第94話 駆ける稲妻、喰らう黒渦
港から離れた所に大きな劇場があり普段であればショー等の催しで賑わっているのだが現在は市民の避難所となっている。だが全ての人が入れるわけでもなく、建物内に入れない人々が敷地に集まっていた。
ソウード軍の襲撃部隊は港とは別の場所からの上陸に成功し襲撃を始めたのだが…。
「…母ちゃん、兵隊がお空飛んでるよ?」
「…そうね」
親子の言う通り敵兵は宙を舞っている。それは空中からの襲撃等ではなく…。
「フシャーッ!!
トランは帰ったらオシオキニャーー!」
ホルンが暴れていたからだった。
力任せに殴り飛ばされる彼らからは悲鳴が響きわたる。
「…おかしい、おかしい。
獣人が強いと言ってもコレは無い…」
中には物影に隠れ現実逃避している者がいたりするが。それはともかく、ここが港から離れているとはいえ港町にかわりないわけで…トランとヴリシャン大将の異常な魔力はホルンたちにも十分に感じることができた。
「少しは発散させてあげた方が良いよね。兄さんの魔力も感じたし…はい、そっちには行かせませんよ」
どこか余裕を持った少女の声が響く。彼女の周囲に展開されている氷の槍が敵の兵士に襲いかかる。ナナイのノータイムで槍を展開させ、即座に撃ち出される魔術に敵の部隊は総崩れとなってしまった。
「ホルンちゃん、トラン君なら大丈夫だよ。
そうナナイに声をかけられるとホルンは一瞬止まり、気まずそうな顔をしてそっぽを向く。
「…違うニャ、ホルンは心配なんかしてないニャ」
プイッと顔を背けるもシッポが落ちつきなくフラフラしている。そんなホルンを見て『か、可愛い!』と心の中で悶えるナナイだった。
…
……
………
「ぶぇぇっくしょん!!」
「ぐっ!きさま!ツバが俺の顔にまで届いたぞ!」
「…ワザトじゃねえぞ?」
帝国軍大将を前にしているトランは場違いなくしゃみを盛大にぶっ放す。何かの攻撃かと構えたウリシャン大将にまさかの
「非常に不愉快だな」
本気で苛立つ帝国大将に気安く声をかける小グマ。しかし隙あらば喰らいつくのを帝国大将シャクラ・ウリシャンは当然のごとく見抜いている。
「激昂させて隙を伺うつもりか!甘いわ!」
ズゴォォン!と響く雷鳴、枝葉のように広がる雷を紙一重でかわすトラン。
「十分キレてんじゃねぇか!」
思春期かよ!と突っ込みをいれるトランに雷神の力任せの雷撃が無尽蔵に撃ち出される。泣いて命乞いするのが普通の反応だが目の前の小グマはおちょくりながらも綺麗に回避してみせる。数発撃ってスッキリしたのか落ち着いた表情をする帝国大将。
「ここまで1発もマトモに当たらぬか…見事と言うべきか。だがそのふざけた顔を見るに腹立たしさが先に立つな」
「…『見た目だけなら愛らしい小グマ』だぜ。そんなオレのノーマル顔にイチャモンつけるとか初めての経験させやがってこの野郎」
「クックックッならそれら全てを最期にしてやろう」
懐から1つのチャームを取り出し告げる。
『
一瞬世界の色が反転した。白と黒の世界。そう感じた時にはいつも通りの景色に戻っている。
(こいつ今なにしやがった!)
見た目も内在する魔力も特に変化があったようには感じない。警戒しつつ観察しているそばから雷撃が撃ち込まれた。回避すると待ち合わせたかのようにそこにも雷撃が放たれていた。
「ぐう!」
よろめくトラン。これ幸いと幾重も雷撃が撃ち込まれた。痺れる体にムチ打つように意識を向け今まで通りの回避に望むがその先にも雷撃が待ち構えていた。
「ぐあっ!!」
(どうなってやがる!)
帝国大将の雷撃は感知してから回避は実質不可能である。それをトランは相手の目線、姿勢など一挙手一投足からの読みと相手の体制では追撃不可能な位置取りを征すること、何よりも
だがしかし現在、1撃目はこれまで通りだがほぼ同時に放たれる2発目が大きく戦況を変化させた。
(しくじったか!?)
2発目、3発目と繰り返すうちに違和感は決定的になる。黒い毛の表面に幾つもの稲妻が駆け抜ける。
「ぐぉぅ…」
よろめき倒れそうになるが両足に力をいれ気合いで踏ん張る。回避が不可能と察すると全身に
(チクショウ!バカスカ撃ちやがって!!
