第96話 7人の英雄と復活した災厄

「お前は運が良かったなぁ」

「いや、悪かったからここにいるのか?」

「オイラお腹すいたお」


 オルレンの町で冒険者登録をした少年、彼は薬草採取の依頼をこなすため魔の森手前を散策していた。森から溢れる魔力のためか森の周囲では良質の薬草が採取される。ある意味でオルレンの特産品と呼べる薬草もこの日ばかりは同様の依頼を受けた者たちがいたようで葉の1枚も無くなっていた。

 間の悪さを呪いつつも若気のいたりと言うべきか少年も魔の森には興味があった。『行ってはダメ』と言われると行きたくなるのが人の性分サガとも言うのだろうか。それに『浅いところなら大丈夫だろう』と甘いことを考えながら森に足を踏み入れたのだった。

 入って5分もしないうちに少年は激しく後悔した。5分前の自分をぶん殴りたくなった。彼の前にはアドレディドックが3匹たむろしていた。先に気がついたのは少年だった。気づかれないよう、ゆっくりと後退りする。そして枯れ枝を踏み音をたてて気づかれる。このテンプレ展開にも非常に腹立たしく思った。全力で逃げ出し魔物避けのにおい袋を蒔き散らす。それはギルドで販売されているアイテムだった。肉食植物の『モルボル』と言う魔物となにかを混ぜて作られるこのアイテムは封を解くとすさまじい悪臭を放つ。




 全ての臭袋を使ってしまった彼はこの時ようやく気づいた。自分が森の深くまで踏み込んでしまったことを。

 何度目かの魔獣との遭遇に絶望したところに助けが入った。なんとナバルたちと顔馴染みのゴブリングの3人組みだった。魔獣を撃退し、さあ、帰るかといったところで1つ問題があった。彼ら3人は人間領には行ったことがなく場所もわからなかったのだ。それにかれら『悪魔種』は今だ人間から忌み嫌われる対象でもあったのだ。なので仕方なく少年を魔王都ギルドランに連れていくことにした。少年にとって魔族領は魔の森以上に恐ろしい場所のはずだったのだが…。


「助かりました」


 初めて見る魔族の3人に緊張しながら礼をのべる少年、言われた3人は盛大に照れた。


「いやあ、困ったときはお互いさまだべ」

「同じ冒険者じゃねえか、仲良くしようぜ」

「今夜は宴会だお」


 少年にとって初めて見る魔王都ギルドランはとても魅力的だった。

 門の先のメインストリートにそった町並みは活気に満ちて、見たことのない商品が並び、食欲をそそる匂いがあちこちから彼を誘惑してくる。


(凄い!聞いていたのと全然違う!

もっと不気味なとこだって言われていたけど都会じゃないか!…あれ!最上級の革鎧!うわ!なんか格好いい武器も売ってる!あ、あの人メチャクチャ美人!)


 街行く人々はみな清潔で服装もどこかきらびやかに見える。それもそのはず魔王都このまちで出回っている各種材料は人間領では高級品とされ (魔物の素材を手に入れるのは危険が伴うため一般には中々出回らない) 品質も良く、何よりも普通の服でありながら防御力に優れているのだ。その強度は鉄の刃物を通しにくいほどである。

 そんなことを知らなかった少年は興奮冷めやらぬまま3人に冒険者ギルドへと連れられ必要とされる手続きを行った。(生存確認など) それからは気前良くした3人から歓迎が行われた。


