第83話 雷帝 vs 真祖

 リアリーさんの突進からの連続の突きがあまりにも速く男は一瞬、対応に遅れる。


ギギギギィン!


 とっさに回避、剣が交わり不快な金属音が響く。男は雷を黄金に輝く『シミター』に変化させていた。


「フフッ、情報だけでなく高度な戦闘技術もお持ちなのですね」


「キサマ程の女が軍属でもなくただのメイドだと?悪い冗談だ」


 毒づきながら距離をとる男に対しリアリーさんはレイピアを軽く振り構える。その刀身は赤を通り越し『白く』光輝いていた。


「俺と同格の『炎』か。まったく…この世界は飽きさせてはくれぬな」


 そう言うと更に稲妻を纏う男。既に地面にはいたるところが弾けて黒く焦げている。


「いくぞ。簡単に死んでくれるなよ?


雷帝鎧衣サムラット・ヴィジャーレ!!』」


 カッ!!と光輝き辺りを眩しいほどの白へと染める男。光が収まり目の前を見るとその姿は一新されている。稲妻は『黄金の鎧』へと変化をとげていた。

 ダンッ!どいう踏み込みの後には攻撃モーションに入っている。速えぇ!右からの袈裟斬りが放たれる。紙一重で躱すリアリーさん。だが男の稲妻の影響かメイド服の端がチリリと焦げる。彼女は顔をしかめるとそのまま体を捻り続けざまに斬撃を放つ。その一撃は白い刀身から巨大な炎へと姿を変え、両者の間を爆炎が染める。男はそれを察知していたのか既に距離を空けていた。なんだろね、ナバルの方でも火山の噴火みたいな炎が上がったけど今のリアリーさんの炎は凝縮された炎の様だ。アレ絶対ヤバイやつだ。


「そのような身体でよくもまあ、そこまで力が振るえますね」


「ふん、何が言いたい。数度もらいはしたがいずれも致命傷にはほど遠いぞ」


「ですわね。でも…先程から軋んでいるのではありませんか?至るところが」


 ステータスにも出てた、

『態異常;身魂不一致による肉体破損』

ってやつか?ヴォトゥムを使った形跡もないしリアリーさん、敵を観察するだけで見抜くなんてすげぇな。惚れてもいいですか?いかんイカン。オレにはリリンさんが…なんか元から相手にされてなさそうだけど。クスン。

 そういやリアリーさんは初めから魔王ウィルに付きっきりだったな。やっぱり甘い空気になったりするんかな。こんな綺麗で格好いいクールな美女と二人で…妬ましい!!

 男がこちらを見てギョッとしている。なんだろ。


「なんという闘気だ。やはりキサマは侮れんな」


 なんか勘違いされた!無意識で魔力崩壊を全身に纏わせてたのが原因かな?でもこれ、ロンリーベアの哀しみなんだぜ?バトル関係ないんだわ、とは言わない。勘違いさせたままでいいや。


「確かにキサマ等は強い。分が悪いのも認めよう。故に」


 稲妻が男の右腕に収束していく。バチバチと弾ける周囲に近づく事さえ出来ない。


「この一撃でもって幕引きといこうか!」


 男の手には巨大な槍のような物が出来ている。ヤバイ!アレはヤバイ!本能が危険信号を発している。リアリーさんもそう感じたのか構えた刀身に白々と陽炎が上る。こっちも何かする気だな。オレはホルンをギュッと抱き締めると全身に魔力抵抗と風の結界を展開させる。


帝の裁きは光の槍となれりサムラット・イク・ヴァハーラ!』



その刃は遥か彼方へア・コール・スキュト・ルディレ!』


 両者の術が衝突する。激しくほど走る閃光、衝撃波が身体を打ちつけてくる。町の中じゃなくて良かったよ。そんなことを吹っ飛びそうになる体を必死に踏ん張りながら考えているとようやく術が消滅した。視界が開けると男の姿は無くなっていた。逃げられたというかコッチが助かったというか。リアリーさんの前にはちょっとした『谷』が出来ていた。もうオカシイネ、色々。


「…逃げられてしまいましたね」


「ありがとうリアリーさん。さすがにヤバかったよ」


「ニャ!ありがとニャ!」


 ペコリと頭を下げるオレ、飛びついて抱きつくホルン。ちょっとよろめいていたからホルンもダメージが相当たまってるだろうに。…あの野郎、思い出したらムカついてきた。今度会ったらギッタギタに叩きのめせるように強くなってやる!


 その後、合流したナバルもボロボロだった。それからは1日宿に泊まり大人しく馬車に乗り込み先に向かった。その間もリアリーさんが使えないオレ等の代わりに護衛をしてくれたお陰で3日後には目的の獣王国フェルヴォーレへと到着を果たした。






3章 獣王国へ~旅上編  完



…………


今年はお付きあいいただきありがとうございました。来年もよろしくお願いいたします。


次はショートエピソードを予定しております。

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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