げていなかった俺を受付のお姉さんは、依頼をする方だと勘違いしたが即座にアリステルが否定した。


「あら、アリステルさん。 お久しぶりですね」

「うむ。 こやつは私の知り合いでな。 冒険者になりたい様なので連れて来た」

「そうですか。 でしたら、こちらの席に座ってお待ち下さい」

「あ、はい」


 受付のお姉さんと丁度カウンターを挟んだ反対側の椅子へと座る。

座ってしばらくの間、お姉さんはカウンター裏で何やら準備をしており俺の視界から消えている。


「それでは登録作業に入ります。 この水晶に右手を乗せて下さい。 左手はこちらに」


 言われた通り水晶の上に右手を乗せ、左手はカウンターの上に置いてある羊皮紙の上へ乗せる。


「少しだけ気だるく感じる事はありますが心配しないで下さい」


 その言葉とほぼ同時に一瞬だけ体から力が抜ける様な感覚がした。


「はい、OKです」


 俺は水晶と羊皮紙に乗せていた手をどけると受付のお姉さんは羊皮紙を裏返した。

どうやら、その羊皮紙には俺のデータが書き込まれている様だ。


「えーと、お名前はレーナスさんと・・・、平民でクラスはソードワーカー? レベルは・・・1、ギルドはなしと」

「!」


 転職した直後に路地裏にいた事から薄々はそうではないかと思っていたが、

やはり俺の冒険者ギルド”蒼天焔武そうてんえんぶ”は無くなっている様だ。

レーナスやその仲間達のアイテム倉庫と転職時以外はあまり使っていなかったとは言え、いざ無くなってしまうと残念で仕方がない。


「どうしました?」

「いえ」

「少し聞きたいのだが、ソードワーカーとはどういうクラスなんだ?」


 突然、って事もないが後ろにいたアリステルさんが疑問を口にした。


「さぁ、長い間、受付をしていますが私も始めて見ました」

「ああ、こう見えても俺、魔術師なんですよ」

「魔術師、だと!?」

「魔術師・・・あ、思い出しました。

隣国にお年を召しておられますがブレードワーカーというクラスの宮廷魔術師がおられますね。

それと十年前に冒険者を引退されましたが、マスケットワーカーというクラスの方がいました」

「いまいち分らん。 それは結局どういうクラスなんだ?」

「大変珍しい職業系統で私どもは物理系魔術師と呼んでいまして、魔力で道具や武器を間接的に操る魔術師の事です」

「ほう、面白いな。 私はてっきり同業者だと思っていたのだが・・・」

「アリステルさんのダブルソード(双剣士)もなかなかレアなんですけどね。

では、レーナスさん、これが登録カードと冒険者タグです。

二つとも常時所持して頂くのは勿論の事なのですが、冒険者タグの方は常に見える様にしておいて下さい」


 冒険者タグ、冒険者全員が首から提げており、各キャラの固定装備としてゲーム画面にも登場している。

逆に登録カードは、ゲームに登場していない。


「タグは、身分証明や通行手形としての役割があってな。 これを首に提げておくと色々と手続きがスムーズになる」

「カードの方は?」

「あまり深く考えなくても良いが常に携帯し失くさぬ様にな。 必要時に私が教えるさ」

「では、次に組合の仕組みなどの説明に入りますがどうしますか?」

「いい。 後は私が追々説明する」

「分りました。 では、レーナスさん、我ら冒険者組合はあなたの加入を歓迎します」

「ではな」


 受付のお姉さんに軽く手をあげ挨拶するとアリステルさんは踵を返して階段に向かう。

俺は軽く会釈した後、アリステルさんの後を追う。


「さて、レーナスくん」

「はい?」

「もし、キミさえ良ければ私と共に世界を見て回らないか?」

「良いのですか? こちらこそお願いします」

「ふむ。 では、まずキミのランクを上げる事から始めよう」

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