「じゃあ!『新たな友人』と『ナバルアニキの活躍』に!」

「「「かんぱーい!」」お!!」


「…え?!」


 僅かとはいえ共に戦った彼らから友人と呼ばれたことは悪い気はしない。むしろ少し嬉しく思う少年はそのあとの『ナバルアニキ』の言葉に驚きを隠せなかった。


「…っぷはぁ~!旨い!」

「冒険の後の1杯は最高だな!」

「バクバクガツガツ」


「すみません、『ナバルアニキ』ってもしかして『邪竜殺しクライドスケイス』のナバル・グラディスって人ですか?え?!知り合いなんですか?」


 少年の問いかけに嬉しそうに反応する3人。子供の頃からの付き合いのある彼の活躍が人間サイドにまで知れ渡っていることが嬉しくなった。


「知ってるもなにもアニキは魔王都このまちで鍛えていたんだぞ」

「子供の頃から頑張ってたもんな」

「…トラン兄のゴハンもたまに食べたくなるお」


 驚く少年をよそに3人のトークは勢いにのっていく。そして話は建国の英雄にまでのぼった。


「俺の見立てじゃあアニキも『七人の英雄ノーブンズ・セブン』に負けてねぇと思うんだよな!」

「大きく出たなぁ!…でもホントに追い付くだろうけどな!」

「料理上手はいたのかお?」


「あの~、『七人の英雄ノーブンズ・セブン』って何です?」


 初めて聞く単語に首をかしげる少年。3人組みかれらはホロ酔い気分からどんどんと気を良くして語りだした。


「うぉっほん!

それじゃあ聞かせてあげよう聞かせよう!」

「先代の魔王、邪竜ニーズヘッグってのはかなりムチャクチャなヤツだったらしいぞ」

「ガガゴガゴ」

 

「…」


「その邪竜は種族関係なく襲うもんだから色んなとこから敵視されたんだがよぉ」

「討伐に来た奴らぜーんぶ返り討ちよ。凄まじいべ」

「んぐぐゴゴガゴガゴ」


「…(食い気も凄まじすぎて頭に入らない)」


「魔族や獣人はみんなバラバラにヤツに挑んでたんだがな、そのなかでも変わり者の6人がいたんだけどさ、その6人はなんと種族混成のパーティを組んだんだよ」

「人間サイドからも討伐軍が結成されたんだがよ、その中の一人を足して『七人の英雄ノーブンズ・セブン』って言うのさ。彼らは今の時代と比べても凄腕ばかりよ!


 突如として現れ頭角を表した半吸血鬼ハーフヴァンパイア

ヴィレント・イル・ギルドラン


 若き天才魔術師

キャリバンヌ・ノーチェス


 連綿と続く戦闘術を体系化し最強の武術へと成した『初代剣狼』

ガラ・カイエン


 龍の血を継ぐ奇跡の戦巫女

レディナ・グラン・ローゼンハイト


 始めはヴィレント陛下と敵対していたにも関わらず最後は盟友となった純血の吸血鬼ヴァンパイア

ヴラディス・ディ・ドラクロア


 初代剣狼の好敵手であり『最強の生物』と呼ばれた

ガラハド・ザッハ・フェルヴォーレ


 そして…人類の運命を背負わされた少女、初代勇者マリア・アクアリア


な!凄いだろ?」


「んぐぐぐ!(水!水がほしいお!!)」


 スッと水を差し出す少年。喉をつまらせたゴブリングは急いでのみ干すとフゥ、と一息ついた。


「それ、本の文章のまんまじゃね?」

「かっこいいべ。何回も読んだから覚えたさ」

「ありがとお。死ぬかと思った」


 彼らの会話を微笑ましく眺めながらその本にいたく興味をもった少年。せっかく来たのだ、その本を読んでから帰っても遅くはないだろうと思った。

 その『先代魔王』が復活したことなど露知らずに。


……

………





「小癪なァァ!!」


「なめるんじゃねぇぞトカゲ野郎!」


 時はナバルが海王リヴァイアサンに飲まれた頃、トランが進化する前にさかのぼる。

 自我を取り戻した先代魔王ニーズヘッグ。その戦闘力は先のナバルが打ち倒した『カケラ』を大きく上回る。例えるなら『カケラ』の強さは魔王都ギルドランの冒険者のSランクを僅かに越える程度だった。それでも十分な強さだが今の邪竜はそれを大きく上回る強さを得ている。それでも全盛期の半分も無いのだからそれはそれで驚きではあるが。

 そんな邪竜であったが目の前にいる男に怒りを感じていた。最強を自負していた当時の自分を滅ぼした憎き敵、その一人に非常によく似た男が立っているのだ。しかもその時と同じ武器をもって。


