第74話 強者との遭遇

大変お待たせしました。

時間差でもう1話あります。


………………………………


 岩場を登っていくと盗賊たちのアジトらしき入り口を見つけた。入り口の前はひらけていて敵が来たら視認しやすく攻める側からは嫌な造りだった。

 手前の岩で身を屈めながらそれらを確認しているオレたちはここで起きている異変に気づく。どういうわけか、いる筈の門番がいなかった。それどころか広場は何かが燃えた跡や陥没しているところ、巨大な岩が鋭利な刃物で斬ったような等、とにかく色々おかしな事になっている。気になったのかテリオが小声で聞いてきた。


「なあ、ここって最近の跡か?」


「岩の断面や陥没の後からしてそうだろうな。っにしても…トラン、気づいたか?」


 恐らくナバルは感じたんだろう。膨大な魔力を。オレはそれに加え強烈な血の臭いで気持ち悪い。


「ナバル…テリオ、気をつけろよ。

強ぇのが3人、めっちゃヤバイのが1人いる」


「…感づかれて他の奴らは町に行ったのかな」


 不安そうにテリオが剣を抜きながら言う。


「…雑魚ならホルンたちで何とかなるだろ。コイツらは待ち伏せのつもりかもしれんが。オレらにしてみれば向こうにいかれるよりマシだろ」


 そうオレが冷静を装って言うとナバルは剣を2本抜き、立ち上がって言った。


「予定変更だな、全力で撃破するぞ。どのみち向こうも俺たちに気づいたみたいだしな」


 ナバルがそう言うと洞窟の中から一人出てきた。ソイツはオレが感じた一番ヤバイ奴だった。


 …その男は獅子の獣人だった。

 大柄で筋骨粒々。ギルマスもデカかったがコイツはさらにデカく感じる。赤色の軽装、右手には蒼と銀で装飾された巨大なハルバードを持っていた。


「ほう…隠れてねぇで自分から出てくる辺り…豪気なのかバカなのか。だが…」


 ”ブァッ!” と魔力が解放される。

 …なんてヤツだ。視認できるほどの濃度の魔力を全身に纏ってやがる。コレが術でも何でもない、ただヤツは構えをとったに過ぎないのだろう。魔境の魔獣より強くないか?肌がチリチリしやがる。


「そういうヤツは…嫌いじゃねぇ!」


 ダンッ!と一歩を踏み込むとソイツはこっちに突っ込んで来た。ナバルも風と土属性を纏わせた2本の剣で迎え撃つ。


バリィン!


ドオォォォォン!


 魔力がぶつかると二人を中心に衝撃波が起こる。飛ばされるオレとテリオ。隣を見ればテリオは青い顔をして意識が飛んでた。

 鍔是つばぜり合う二人。獅子の獣人は嬉しそうに笑った。


「クックッ…ガーッハッハッハ!

すげぇな小僧!俺の一撃を受けて立ってられたのはうちのゼノン位だぞ!」


「…そりゃどうも。

アンタもこんな所でくすぶってるより魔境にでも行った方がいいんじゃねぇか?通用するぜ」


「そりゃお互いだろう」


 ガキン!と鳴り二人は凪ぎ払うと間合いが開く。


「トラン、このおっさんは俺が相手する。お前らは中を頼むわ」


「おいおい、俺が通すと思うのかよ」


 獅子の男は首をコキコキ鳴らしながら獰猛な笑みでオレたちを見据える。負けず劣らずナバルも悪辣な笑顔で男に答えた。


「サシでやろうってんだ。野暮なことするなよ」


「クックッ…ますます気に入ったぜ。お前みたいなヤツが…惜しいな」


 ちくしょう…確かに誰かがこの男を足止めしないと救助どころじゃねぇ。だがコイツはフルメンバーで相手しても勝てるかどうかの化け物だぞ。たがナバルの目はとっくに覚悟を決めているみたいだ。


