第85話 動き出す騎士たち

大変お待たせしました


……………………………


「防具ってこんなに種類あったんですか?」


「ここ最近だぜ。増えてきたのは」


 オルレンの町の鍛冶屋の前で一人の少年は呆然としていた。彼の住んでいた村では精々が動物の革で編んだ軽装が最高だった。しかしここにあるのは同じ革鎧でもそこらの動物とは違う本物の『魔獣』から剥いだ一級品が金属鎧と一緒にずらりと並んでいる。


「この金属の鎧も凄いけどこの革鎧、異常に頑丈じゃないですか?」


「ん?知らねぇのか?ソイツはオーガの革で作ったウチで一番の軽装よぉ!因みにそっちのも金属に見えるが魔獣の甲殻だぞ。 鎧蜘蛛アラネアスっていう蜘蛛の化物なんだがこれが並の鉄より硬くてなぁ、加工に手間取っちまった。だがその分ものはいいぜ。なんせはがね並の強度なのに軽さは半分以下だもんなぁ」


「じゃあ、もう鉄は要らないんですかね」


「いや、細かい部品になると造形に融通がきく金属が重宝するから必要だ。なんだ?買い取りならウチでもやるぞ?」


 そんな会話をしているときだった。一人の剣士が大きく膨らんだ皮袋を持って店内に入ってきた。


「旦那がここの店主で合ってるか?」


「おう、あんたは?」


「依頼を受けたリョウ・アンダーソンだ。それより注文のブツはこれであってるか?」


 リョウと名乗った冒険者は袋を下ろし中を取り出す。それは少年が見たこともない大型の爬虫類?の皮と牙や爪の数々だった。それも大きな。


「お!待ってたぜ…ってデカくねぇか?お?もう1つあるな。…こっちの方は…この色合い、手触り…亜種かよぉ!」


 亜種と聞いて少年も驚いた。『亜種』と呼ばれる個体はギルドが定めたランクより確実に高くなる。少年は思わずまじまじと冒険者を見た。

 一見すると決して大柄な体格ではないが引き締まった体躯に装飾のない片手剣。しかしその剣には妙に惹き付けられる魅力があった。


「どうだ?ついでに買い取ってもらえるとらくなんだが」


「おお!任せろ!っとその前に受け取り完了のサインだな。これでよしと…で、こっちは…この金額でどうだ?色つけたしギルドじゃもうちょい安くされちまうぞ?」


「お、おう。これでいいや」


 オヤジのハイテンションな対応に戸惑いながらも依頼達成が出来て、素材もかなり高値で買い取ってもらえてホクホク顔で剣士は立ち去っていった。


「おじさん、今の人…もしかして凄く強かったりします?」


 先程まで嬉しそうな顔した店主は真顔で少年を見て、


「おう、気づいてたみたいだな坊主。この納品分だけ見てもわかるが相当の腕利きなのは間違いないな。そして武装がヤバイ。革鎧は俺が見たことのない魔獣の革だ。上物なのは間違いねぇ、もしかしたらA ランクの怪物かもしれねぇな。 だが気になるのはあの『片手剣』だ。ありゃあ相当の業物だぞ」


「A!…凄い、本当にいるんだ…」



 見知らぬ少年から尊敬の目を向けられていると知らず、リョウ・アンダーソンはパーティーメンバーの元へ向かっていた。


(皆はもう着いてるかな。

…っにしてもまた師匠からの呼び出しかよ。あのひと絶対たのしんでるよな)


 懐に仕舞っている1通の手紙を思いだし、盛大にため息を吐きながら目的の店に入る。辺りを見回すと端の方で見馴れた仲間たちがこちらを見て嬉しそうに手を振っている。


「待たせたな、俺が最後になったか。ノイエはこっちに居ても良かったのか?」


「ええ、先ほど御館様に会ってきたところよ。リョウ、貴方にも会いたかったらしいけどあの御方も今手を離せないらしくてね。その代わり今日の食事は御館様からのオゴリよ」



「え?!マジで!ノイエの主、気前いいなぁ!」


「私も聞いてビックリしてたんですよ。それに先程までここのお嬢様もいたんですけど、とても良い御方もだったんですよ」


「そっか。それは惜しいことをしたな」


 軽口を叩きあいながらエールを受け取ると『乾杯!』と声が上がる。

 これまで共に死線をくぐり抜けたノイエとは今日をもって別れることになっている。ノイエは主の元へ、リョウとロロはギルドを経由して届いた手紙、もとい剣聖からの呼び出しを受けて。


「リョウたちはいつ旅立つんだ?」


「明日には発つよ。ああ、オットーさんになにか伝言でも?」


「無い」


「あ、そう」


 無感情に言い放つノイエを見て兄妹も色々あるんだなぁと今は遠くにいる友人たちを思い出しながら、どうやって会話を変えるか悩むリョウだった。



「ミリエル様、そろそろ次の町が見えますよ」


「…っく、ふぁぁぁ~。早くついたな」


「…えーそうですね半日ずっと寝てれば早く感じるでしょうね」


「アハハハ、そうムクれるなよ」


 馬車の中から顔をだし、御者台にいるオットーの背中をバシバシと叩く美女、彼女こそアルセイム王国最強戦力、剣聖 ミリエル・ディア・アースハイトその人である。


「それにリョウの奴も呼んだから少しは余裕でるだろ?他の奴らは持ち場を離れるわけにいかねぇから『少数精鋭』になっちまうが…」


「そうですが…。とてもおっしゃる通りの『戦場の匂い』はしませんがね」


 懐かしい仲間を思い出しながら上司であり師の彼女が『仲間を必要』とするほどの事が起きると言うことに、わずかばかりの緊張を感じながらオットーは口にした。それに対し剣聖ははっきりと断じた。


「今はな。…でも間違いなく来るぞ」


 長閑のどかな村が彼らを迎える。これから起こる戦乱が時代の節目になるとも知らずに。





………………………………………


ここまで読んでいただきありがとうございました。

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