第103話 共闘

大変おまたせしました


………………………


「先ほどは部下を助けていただき感謝する。」


 そう言って頭を軽く下げる貴族の男。

 不動に見えるカースだが、内心かなり驚いていた。

 黒装束に導かれ辿たどりついた場所は、なんとここフォクロス領の当主の屋敷であった。しかも声をかけてきた黒装束こそが、この館の主なのだからカースが面食らうのも無理からぬことであった。


「改めて挨拶させていただく。

俺はフェイル・ミタ・フォクロス。

 ここフォクロス辺境伯領の当主だ」


 そう名乗る辺境伯をカースはつぶさに観察した。さりげない所作、眼球の動き、佇まい。痩せ型のためか目立ちはしないが見る人が見ればわかる筋肉、そのつき方からしても明らかに『実戦慣れ』していると思った。


「俺はカース、冒険者だ」


 あくまでも簡潔に済ますカース。

ふと相手の名前に聞き覚えがあった。


「…まてよ?フォクロス辺境伯といえば…そうか、500年前に実在したと言われる『勇者』の末裔か」


「知っていたのか…。我が先祖クロウ・ミタ・フォクロスは召喚された勇者でありながら戦闘の技能が一切なかった為、『出来損ない』として教会から『勇者』の称号を剥奪されている。ゆえに彼を知るものはせいぜいが歴史学者くらいなのだがな」


 肩をすくめる辺境伯、『コホン』と咳払いすると真剣な瞳でこちらに向いた。


「貴殿はあの『衛兵殺しデッド・バンドラス』を仕留めたのだろう?その腕を見込んで仕事を頼みたい」


「…内容次第だな」


 殺しや裏家業には興味がないカース。むしろ下手に厄介事に巻き込まれて『本来の目的』が遠退いては本末転倒である。


「当然だな、だが安心してほしい。これは正当な理由によるものだ」


 辺境伯がそこまで言うとメイドがお茶を用意した。メイドが退出すると続きを語る辺境伯。その内容にカースは息をのむのだった。


……


 宿に戻り装備をあらかた点検すると就寝するカース。明日の行動をトレースしていると意識は自然と暗闇に消えた。

 宿に、更に5日分の滞在費用を払うとそのまま冒険者ギルドに向かうカース。この街でも冒険者の割合は多いのだがランクは高くてもC止まりだった。カースがBランクなのを知って機嫌が良かった受付嬢を思い出す。おそらく処理しきれない面倒な依頼でもあったのだろう。

 そんなわけで公式には『辺境伯の護衛』を受けることになったカースはそのことをギルドに伝えるべく向かっていた。



「ええ、先ほど伯爵様の使いの方がお見えになりまして説明されましたよ」


 向こうのほうが一足早かったようだ。受付嬢からは、

「難易度の高いクエストがいくつかあったのですが…」

などとこぼしてはいたが領主の依頼とあっては仕方ないのだろう。それに…

「最近物騒ですからね。見回りの兵を増やすために伯爵様の護衛を何人かそちらに回すと。そのために手薄になったところを高ランクのカースさんに護衛してほしいとの事でした」


 と、表向きそうしたらしい。あながち間違ってもいないのだが。

 報告を終えるとそのまま辺境伯の屋敷に向かうカース。思い出すのは昨日の辺境伯との会話であった。


「…10年以上前になるかな。君が知っているかはわからないが、大規模な誘拐事件が多発していたんだよ。最も、その一部が壊滅されてからはピタッと収まったんだがね」


「…何があった?残党が他所に高飛びしたとかか?」


「違うよ。そうではなくて…魔王に断罪されたんだ。元々、奴隷商売はここ『アクアリア連合諸王国』では重罪とされていてな、とくに『三厄の王マルム・レクス』に見つかれば真っ先に叩き潰される案件でもある。その過程で潰されたんだろが、彼らも拙いと思ったんだろう、それからは大人しくなった。なにしろ魔王に敵対した全員が精神を破壊されていたそうだからな」


 カースは魔王都ギルドランを出立する前日のことを思い出した。魔王本人がやってきて、今自分が纏っている装備を渡しに来たときだ。あのとき魔王は、まだ全然物足りないような口ぶりだったと記憶している。


「まさか…ここにきて同じような事件が?」


「ああ、我が領内でも起きて、 その調査の過程で君と遭遇したわけだ。奴らは相当な戦力を保有しているようだしな。どうだろう、協力を頼めるか」


……


「こんなところで手掛かりを得ることになるとはな」


 ふらりと向かったこの街で本命を引くとは運がいい。今度こそ、本当の意味でエトとヤヨの敵を討つと心に誓い、まずは辺境伯の屋敷へと向かった。



「よく来てくれたカース。さっそくで悪いが、我々がこれまで得た情報と今後の作戦を伝えておく。気になる点や君からの情報があれば随時指摘してくれ」


 昨夜訪れた応接室とは別の『作戦司令室』へと通された。そこには辺境伯を初め彼の部下が揃っていた。その場に呼ばれたカースは正直、違和感を覚えた。


「その前に…この部屋は伯爵家において本当の意味で『中枢』だろ?部外者の俺を招いても良かったのか?」


 カースの疑問に『そんなことか』と顔をする辺境伯。周囲の部下たちも同じような反応だった。


「失礼だが君のギルドカードは入領の際に確認させてもらっている。犯罪歴もなく、あの魔王・・の街から来たものだ。むしろ有益な人材だろ?ならば受け入れたほうがこちらとしても益がある」