「ヌウゥゥ!あの時の小僧の末裔か!」


「ほお!ジジイの事を覚えてたかよ!」


 邪王ニーズヘッグからは親指を除く4本の指から生えた深い紫色の剣状の爪がギラギラと光を浴びて輝く。その刀身はトランの剣爪よりも禍々しい形をしている。それが両手に備わっていてまるで『8本の魔剣』を持つ悪魔のように見え他の者を圧倒する。

 対する獣王はハルバードを両手で構え高速の突きを無数に繰り出した。的確に捉え去なすニーズヘッグ。しかし獣王の一撃の重さに反らす角度が甘くなりいくつかを被弾してしまう。


「オォォォ!!」


 魔力を纏い強化する邪竜。獣王の刃を弾き返すと反撃とばかりに8本の剣が牙を剥く。一見無造作に思われる剣の乱舞。しかし急所への的確な一撃を混ぜ合わせている。対する獣王はそれらを巧みに捌いていく。回転しているハルバードが徐々に勢いをまし、攻撃と攻撃の間の一瞬を狙って下からの切り上げが邪竜を襲う。とっさにガードする邪竜。しかし押さえ込んだはずのハルバードを獣王が蹴りあげ新たな衝撃となって邪竜を宙へと打ち上げた。

 翼を広げ空中で静止する邪竜。攻撃の邪魔をしてくれた相手にどう返してやろうかと思案した瞬間、ものすごい速度で獣王が迫ってきた。


(!!)


 空中戦であれば邪竜の方が圧倒的に有利、誰もがわかりきった事に無謀にも獣王は仕掛けてきた。

 獣王の手には暴風と化したハルバードが勢いをさらに増し斬りかかってくる。思考もままならない状態で1撃、2撃と攻撃をなんとか反らす邪竜。3発目をそらした瞬間、邪竜の脇腹わきばらに耐え難い苦痛が走った。その正体は獣王の蹴りだった。獣王はハルバードの勢いも合わせそのまま邪竜を地へと叩き落とす。

 ドン!と両足と両手を着き着地する邪竜。小さなクレーターが出来上がったが二人にとっては些末なこと、空でも ドン! という音が響き獣王が急降下してきた。風魔法で足場を作り蹴りあげたのだろう、空には魔方陣の残滓らしき破片が散っていた。

 ハルバードを構え落下する獣王。8本の剣を構え迎撃体制をとる邪竜。二人の攻撃が交差した瞬間、獣王は当たった刃を支点にそっと軌道を反らし邪竜の背後に着地する。邪竜からは突然消えたように見えたのだろう。『はっ!』とし、振り替えれは凶刃が自身へと迫っていた。


「ガァァァ!」


 片腕4本の剣で防ぐと同時にドラゴンブレスを放つ。爆破属性を伴ったブレスがガードする獣王を遠くへと弾き飛ばした。

 こうして幾度目かの剣撃が響くなか獣王は疑問を抱き始めていた。かの先代魔王は狡猾で残忍だが慎重でもあった、と祖父から聞かされていたのだ。そんな者が万全でもないのに (先々代の祖父が一人では相手にできなかったことを聞いている) 何故、自分の前に現れたかだ。その程度で自分に勝てると思われたのならそれはそれで腹立たしいがそれは何故か「違う」と感じていた。直勘に過ぎないが獣王は死地での勘を疑わないことにしていたのだ。

 そしてその『勘』は正解であることを確信する。東の方向で巨大な爆発が起きたことによって。


「お前が…足止め?!まさか…」


「クックックッ…中々に良い策をしいたものよなぁ。『アレの封印』が王城の地下にあるような噂の流布。そして人員の配置。だからこそヤツも俺も真に受けたわけだが…シャクラの読みが当たったということか」


「…てめぇが『あの女』の軍門に下ったと?あり得ねぇ」


 事態は最悪の展開になってしまったと心の中で悪態をつく。どうにかして『東の神殿』に向かわねば。目眩ましで撒けるか?など思案したところに邪竜の猛攻が始まった。


「分かりやすいなぁ!

フハハハ!暫しここで留まってもらおうか!」










…………………

この作品を覚えていて、なおかつ読んでくださり本当にありがとうございます。


遅筆で申し訳ありません。

まだまだ続きますので懲りずに付き合っていただけると幸いです。

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