第110話 鼓動
「…疲れた。もうヤダ。働きたくない」
魔王城の一室の空間が揺らぐ。次元の
「陛下、
「違った。…デュークから、まだ報告が上がってないことから巧妙に隠してきたんだろうねぇ。人間の魂と精霊を融合された『半キメラ』に、これまた濃密な悪意の『呪詛付き』。ここまでグチャグチャにされると分離も大変だよ。それが何人も。
かわいそすぎるから放ってはおけないし、そもそも
肩を回しながら、ため息をつきお茶を一口。「生き返るぅ〜」とこぼす魔王に優しく微笑むリアリーは「そういえば」と言葉を重ねた。
「書面でデューク様から報告が上がってきましたよ。恐らく関係あるかと。発見者はラウラだそうです」
「ラウラちゃん…確か『聖都アクア』が担当だったね。…こりゃやられたな。しかも『正規の手順』の召喚じゃない。最低な手段で引きずり込んだか。呼ばれた者達ももうマトモでは無いね。完全に後手か」
書類を片手にサッと目を通す魔王。「おかわりちょうだい」と差し出すその手がピタリと止まった。カップに注ぐリアリーは「どうなさいました?」と問うと魔王はポツリとこぼした。
「『不動なる者』か。呪詛の完全防御とは驚いたな。ラウラちゃんたちは今どのへんだろ?」
「まだ聖国から出てはいないかと。
それと別件ですがナバル君たちを
「うーん。何とか合流出来るかな?」
「そうですね…ナバル君とナナイさんはラウラと面識もありますし、タイミング的にもギリギリでしょうか」
「合流地点を割り出したらラウラちゃんに伝えてくれる?異世界人の少年、
「かしこまりました」
「それと…こっちの1枚目、ガドとアルファルド君、それと長老会にまわしてくれる?事件のことは知らせときたいから。キャリィとギルドには僕が直接行くよ」
「かしこまりました」
退出するリアリーの背中を見送ると、聖国へと視線を向ける。
「…誰だ。完成された召喚の義を敢えて変えたのは」
ヴィレントが抱く不安は晴れることなく、淀んだ泥のような気持ち悪さだけが残った。
…
……
………
「…という手筈だ。ここまでで質問はあるか」
薄暗い倉庫の中、数人の武装した男たちが緊張した顔を向け合い密談を交わす。その外れに1人、木箱に腰掛け大きな
「…なんだ」
「目標の本隊は移動中なんだろ?その割には大掛かりすぎねぇか?」
他のメンバーが睨みつける中、リーダー格の男だけは油断なく対応する。彼は気づいていたのだ。
このだらけきった男が、この中で一番強いことを。依頼主が何処からか手配したのが凄腕の怪物であることを。
「貴殿の言うことは最もだ。ここに居るのは、いづれも腕に覚えるものばかりだからな。だが、敵も相当に侮れんのだよ」
「へぇ…」
質問した男は、何処か意味有りげに目を細める。その視線にゾワリと背筋を震わせるも、そんな事をおくびにも出さずリーダー格の男は語る。
「何しろ標的の警護には、あの『
男たちに緊張が走る。予め聞いていたのだろう、ここで騒ぐものは一人もいない。だが、
「ヒュー!
…じゃあよぉ、計画が成功しても失敗しても『罪には問われない』って事で良いんだよなぁ?」
「当然だ。これからは時代が変わり『新時代の幕開け』となる。これから我らが叩くのは逆賊の徒、魔族と繋がりのある者たちだ。故に正当性が認められるだろう」
さも当然と宣言するリーダー格。心なしか周りの男たちにも安堵の表情が見て取れた。そんな彼らを面白そうに見ながら男は続けた。
「じゃぁ…こん中から “イモひく” バカは居ねぇんだな?」
「当然だな。ここにいる者は全員が
「クックッ、OK!そいつを聞けて安心したぜ」
木箱から飛び降り槍をかつぐ男。ヒュンヒュンと回す槍を見て何人かが気づいた顔を上げる。それを打ち消すようにリーダー格が前に出る。
「これより作戦を開始する!」
ザッ!と傭兵たちは散開、呑気な男も続こうとしたところでリーダー格が声をかけた。
「…問題無いとは思うが…味方の被害は出さないでくれると助かる」
「オイオイ、俺はそんなヘマこかないぜ?」
困った顔をする男に「そうではなく…」と続けるリーダー格。
「この中でも貴殿は強すぎるのでな。
そなたにとって少しのつもりが我らには大規模になりかねんのだよ。
伝説の冒険者
“四天王” ヴィルディ・カイザック殿」
正体を看破したリーダー格にニヤリと凶悪な笑顔で返すヴィルディ。「なるべく気をつけるさ」と、何処か心残りの残る言葉を残し立ち去った。
………………………………
おかしい。調子いいぞ自分。
ここまで読んで下さりありがとうございました。
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