第117話 招集と知らせ

 「(おいクマ公、ナバルのやつピリピリしてね?お前何したんだよ!謝っとけよ)」


「(おいコラ!オレが悪い前提で話すんじゃないよ!なんかしたのはお前だろ!謝っとけ!)」


 ギルドへ向かう道すがら、前を歩くナバルの尋常じゃない空気(殺気の一歩手前)にさすがのオレたちも茶化す気が起きるわけもなく静かに続く。

 正直な話、心当たりもないわけで…



 今より少し前、ナナイ達と合流したオレらは宿へと戻った。そしたら一息つく前にギルドからすぐに来てくれって連絡があったんだよね。完成した新ギルド【冒険者ギルド獣王国フェルヴォーレ支部】の建物が気になってたから丁度良かったよ。

 どんな建物かワクワクしながら向かうオレ達。ホルンと予想しながら歩いていると、やはり気になるのはナバルである。思い返してみれば…。


・買い出しとナンパ(撃沈)


・武具屋で服と鎧の新調

 (ナバルに【あのバトルスーツ】は買わせてる)


獣王国フェルヴォーレ名産の酒を発見。ナバル動かなくなる。


・引き剥がして街道に戻るとテリオがフられてた(意味不明)


・匂いに釣られて豆菓子を発見。大袋を購入


・女神(豹獣人のレレイさん)との再会、オレ歓喜


・ホルンに豆を強奪される。(なんで?)


・ナバル海岸に向かい意味深く睨みつけてる。



…うん。よく分からんね。

隣でギャーギャーわめくテリオに

「目ぇ離したすきにフられてんじゃないよ」

 とチクリと刺すと(テリオ痛恨の一撃)、

「いや、別にフられてたわけじゃ…」

 と目を泳がせてどもりだした。

 フン、つまらぬものを斬ってしまった。と、アホやってるうちに冒険者ギルド獣王国フェルヴォーレ支部が見えてきた。


「何あれ?どこぞの競技場?コロッセオ??」


 でたらめにデカかった。野球場のドームとどっちがデカイんだろう…それくらいデカイ建造物の正門をくぐるオレたち。ホルンとナナイの目も輝いている。


「スゴいニャ!かっこいいニャ!」


「アレは海竜の骨?そのままの素材をただの柱じゃなくてインテリアとして成り立たせてる。

魔王都ギルドランとは、また違った特徴があって素敵ね」


ホルンが感動しナナイが説明したように確かにカッケェ。例えるなら【海の世界のアトラクション】風で、それが自然に溶け込んでいるのはさすがと思う。

 獣王国フェルヴォーレのギルドは魔獣素材をふんだんに使った南国風、魔王都ギルドランは魔力をふんだんに吸って黒く変色した【魔木】でチョイとお洒落なアンティーク調の木造建築。

(木と侮るなかれ。下手な鉄より硬く折れにくい化物バケモノ素材なのだ。欠点はクソ重い)

 そうすると龍王境ローゼンハイトって所がどんなとこか気になるね。山脈に沿ってるらしいから岩盤建築?建物の内装に見惚れていると何故かドヤ顔のテリオか語り始める。


「そうだろ。でも凄いのは見た目だけじゃないんだぜ。入って直ぐは受付、酒場のホール。裏の海岸側はクラーケンでも解体バラせるほどに広い解体場。陸地側には上級魔法でも耐えられる訓練場があるんだ」


「そりゃデカくなるな」


「チッチッチッ、これでスゲェとか甘いな小グマ」


 テリオコイツ殴って良い?


「女性冒険者にも優しい水栓設備が目玉なんだぜ」


「んん!?それってトイレが水洗トイレでシャワー設備もあるってことか?」


「おうよ。それも汚物を直で流さないよう【分解の陣】を魔王都ギルドランから輸入したって気合の入れようよ」


「そりゃスゲぇ」


【分解の陣】ってのは大きさは手のひらサイズのボックスのことね。左右が吹き抜けになってて、特定の物質が通過すると文字通り『分子分解』されるってヤベェシロモノ。あのぼんやり軍団の魔王都ギルドランでも輸出規制されてる代物で、術式もブラックボックス化されてて解体できないようになってる。兵器転用とかされた日には悪夢だからね。開発に関わってるのはオレたちのバァちゃんと魔導師のホネのオッチャンなんだと。オレは会ったこと無いのに懐かしさを感じるあたり疲れているのかもしれない。キレイなオネェさんに慰められたい。


「ん?!…今イラッと来たニャ」


「!!」


 …バカなことを考えるのはやめよう。ギルドマスターの部屋に入ってみれば獣王国フェルヴォーレのギルマスの隣に獣王おっさんが座って待ってた。


「あれ?オッチャンもいたの?」


「ご挨拶だなクマ公。まあ、そのへんも含め当人に説明してもらった方が早えだろ」


 そう言い促された先には魔導通信機だった。あれ?ランプがついてるってことは既に誰かと通話中か?と通信機に釘付けになってると、ナバルが張り詰めた声で「魔王ウィルか?」と言ってきた。まぁ、獣王オッサンがここにいる時点で異常事態だ。…異常事態か?ひまだから来たんじゃね?と思わなくもないからなぁ。


