第118話 副ギルドマスター

おまたせしました。

本日は2話お送りします。

……………………………………


「ところでラウラさんって誰?」


 宿に着き、荷物をまとめているところで、魔王ウィルとの通信で上がった名前が気になった。


「ラウラ姉さんはお城でお世話になったメイドの人よ。私と兄さんはリアリーさん達以外にもアルファルドさんを含めた宮廷魔術師の人たちにもお世話になってたから」


「久しぶりに会いたいな」とこぼすナナイを見てると、イイ出会いだったんだなとホッコリする。美人さんかなと思うとオレもホッコリする。ナバルは相変わらずのしかめっ面だ。

 宿を出払い港で船に乗り込むオレ達。桟橋でナバルとテリオが何か飲んでた。


「ソレ何だニャ?ンまいのかニャ?」


「「ぐぇ〜マズい〜。」」


「やっぱりいいニャ」


 速攻でまわれ右するホルンへ悲しそうな顔をするナバル。酔止めの改良は失敗したらしい。



『出港するぞぉ!』


 船乗りが忙しなく動く中、凹むナバルをガン無視してオレたちは乗り込んだ。


……

………



「あれ?この書類はコレで良いんだっけ?」


「ええ、あとは私どもが処理いたしますわ」


「ありがとうリリンさん。ギルドに貴女のような方がいてくれて本当に助かるよ」



「ゾラ、鼻を伸ばしてるヒマがあったら次にうつりなさい」


「ゲェ!!姉上!!」



 はじめまして。

ゾラ・チェザーリオと申します。

副ギルドマスターをやってます。姉上の命令で(泣)


 ボクたちエルフは本来、森の王国、って言っても物騒な魔の森じゃなくて別の神聖な森ね。そこでは森の番人をするのが普通なんだけど、たまに森から出てる人たちもいるんだよ。

 ちなみにボクと姉上はワケアリで。

 と、言っても大したことじゃないんだけど。

 ボクらの国にかなりヤバイ事件が起きたんだ。多数の悪魔を召喚して王国の乗っ取りを画策したバカがいたんだよね。でも呼ばれた悪魔のうちの一体の裏切りで事件は沈静化された。悪魔の生贄にされる筈だった姉上は何故かその裏切りの悪魔と駆け落ち、慌てた親父殿たちがボクを追跡者に任命、結果ボクは姉上に見つかりフルボッコ…にされるはずが義理の兄(悪魔)に助けられ、ここ魔王都ギルドランで冒険者を始めたんだ。

 冒険者家業は楽しかったよ。初めてできた他種族の仲間たちとの探索は新しい発見の毎日で、それが終わってからの宴も格別だった。

 故郷の生活も、決して不自由では無かった。木々の管理も魔獣の間引きも大切な役目だったしやり甲斐もあった。でも、ふと思うときがある。この森の先には何があるんだろうかと。だから姉上の捜索は渡りに船と言えなくもないんだ。

 以前、そんな話を魔王都まちで仲良くなった小グマ君に話したら…


『姉に勝てる弟はいねぇんだな…』


 と涙ながらに言われたよ。ボクも涙が止まらなかったな…。


 いけないいけない。話がそれたね。

 で、のびのびと冒険者家業を楽しんでたら、ある日姉上から呼び出しを受けたんだ。嫌な予感はしたけど居留守を決め込むわけにもいかない。ボクはまだ死にたくないんだ。愛する妻も出来たばかりなのに…。


「な、何事ですか姉上」


「ついて来なさい」


 いちもにもなく先を進む姉上。すれ違うギルド職員の道をゆずる速度が早いと感じるのは気のせいだろうか?

 着いたのは執務室?よく読む前に姉上がノックし中に入る。すると懐かしい顔が笑顔で出迎えてくれた。


「やあゾラ君、久しぶりですね」


義兄上あにうえ?!」


 いや、義兄あにのベルゼイ殿がギルドマスターなのは知っていたさ。ただ僕を呼び出したのがその義兄だとは思わなかっただけで。

 久しぶりに見る義兄は、随分と疲れているように感じた。まぁ元から青い肌だから初見の人にはわからないだろうけど。進められるままに向かいのソファーに座ると姉上がお茶を差し出してくれた。この執務室には簡単な茶器があるのか?…あ、アレ最新のセットだ。


「急に呼び出してすみませんねゾラ君」


「いえいえ、義兄上あにうえにあえて僕も嬉しいですよ」


 そう返しカップに口をつける。うぉ!これメッチャ美味い!


