第82話 天雷

「はあ?ホントの魔王だぁ?」


 警戒しながらも予想外の答えに思わず『中二病ですか?』と小バカにしたくなった。が、よく考えればあり得なく無いのかもしれん。なんせ魔法がある世界だしね。


「何も知らんようだな…。先代魔王ニーズヘッグは異世界より召喚された邪竜なのだよ」


 ニーズヘッグ…確か『世界樹ユグドラシルの根をかじって枯らそうとしている』とか『冥界ニブルヘイムで無数の蛇と共に棲んでいる』とか『ラグナロク(神々の起こした最終戦争)を生き延びた』とか言われているヤツだっけ?まさかこっちに呼ばれていたとは。ってか実在したんだね。ファンタジーぱないわ。だがヤツから感じる危険度は魔の森でチョイやばいかなぁって感じだ。


「で?あっちに現れたのがそれだと?あの程度で魔王なら『今の魔王アイツ』には勝てねぇよ」


「愚か者が。カケラと言ったであろうが」


 そう言うと首をコキコキ鳴らしながら邪悪に嗤いオレたちを見て…。


此方こちらはコチラで楽しもうではないか!」


 ドン!と飛びだし襲いかかる男。


「うわっ…あぶねぇな!このクサレ神!」


「くさ!!…どこまでも無礼な毛玉め!」


 男の目に怒りが宿る。紙一重で避けるオレとホルン。確実にオレが本命だな。


「シャレも通じないのかよ!笑って許せやオチョコハート!」


「お猪口ちょこ…遺言はそれで十分か!」


 アレ?何でキレてんの?軽いギャグじゃねぇかよ!あれか?キレやすい若者わかものか?あ、中身ジジイだった。


「キレやすい世代か?!血圧気をつけろよ!『ウィンドブレット!』」


 避け様に魔法を打ち込む。絶妙なタイミングだったにも関わらずキレイにけやがった。若干かすめた頬から血が流れる。男は患部に手を当てると一瞥しオレを睨みつけた。


「やってくれたな。俺から血を流させるなど久しくなかったことだ。ましてあの女ギツネが用意したこの身体は極上の物…キサマ何者だ」


「普段から鍛えてるからな。…それに感づいてるんだろ?オレの身体も特別なんだよ」


 ジッと見てきていたら今度は肩を揺らして笑いだした。と、同時に男に膨大な魔力が集まってくる。…ヤバイ気配がバリバリする。


「クックックッ…まあ、良いだろう。獣と思って軽く捻るつもりだったが…キサマ等は『戦士』の様だしな。」



『加減は無しだ!!』



 ゴッ!と男を中心に魔力が爆発する。強い突風がオレたちを襲う。

風が止みその先には…黄金を纏ったようにも見える男がいた。

 体からはチリチリと警戒信号が鳴りっぱなしだ。とっさにヴォトゥムを使うと先程までは表示されなかった所が開示されている。そこにはこう記されていた。





保有能力;原初の雷



「ハァ?!この世界に『雷属性』なんて無ぇぞ!」


「そのような些事、俺が知るか。

 俺は『雷帝』だぞ。その極理、とくと味わえ!」


 一瞬だった。何かがオレの身体を貫いた。


「ぐぅっ!!」

バァァァァン!!


 うめき声と同時に雷鳴が響く。ただの雷じゃねぇ!天災の雷ごときじゃ正直、びくともしなかったが (経験済み) 今ので手足の自由が奪われた。

倒れる瞬間に見えたのは怒りのままに突撃するホルンだった。


「ダメ…だホ…ン!」


 声がでない。ホルンの放つ拳が数度空ぶる。纏った雷にはブースト効果があるのだろうか、動きが目で追えないほどだ。ホルンはあっけなく首を捕まれ捕縛されてしまった。


「ウニャッ!放すニャッ!」


ドォォォン!!



 ホルンに電撃が走る。一瞬固まるホルンだったがすぐに手をほどこうともがき足をバタバタ動かしてぎこちなく暴れだす。


「ニャッ!はなすニャッ!」


「小娘、諦めろ」


「ンムー、お前なんてべーだニャ!」


 男の左手が稲妻を纏ってホルンの頭にのびる。それを見た瞬間、オレの中で何かが弾けた。


「ッッ!…クソがぁぁ!ホルンから離れやがれ!」


 立ち上がろうとする度にブチブチと嫌な音が体から鳴る。そしてオレの怒りに呼応するかのように魔道具のベルトのバックルがガチガチとけたたましい音をたてた。そして…視界が何時もとは別の、『人間化』と同じ高さのものがダブって見える。


「!!…キサマ…何者だ…」


 何に驚いているのかヤツは隙だらけだった。オレは一気に距離を詰めると剣爪を一閃、放されたホルンを抱えるとそのまま直進して…バランスを崩して倒れこんだ。


「クッ…!」


「…トランかニャ?」


「不意打ちとはいえ今の俺から血を流させるか」


 突進の勢いが良かったせいか距離は空いたが…ヤツなら一瞬で詰めるだろう。ダメージが大きいせいか曖昧な『人間化』も完全に解けちまった。構えようにも力が入らない。ヤバイ…ヤツが一歩踏み込んだとき、オレたちの間に何かが降ってきた。


「「!!」」


 立ち上る土煙、そこに一人のシルエットが映し出された。


「なるほど。陛下が予見されたのは『向こう』かと思いましたが…貴方の方が危険度が高いようですね」


「何者だキサマ」


 男が警戒する。オレたちの前に現れたのはメイド服に身を包んだリアリーさんだった。



「召し使いごときが俺の前に立ちふさがるか。思い上がるな!」


「やれやれですね。沸点の低い殿方は嫌われますよ」


「リアリーさん!ソイツは『原初の雷』だ!」


 オレは残った力を振り絞るように叫ぶ。リアリーさんは一瞬、驚いた表情を見せるがすぐに無表情に戻る。


「そうでしか。では少しばかり『本気』を出してもよろしいですね?」


 そう言うと腰のレイピアを抜き構える。


「魔王陛下直属メイド。

 リリナリア・フォン・ドラクロア。参ります!」


「ドラクロア家!…あの吸血鬼ヴァンパイアおさの家系!…まさか真祖か!!」




 邪竜と勇者の決闘の裏で、もう一つの伝説が紡がれていた。




………………


ここまで読んで下さりありがとうございました。


リアリーさんの名前、リリナリアに変更しました。

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