…あの変なアイテム使ってから変わったな。まるで『先読み』されたような…まさか!!)
「『未来視』の能力でも手に入れやがったか!ずいぶん大人げないなオイ!」
「アーッハッハッ!よくぞ判ったな。その通りだ!なかなか便利なものよなぁ」
カマかけの当てずっぽうがまんまと当たり、思わず顔をしかめるトラン。
確定した未来による雷撃。それはどんな攻撃よりも相性が良すぎた。
(打撃斬撃なら身体能力だけでいくらでも対応できるが…そもそも雷を避けるとか無理ゲー過ぎだろ!それで必中とかよぉ…必中?)
『
黒い光がトランを包む。光が晴れたその場所には一人の獣人の男が立っていた。
問答無用で打ち込まれる雷撃。対する男は両手合わせ計10本の黒光りするレイピア状の刃を展開させると電撃と衝突した。
「かわせねぇなら真正面から叩き潰す!」
魔力崩壊を帯びた刃が雷撃を四散させる。その姿を凝視する帝国大将。
「成る程な。あの時見えた姿はそういう事か。ならば…受けよ!
『
豪雨のごとき無数の稲妻がトランを襲う。その尽くを叩き落とす姿は『異常』の一言だった。だが、それも長くは続かない。雷神は空いている左手に魔力を溜めだし極大の雷槍を作り出した。
「咄嗟の判断力、そして俺の攻撃を弾く技、まったく見事だ。その努力に免じてとっておきをくれてやる。
『
…
…
(…どうなった?)
気がつくとトランはうつ伏せで倒れていた。波風に揺られる黒い毛からは今だバチバチと音がする。その音で思い出した。雷神の槍を真正面から受け…貫かれたのを。前を見るとふらつきながらビンを開け薄桃色の中身を飲む帝国大将が見えた。恐らくは調整されたエーテルだろう。大気中の
「役目の前にここまで疲労するとはな。だが実験と思えば悪くはなかったか」
そう言い2本目を飲みだす帝国大将。その言葉を聞きトランは思考をフル回転させた。
(役目?そうだ、ソウードに噛ませをさせるためなら一緒に来る必要はねぇ…このまま進めば…コイツがホルンとかち会っちまう!それだけはさせねぇ!)
立ち上がろうとするが全身に力が入らない。どうあがいても指先ひとつ動かせなかった。(動け!動けぇ!)と念じたところでピクリともしなかった。
その瞬間、頭をよぎったのは先ほどまで港町での楽しい会話だった。
ホルンとナナイは美味しそうにデザートを食べていた。
ナバルは欠点を克服すると笑顔で船出した。
テリオとノベルはこれからの未来のために奮起していた。
町の人々は皆笑顔で
それが壊される。そう思った瞬間、血が沸騰しそうなほどに怒りが湧いた。
ふざけるなと。
その時だった。トランに変化が起きたのは。
『があぁぁぁぁ!!』
全身に痛みが走った。本当に血が沸騰したのではと思うほどの強烈な痛みがトランを襲った。
帝国大将シャクラ・ウリシャンはそのさまを見て驚き固まった。先ほどまで戦った強敵、最強を自負する一降りの槍を使うほどに。
その男が今のたうち回っている。それに呼応するように周囲の魔力が男に集まり次第に『黒い気の塊』へと変化していた。
「きさま…何をしている!」
危険と判断したシャクラは雷を振るった。しかし『黒い気の塊』に触れた瞬間霧散してしまう。『自爆か?!』と危惧をしたが様子がおかしい。何よりも敵対者の魔力が異常であった。嵐を凝縮したかのような猛威を奮っていたのだ。
雷神は知らない。
その身体は天然の
その体液は一般に作られる『エーテル』よりも遥かに高濃度であることを。
故に
『進化』に必要な魔力は十分だった。
…
……
「ねぇバッチャ、魔の森で一番強いのってなんなの?」
「そういや昔、
「ウィルがやっつけたの?凄いの!」
魔女は薬草を擦りながら笑って答えた。
「いーや、引き分けさね。お互いに縄張りを侵食しないことで手を打ったのさ」
「ウィルと引き分け…凄いの」
「そうさねぇ、成り立てとはいえ『魔王』になったウィルと互角だからねぇ」
「まだいるの?どんなの?」
「知らなかったかい?あれはねぇ…」
トランが強烈な光に包まれる。その姿を知るものは極わずか。
「あれはねぇ、
………………………………
書きたてなので編集するかもしれません。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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