「単刀直入に言いますと、君に『副ギルドマスター』をお願いしたいんですよ」


「!?w▽dr□ftg◇ylp!!」


スパン!!


 吹き出しそうになった僕の口を銀のハリセン(最近ボードゥさんの店で売り出された意味不明の武器??)

でシバかれお茶が膝に思いっきり跳ね返る。まさに鬼畜の所業だ。

 何するんだと諸悪の根源の姉に抗議の目を向けると姉特有の 冷血な視線ブリザード・アイ を向けられバッキリと心が折れた。モウヤダ、オウチカエリタイ。


「…どうぞ」


「…ありがとうございます」


 すっとフキンを差し出す義兄。悲しそうな顔を向ける義兄に切なくなった。

 「実は私、近々、しばらくの間魔王都ギルドランを離れることになりましてね、その代理を立てる必要が出来ましてね、当初の予定だった副役職を導入しようかと思った次第なんですよ」


「…なんで僕なんです?それこそ実力、顔の広さを考えても『ウィルさん』がうってつけじゃないですか」


「あ〜、彼はダメですね。『遊び人』ですし」


「…あんな勤勉な『遊び人』はいないでしょうに…」


 僕の返しに目をそらす義兄。このまま逃げ切れるかと思った矢先、姉上悪魔が逃げ場をさえぎった。


「ゾラ、貴方は『次期族長』でもあるのですよ。それが何時までもフラフラしていてはお父様に何と報告するつもりですか!」


「いや!元々は姉上を追って…」


ギロッ!!


「ごめんなさいゴメンナサイナンデモアリマセン…」


 怖ぇーーーー!

 姉上マジで視線だけで相手れるんでね?


……


 まあ、あんなこんなで結局引き受ける事になったんだけどね。その事をうちの嫁さんに話したら…。


『凄いねゾラ君!

ギルマスは普段は優しいけど決して身内に甘いとかは無い人なんだよ!そんな人からお願いされるなんて日頃の行いが良いからだね!』


 って言われて気分良くなったからでは無いよ。ホントだよ。あ、うちの奥さんはね、魔王都こっちで出会ったドワーフの娘なんだ。最初に組んだパーティーメンバーで(以後省略)…あれ?変な声が聞こえた気が…


……

………



「ぶぇーーっくしょん!」


「トランばっちいニャ」


「わりいわりい、『チーン!』

…ふぅ





なんだろ?ラブコメ臭ぇなぁ」


「どんな匂いだよ!」


 ボーっと海を見てたら急にキタね。オレの予感にツッコミをかますナバル君。酔い止めは効いたらしい。成功じゃん、やったね。そう言ってやったらテリオが渋い顔してた。


「クソ不味くて失敗だったら罰ゲームだぜ。な!」


「作った本人に同意求めんなよ。でもアレじゃね?トランが予感したってのはゾラさんあたりかもな」


 不機嫌全開で答えるナバル。だがその後の言葉は同意できないね。ゾラ君とは一言で言ってしまうと『残念イケメンエルフ』なわけよ。

 彼と出会ったのは、ここにいるバカテリオがべヘモスに追い回されてた頃だから随分と昔に感じるね。

 戦闘になるとキリッとしてるけど普段はわりとヘタレなエルフ君。ギルマスの奥さんのエリナさんとは実の姉弟なんだとか。


「なんでそこでゾラ君が出てくるかはわからんが彼はヘタレよ?ラブコメとは最も縁のない子に失礼でしょ」


「お前の方が失礼だろが。だってあの人…

……

………

あー、そうだな。彼は関係ないか」


 何か言いかけて考え込んだと思ったら目をそらし話を打ち切るナバル君。

ハハハ、まさかね。



………………………………






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