第76話 ナント芋と敵の影

大変お待たせしました。


……………………………


「俺が悪かったよぉ~」


 朝、ナバルはベッドでうずくまってて必至に手を伸ばそうとしている。その先には酔い覚ましのポーションを片手に仁王立ちしているナナイがいた。


「昨日はいくらなんでも飲みすぎです兄さん。毎度ですけど」


 許してくれ~と情けない声をあげるナバルを横目にオレはホルンとこの町で何を買い出しするか話し合ってた。


「『メイブツ』は外せないニャ」


「って言ってもねぇ。ここは国単位でゴタゴタしてるからなぁ」


 コンコンと扉がノックされ「どーぞー」とオレが答えると入ってきたのは獣王だった。


「よお、邪魔するぜ…ってなんか面白いことになってるな」


 ナバルたちを見ておかしそうに笑う。そんな獣王をみて「何でダンナは元気なんだよぉ~」と喚いていた。見かねたのかナナイがポーションを差し出すと嬉しそうに飲み「げぇぇ~」と悶絶をうつ。なんのコントだよ。

 獣王はオレたちのメモ紙をのぞき込むと「名物?」と首をかしげる。


「なんだ?お前らはここの名物を探してるのか?」


「おっちゃんは心当たりあるのか?」


 オレがそう聞く何故か得意気に胸を反らして答えた。


「ここら辺じゃなんと言っても『ナント芋』だろ」


「「ナント芋?」ニャ?」


 オレとホルンは同時に声をあげた。聞いたことない芋だな。


「おうよ。そのまま焼いただけのも旨めぇし飯の食材としてもいけるぞ」


 へぇ…そいつは興味あるな。じゃあ行くかと準備を始めると何故か獣王までが立ち上がる。


「…おっさんはナバルに用事あったんじゃないの?」


「いや?暇だからフラフラしてただけだぞ?」


「お付きの3人はどしたのよ」


「アイツらな。獣王国うちに帰るための買い出しに出てるぞ。ベルヘルトはここに常駐する奴らに指示出ししてるんじゃねぇか?」


「おっさんも行かなくても良いのかよ」


 胡散臭げに言うとオレの頭をガシッとつかんでなで出した。


「いちいち俺が出ちまうと下の奴らは育たねぇんだよ。大将は後ろで『デン!』と構えてりゃあ良いのよ」


「そんなもんかねぇ」


 カッカッカッと笑う獣王おっさん。ホルンをみればキラキラした目で「早くいくニャ」と急かしてくる。オレは後はナナイに任せると宿を出ることにした。


「お~いトラン。俺も行…」


「兄さんは『お話し』しましょうね」



 …ナバルよ、魔王ウィルに似てきたな(笑)。



 獣王と3人という変わった組み合わせでの買い出しだが獣王おっさんがついてきた理由がアッサリわかった。


「…ってわけでよ、あそこの店のが旨めぇんだよ」


「…よーするにオッサンは芋好きなのな」


「…嫁やチビ共がよぉ…」


「あ~はいはい。…そういえば甘味自体が珍しいんだっけか?」


「何を当たり前の事言ってんだ?…あ~そういや魔王都ギルドランで砂糖の精製に成功したって聞いたなぁ」


 そうなのだ。砂糖はこっちじゃかなりの贅沢品で人間領の、それも一部の地域で極秘製造ということでなかばブランド化されていて滅多に手に入らないのだ。

 …そのはずなんだけど魔王都ギルドランにはオレとギルマスがいるから元の世界の知識で作っちゃったりしたんだよね。大根みたいな形なのに甘い植物を発見したのが始まりだったけど。日本では『てん菜』って言うんだっけか?ただ、まだ試作段階の域を出ないはずだったのに知ってるってのは獣王サイドも中々の情報網を持ってるってことなのかねぇ。


「完成したら安く卸すから、俺らの塩も安くよこせって魔王ウィルのアニキに言われてよ」


「まさかの本人ソース?!」


 極秘情報だよな!ギルマスと話してたよな!それだけこのオッサンを信じてるのか…『しょっぱめの塩センベイが食べたいね』とか言ってたのは何かの間違いだと思いたい。


「へいらっしゃい!ダンナ、今日もオススメのを押さえてありますぜ」


「わりいな。一応見せてくれ」


 店について最初のやり取りで獣王がかなり通いこんでるのがよくわかる。

 …部下に越させるんじゃなく自分で来る辺り魔王ウィルによく似てるよな。気に入ったのは自分の目で見て決めたいのか、ただのお散歩好きなのか…この二人は両方だな。

 店から出されたのは大量のサツマイモだった。


「コレがナント芋かニャ?甘い匂いはしないニャ」


 物珍しそうに鼻をスンスンならしなからホルンが呟く。ちょっと期待はずれだったのか元気がなくなった。ちょっと元気づけるとしますかね。


「ホルン、オレにまかせなさ~い。この芋で旨い菓子を作ってやるさ」


「ホントかニャ!」


 オレの言葉を聞いて耳としっぽがビン!と立った。そんなにメッチャ期待されてもなぁ。期待はずれにならないようにしないと…。

 宿に戻り厨房の一角を借りるとすぐに準備に入った。洗った芋をふかすのにセイロモドキを取り出したりしてたら宿の主が興味深そうにのぞき込んでいた。あとでお裾分けするかねぇ。



「旨っ!なんじゃコレ!」


 出来上がっていの一番に食った獣王のコメントがコレだった。ホルンとナナイはうっとりして食べている。今回オレが作ったのはスイートポテトだった。うんうん、期待には答えられたかな。ナバルは「以外といけるなぁ」と二つ目に手を伸ばしていた。

 持ってくる前にも宿の人たちに分けたが一様に好印象だったから安心はしてたけどね。


 スイートポテトも食べ終わり食後のお茶でくつろいでいる頃、ナナイが思い出したように言い出した。


「そういえば兄さん、あの盗賊団はどうなったんです?」


「あ」


 ダラけていたナバルがハッとした。そういえば何も話してなかったね。


「俺たちが踏み込んだときには全滅しててよ、居たのは人質の姉ちゃんたちと獣王のダンナたちだけだったんだよな」


「俺たちが来たときは魔物の巣になってたぜ。人質の奴らは隔離されてたせいか無事だったんだがな。で、ウチの奴らの見立てだと魔物は召喚されたんじゃねぇかだとよ。この辺じゃ見ねぇレベルの魔物がウジャウジャいたからな」


 ナバルの補足をするように獣王のおっさんがダラけた姿勢を崩さずに『俺たちの相手じゃなかったがな』とガハハと笑いながら言った。

 …あの辺に転がってたのはD-のアドレティドッグや、Dのダガーウルフ。ここらで出没するのはFランクのゴブリンがいいところだ。それに…ダガーウルフは森林に出没する。岩だらけのアジトにいるのは違和感しかねぇな。


「ダンナたちと会った後でアジト内を見回ったんだがな…『アイツら』はいなかったんだよ」


「…つまり本物の盗賊団を『切り捨てた』んですね」


「その可能性はあるな」


 やれやれ、キナ臭くなったね。オレは頭を振りキープしてたスイートポテトに手を伸ばして…何もなかった。


ってアレェ?オレの芋は?

オレの手の先、そこには旨そうに食べてるホルンがいた。


「トラン、とっといてくれてありがとニャ」


「え?あ、うん」


 無邪気に喜ぶホルンにオレは何も言えなかったよ。トホホ。







……………………………


スイートポテト、たまに食べたくなりますね。


ここまで読んでくださりありがとうございました。

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