「察しがいいな」


 張りつめた空気で返す獣王オッサン。あ、コレ異常事態の方だわ。声色に真剣さが滲み出てるもん。マジメモードでいくからどうぞヨロシク。


「サボりキングズが雁首がんくびそろえてなんの相談よ。いい加減にしないとリアリーさんやゼノンさんにマジギレされるよ?キミたち」


『いきなりヒデェ』


「俺はそこまでサボってねぇぞ!」


『は?!まさかの裏切り?』


「いきなり脱線してるぞ」


 内輪もめを起こす問題王サボりキングズを戒めるナバル。その声に僅かばかりの緊張感を感じたのか2人はおとなしくなった。


「ナバル、何かあった?」


「あ…いや、ワリイ」


 思わず声をかけるも動揺を見せるナバル。ホント珍しいね。


『端的に説明するね。ギルドからは本来、獣王国そこを出てからラウラ君たちと合流して、それから龍王境ローゼンハイトに向かってもらうはずだったんだけどね。マズいことになっちゃって急遽、予定変更する事になったんだよ』


「ギルマスじゃなくて魔王ウィルが話してるのも関係アリと?」


『それもあるんだけど、ギルマスベルゼイは10日前くらいに既にここを離れちゃって今は連絡つかないのよね』


「本人が出ちゃったの?どこに行ったのよ責任者」


龍王境ローゼンハイトへの玄関口の港町【ノークロス】って所に旅立ったよ。なんかきな臭い事になったから直接動くんだってさ。そのまま龍王境ローゼンハイトに行くようなこと言ってたよ』


「あちゃー。タイミング悪いなぁ」

 でもギルマス自身が動くって何があったんだ?さっぱりわかんねぇや。


『そうそう、コレ魔王都ギルドランからの正式依頼として頼むんだけどね、君たちにはアルセイム王国の北部、フォクロス領と王都と魔の森の隣接してるところに小さな村があるんだけどさ、今そこで防衛体制をしいてるんだけど、そこへ増援に向かってほしいんだよね』


「戦争…なわけねぇな。ってことは魔物か?」


『ウチの情報部がね、何百年ぶりかの魔獣震群デモニック・クエイカーを観測してさ、すでにミリーが現地入りしてるらしいんだけど、明らかに人手不足だから助けてあげてほしいんだよ』


 魔獣震群デモニック・クエイカー

無数の魔物の群れ。群れと言っても10や100じゃきかない、数百単位の大軍勢の事ね。テレビでイナゴの大群が災害として映し出されてるのを見たことあるかな?あれの魔獣バージョンね。シャレにならん、下手すりゃ国が滅ぶぞマジで。


「おいおい、ヤベェじゃねぇかよ。でも距離でいったらそっちのほうが近いよね?援軍出さないの?」


『それが今魔王都ギルドランもヤバくってさ、東側は魔獣震群デモニック・クエイカーの余波、で、西側も古参の魔獣たちが活発化し始めてて魔獣が森の外に出ないように防衛体制しいたり注意をひきつけたりで下手に森の外に出れないのよ』


「…最悪じゃねぇかよ。定期的な狩りじゃ間引きにならなかったのか…?でも普段から結構な数をさばいてるよなぁ…??

 ところでミリーって誰?」


『あれ?知らない?

ミリエル・ディア・アースハイト。

君たちの【姉弟子】に当たるんだけど』


「「「…そんな人がいたのね…」」」


『とにかく、君たちは現地に急行してほしいのさ。獣王国フェルヴォーレからは最速の馬車をお願いしたわけね』


「兄じゃよぉ、俺らからも多少は出すぜ?

 魔獣震群デモニック・クエイカーなら大事なのは手数だろ?」


『ぶっちゃけそれも考えたけど、そっちの防衛を削るのは怖い、あのクソ女神が何をしてくるかわからないから。

 そっちはそっちで防衛体制を整えて欲しいんだよね。終わっただろうと思わせて ズドン! はあり得るし』


「今更襲うメリットはねぇと思うんだがなぁ」


クソ女神アイツにすれば、僕ら三厄の王マルムレクスそのものが邪魔だろうからね。油断は禁物だよ』


「なるほどな。じゃあ【馬車あし】の手配は任せてくれよ。最速で送り届けてやるさ」


『頼むよガウニス。トラン君たちも頼むね』


「あいよ。速攻で素材と金に変えてやるよ」


 そうして通信を終えるとオレ達は早速、旅立つために準備を始めた。

 最後尾を歩いていたナバルが、

「…さっきからザワついていたのは魔獣震群これがあるからか?」

なんて言い出した。


「虫の知らせって奴か?まあ、ナナイとナバルの魔法で数は削れるだろ?大物はオレやホルンが遊撃で潰すから苦戦はしねぇさ」


「そう…だよな」


 そう自身に納得させるナバルの顔は終始、晴れることはなかった。



「じゃあリアリー君、僕らも行こうか」


「はい」


「エリナ君、あとはよろしくね」


「かしこまりました陛下。

どうかご武運を」


 部屋を出ようとした時だった。廊下が騒がしくなったかと思えば職員の一人がノックと共に入ってくる。


「何事ですか!騒々しい!」


「す、すみません!

た、た、大変です!オルレンのデルマイユ邸が襲撃を受け、護衛のリリオ氏3名が重傷で運び込まれました!」


 ギョッとする3人。追撃するように後ろからコルネが走ってきた。


「ウィル!大変なの!

アイリお姉ちゃんがユーカイされたの!!」





……………

おまたせして、すみませんでした。

楽しんでいただけるよう頑張ります。

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