「はぁ…本人に言うか?」


「ははは、下手な嘘で君の心象を悪くしたくないだけさ」


 貴族というのはどうもやりづらい。精霊の反応からして、この伯爵は善良な部類のようだ。ならばそれに答えるのもやぶさかではないだろうと気持ちを切り替えた。


「まず初めに、これまでに分かったことだが。

 敵が攫うのは無差別では無く、何らかの特徴を持った『未成年者』だということ。さらに、標的となったのは我が領内、我が国内だけでなく遥か南東のネシア王国でも確認された。

 そして…奴らが向かう先だが」


バンッ!とテーブルの上の地図を叩く辺境伯。彼が指した場所はここアルセイム王国とネシア王国の間、『連合諸王国』の中心国家であった。


「聖国アクアリア、その首都アクアと推測される」


 重苦しい沈黙が部屋に広がる。敵側に聖堂騎士がいた事からすでに予想はできた。だがその場所のトップの教皇の人となりは誰もが知る『善人』である。


「今回の件に教皇が噛んでいるのか、全く別の勢力が暗躍しているかは現時点ではわからん。問題なのは『聖国アクアリア』に入られては、こちらからは手出しができなくなる。

 だから領内から出る直前の『クロウの森』で襲撃をかける。ここまでで何か質問は?」


 カースが手を上げる。


「奴らはこの街にいるのであろう?ならば門の前で確認はできないのか?」


「残念だが奴らは『壁の向こう』で陣を張っていた。誘拐した子供達をどうやって運んだかは不明だが出発の準備に手間取っているようで動きはまだ無い。

 今、奇襲を仕掛ければと思う者もいるだろうが、奴ら上手く結界も張っていてトラップの類も確認されたため現時点での襲撃は逆に不利だろう。

 ゆえに人通りが少なく比較的民間人に被害の出ない森での襲撃を行う。


 では本作戦だが…表向き『俺』は君たちを引き連れ『趣味の狩猟』に出る。そこで見つけた『怪しい馬車』に職務質問をかける。その少し前から『梟影オウルズ』は裏から『荷物』と奴らを分断。

 出来れば捕虜を何名か捕らえたいが無理なら殲滅する。以上だ」


……

………


『泣き言を言う暇があったら手を動かしてください?こちらは当に開始してるんですから』


「だから言ってるだろ!ここにデッドを殺った奴がいるって!!

 そんなのボクは聞いてないぞ!!」


わめかなくても聞いてますしダートにも伝わってますよ。

 それにねグロムリ、あなたの自慢の『人形』を試す絶好の機会じゃないですか。良かったですね』


「あぁぁぁぁあ!

アイツはボクの傑作を砕いたんだよ!オカシイよ!

 あんなのオカシイよぉ!ハイドラ!お前しってたんじゃないか!?」


『私が知ってるのは『邪竜殺しナバル・グラディス』ですよ。彼らは今、獣王国フェルヴォーレに居ますから今作戦の障害にはなりません。

 それにデッドもまだ・・死んでませんよ。勝手に殺さないでください。

 …待ってください。作戦変更です。

 『えさ』は今あるだけでするそうです。貴方は辺境伯の足止めをして下さい。彼の所有する『暗部フクロウ』は正直に言っても厄介です。こちらに近づけないよう、だそうですよ』


「だいたいデッドは何やってんだよ!こっち来て手伝えよ!元々はアイツのせいだろ!」


『ダメですよ。デッドも作戦中です』


「なんだよそれ!あんなくちだけ野郎に何できるんだよ!」


『彼は今、大事な時期なんですよ。その為に『アザリ』がバックアップについてるくらいなんですから』


「あ…アザリ??

 ボクは何も知らないぞ!?」



『はぁ…貴方、出発前に聞いていたでしょ


…目標の『外壁』を潰すんですよ』



「…あ」


『聖王国へ移動中の標的・・に消えてもらうんですよ』




「カトル・フォン・デルマイユ公の暗殺…」




『やっと思い出しましたか…』


 通信が一方的に切れる。その会話を聞いていた1匹のフクロウは身震いすると大空へ羽ばたいていった。








 











…………………

おかしなところあれば

ちゃくちょく直そうと思います。

ブクマに登録されてる方、本当にありがとうございます。

なんとか頑張って続けますので見捨てないでねm(_ _)m

ここまで読んでくださってありがとうございます。

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