第81話 勇者の力
「隊長、市民の避難は完了しました」
「ああ、中の魔獣は陛下に任せて俺らは奴らを迎撃だ。…生き残りがいるかはわからねぇがな」
「了解しました」
兵にそう指示すると俺は目の前の一騎討ちに視線を戻す。
一人は敵が召喚した魔人だ。術師の力量以上の怪物を呼んだせいか完全に暴走している。敵兵が見えない辺り全滅…もとい、魔人の餌にされたか。その魔人は黒い鱗に覆われている。種族は
まるで全身に刃を突きつけられたようなプレッシャーに耐えられているのは一部の者だけだろう。そんな相手に真正面から立ち向かっていく男がいた。冒険者ナバル・グラディスだ。
彼は左右2本の剣にそれぞれ『光』と『闇』の属性を付与して立ち向かって行く。これは実際、デタラメにありえないことなので説明しておこう。
世界には6つの属性が存在する。
火・水・風・地 の基本とされる4属性、そして『光』と『闇』の2つの属性だ。
この世界 (他に世界があるかは知らないが) の住人は何かしらの属性に対応している。1つの属性だけしか使えなくてもそれが強力ならそれはそれで重要視されるが、属性3つ4つも使えると強弱関係なく羨ましがられる感じだ。軍の遠征に複数属性持ちがいると夜営などの難易度が緩和させるからそういう人物は引く手あまただ。羨ましい。
問題なのは光と闇だ。実はこの2つは反発し合うという特徴がある。だから大抵は『どちらか1つだけしか使えない』のだ。
むしろどっちも使えない奴だって珍しくない。
俺が知るなかでも両方が使えるのは
『ッアァァァァァァァ!!』
魔人が咆哮をあげると亀裂が走る。
砕けた破片を撒き散らし出てきたのは漆黒の体躯に四枚の翼を持つ魔人。その出で立ちは物語に出てくる『先代魔王ニーズヘッグ』のようだった。ソイツがナバルを見て呟いた。
『ユウ…シャ…ユウ…シャ!』
俺はその言葉に衝撃と共に何故か納得をしていた。
…
何をトチ狂ったのか化物は俺を見るなり「ユウシャ」とか言い出しやがった。「ユウシャ」ってアレか?『勇者』のことか?何をバカな。そんなことよりこの野郎、動きが急に良くなりやがった。昔戦った
「チッ!」
強力な『魔力崩壊』で両手を覆った化物から放たれる攻撃は衝撃波をうみだした。後ろの兵士たちは集団で固まり『魔力抵抗』で防いだが次は持ちそうもない。しょうがねぇ。幸い敵の後ろには生存者はいないようだし…。
「速攻で潰してやる!」
俺は魔術の師匠、
『
ゴッ!!と力が沸き上がる。想像以上だぜ。そのまま『火』の真名を告げる。
「焼き尽くせ。
初めて呼んだときよりも凄まじい覇気を感じながら俺はそいつを振るった。
ヒュン。そんな音が耳に響く。期待はずれか?そう思う前に視界が『赤一色』に染まり一拍遅れて轟音が響いた。
ゴオォォォン!!
火山の噴火を目の当たりにしたような爆発が起こる。前に使ったときはここまでじゃなかった。ってかこんなに凄いマジックアイテムだったの?この腕輪。
流石と言うべきか敵の魔人は半身を消滅させながらも俺を睨み付けている。死にかけが一番危険なんだよな。それを証明するかのように欠けた部位を瘴気で固めたような疑似の腕で襲いかかってきた。って腕が4本に増えてやがる。
「うぜぇ!」
「ッガァァァァ!」
運が良いのか
2本の腕を抑え込んでいるところに3本目が俺を捉える。殺られてたまるか!こいつを抑えれば…『有るはずのない剣』をイメージして…現実に顕現した。
「!!」
間合いをとり今起きた事を冷静に考える。今のはなんだ?俺は何をした?俺は剣に付呪することで魔法剣を再現するわけで…。
…
『良いかい…ナバルや、アンタの中には『7本の剣』がある
そいつを『形にして
アンタの中には『
両手を合わせて、剣を持つイメージをしてごらん』
…
そうだった。最初は安定しないから媒介を用意してたんだった。まあ、その方が今でも強いんだけどな。俺は『自身の剣』達に耳を傾け…。
魔人が襲いかかる。1つが必殺の一撃を持つ拳が4つ。それを迎撃するように『4つの属性剣』をイメージした。
ガガガガン!!
一発で上手くいくとは!だがこの技は『剣に付呪』するより魔力を喰うようだ。長時間はしんどいな。
俺は呼び出した『火・水(この時は氷の剣)・地・風(雷を纏っているのはご愛嬌)』と2本の剣を含む計6本の剣で迎撃する。イメージは『トランの動き』だ。アイツは左右10本の剣爪を自由自在に操ってみせ、野生の
(アイツの様に上手くはいかねぇなぁ)
それでも魔人を押さえ込むことに成功した。これ以上暴走されたら被害がヤバイ。だからここで決める!
「牙狼四式
浮遊する四本の剣で腕をすべて弾いた瞬間、がら空きになった胸に渾身の一撃が突き刺さる。刃が中に食い込んだ瞬間、剣先の魔力が爆発し『魔力の刃』が魔人の体内をズタズタに引き裂きその身を
魔人はゆっくり倒れると弾けた体内から『核』らきし宝石がみえた。大きく傷ついているのが見え、それを強引に引きちぎると魔人は砂へと帰っていった。ワーッ!と歓声があがりふと見れば獣人の兵士たちが嬉しそうに駆け寄ってきていた。みんな傷だらけだな。
俺はトランたちが向かった方向に気配を探る。そこにはトランとホルン、それに…なんだコイツ!ジャミングしているのか上手く探れないのが一人いる。だがその中から感じるのは
「おいおい、ウィルのやつ何考えてんだよ」
そう呟くと膝から力が抜けていった。どうやら俺も限界だったようだ、思わず座り込む。
「持ちこたえろよ…トラン!」
……………………………………
ここまで読んでくださりありがとうございました。
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