第95話 種の頂点
本当は前回と一緒に投稿したかった。
お待たせしました。
…………………
「なんだそれは」
帝国大将シャクラ・ウリシャンの前に一人の男が立っていた。鍛えられた身体を持つ獣人の男だった。
その男には変化が見られた。弾けとんだ上着から見える胸板は見るからに鋼のごとき強度を誇っていそうな…。
何よりも特徴的なのはレイピア状の刃が今は厚めのロングソードになったところか。そしてもっとも危惧する事は男の魔力が尋常ならざる程に巨大であることだった。それが『人に似た』身体に凝縮されている。それがどれ程に危険なことか。その男が瞳をうっすら開き雷神に語る。
「普通なら魔力の暴発にビビるんだろうがよぉ、悪いな。今の『俺』は絶好調みたいだわ」
ダン!と男が踏み出すと帝国大将は甲板に叩きつけられていた。俊足を誇る『雷神』が見失ったのだ。(バカな!)と心の中で叫ぶとすぐさま反撃する。
『
「ふっ!」
雷撃と剣撃が火花を散らす。無数の稲妻をものともせずトランは駆ける。先ほどまでの防戦一方が嘘であったかのように雷撃を叩き潰しながらシャクラに迫った。そのトランを驚異を感じると叫びながら後方に大きく跳び跳ねた。
「小癪な!
黄金の鎧衣に身を包み2降りの雷剣を手にし雷神が斬りかかる。それを待っていたかのように獰猛な微笑みで迎え撃つトラン。剣爪が高濃度の魔力崩壊で黒く染まる。光すら飲み込む『黒い剣爪』が無慈悲に振るわれた。
黒い渦としか視認できないトランの斬撃、対して雷神から殺意の斬撃が激突する。戦艦の上を光と闇が染め上げる。その一角だけ夜空が弾けているように見るものを絶望の底へ叩き落とした。事実、遠巻きに見ている帝国兵からはガチガチと音が聞こえる。海上戦のため重厚な鎧は誰も着ていない。動きやすく頑丈な魔獣の革の鎧だ。故に発信源は彼等の奥歯が擦れる音だった。
拮抗してるかのように見えた両者の攻撃はしかし、僅かずつだが雷の威力が落ちてきた。
否、『魔力を帯びた雷』が分解されていたのだ。
「雷ごと喰らうか!」
雷神の新たな顕能『未来視』にてトランを襲う場所を視る。しかし写し出されたのは『渦に喰われる自身の姿』だった。
「ククッ…フハハハ!俺を喰らうか!やってみろ獣ぉぉ!」
人の領域を逸脱した凶獣と未来に仇なした神が激突する。激しく散る火花、雷撃と黒渦が互いを飲み込まんと肥大化していく。
遠くで見ていた兵の一人が息を飲む。かつて此ほどの絶望の具現があったであろうか。自慢の戦艦は至るところが弾け焦げつきマストはおろか船の形すら留めてはいない。戦場の遥か上、そこだけ雲が逃げるようにぽっかりと大穴を開けている。
トランと雷神、両者は共に
「そろそろ寝ちまえよ!
『
「ぬかせ!!
『
眩いほどの光の砲撃と極大の黒い凶星が激突する。直後激しい爆発を起こし二人は左右に弾けとんだ。全身に黒いオーラを纏っているトランの上から雷の残滓がバチバチと音をたてている。対する雷神の両腕はズタズタに切り裂かれ力なく垂れ下がり血が滴る。もはや戦闘の続行は不可能だった。
「…フフフッ…俺を食い損ねたな獣ぉ…」
倒れた身体をゆっくりと起こす雷神。脚にしっかりと意識を向けないと倒れそうになる身体をさも何事もなかったように振る舞う姿はフラつきを誤魔化せない辺り無理があった。
「この俺をここまで追い詰めたか…。
誇るがいい!キサマはこの瞬間『
ふらつきながらも邪悪に嗤う雷神はトランを見ると
「ククッ…キサマは面白い!また死合おうではないか!」
と言うと一瞬で姿を消した。移動用の魔道具でも使ったのだろう。それを見届けたトランはべたりと座りこんだ。
「ちっくしょう…仕留め損なったぜ。
なんか力加減がおかしいし訳わかんねぇが
どのみちあの
それにしても…神話の蛇野郎と一緒にするんじゃねぇよ」
…………………
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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