「チクショウ!」


 いつのまにか気づいたテリオが悔しそうに叫ぶ。気持ちはわかるがね。


「ナバル…『戻ったら酒盛りな』」


「ああ」


 そう言うとオレたちは洞窟の中に入っていく。旅の事前に打ち合わせてたのを思い出したのかテリオは『はっ』としている。そう。『戻ったら酒盛り』はオレたちで決めた合図だった。

 ぶっちゃけるとこの場合、『戻ったら』はオレたちと合流したら。『酒盛り』は戦線離脱。オレたちのマジックポーチの中には『閃光弾』や『臭い撹乱の煙幕玉』など、魔王都ギルドランで使っていたアイテムが常時入っている。冒険者なんていつ死んでもおかしくない。だから『いかにうまく逃げるか』が胆なんだよね。

 とにかく、ナバルにもしっかり伝わっただろうからオレたちは用件をさっさと済ますかね。

 …臭いがひどくて人質いてもわからんぞコレ。洞窟に入ってすぐにテリオは話しかけてきた。


「何で『暗号』なんか決めるのかわからなかったが…こういう時のためだったんだな」


「おうよ。オレはお前が忘れてて突っかかってくるんじゃないか気が気じゃなかったけどな」


「そんなことしねぇ…けどさ。

…おい、なんだコレ!」


 そこは洞窟内のフロアで、そこにはおびただしい数の死体が転がっていた。よくみれば全員武装している盗賊団のようだ。魔獣の死骸が混じってるのが気になるが。

 その奥から3人、オレが最初に感じたヤバイ奴らと鉢会わせた。まあ、向こうもオレたちに感づいていたから今更なんだよね。


「まだ残りがいたのかよ…ってなんだコイツは?魔獣か?」


「誰が魔獣だボケェ!!」


「うお!喋った!」


 出会い頭にいきなり悪口言われたのは初めての経験だよド畜生!

 その3人も獣人だった。体毛が特徴的な豹の男、人間よりの顔立ちの狼型の男。最後は鳥型だろうか、両腕が翼になっている人間よりの顔立ちの男だった。それぞれ剣や槍で武装している。…あれ?そいつらの奥にも誰かいる…と思ったらボロボロの姿の女性たちだった。


「おいクマ公!後ろの…」


 テリオが焦った声をあげた。間違いない。拐われた娘たちだろう。クソ!不意を突いての救出は無理だ。


「コイツら3人はオレが相手をする!援護頼むぞ!」


「無茶言うな!3人てお前…!」


 テリオが言う前にオレは前に出た。踏み込みと同時に展開する10の剣爪。オレは同時に3人に斬りかかる。


「!!」


「は、速い!」


「きょ、距離を開けろ!」


 3人はオレを囲むように立ち回るつもりのようだ。だが遅い!オレの高速移動からの斬撃に3人は最初もたついたせいか着いていけてない。


「くっ!出鱈目じゃないだと!」


 豹の獣人が一言こぼした。3人のなかでコイツが一番厄介そうだ。先に仕留めるか?そう思ったら横から鳥獣人がオレめがけて魔法をぶっぱなした。


『フレイムブリッド!』


 遅せぇ!オレは体を捻り少しかがむとソイツに突撃…しそうになっとき男の強張こわばった顔が気になった。ソイツは襲いかかるオレじゃなく『オレの後ろ』を見ていたからだ。もちろん後ろに敵が居ないのはわかってたが…じゃあ何で?視線をそらすとその先には人質の女性が一人、硬直して座り込んでいた。ヤベェ!!


「うおぉぉぉぉ!!」


 ダイビングして女性を抱き抱えるようにして転がるテリオ。誰もいなくなった場所に魔法が着弾した。ナイスプレーじゃんテリオ!オレはカウンターを警戒して3人から距離をとった。


「おい!姉ちゃん大丈夫か?!」


「は…はい!あ、ありがとうございます」


 震えながら礼を言うお姉さんにオレは安堵した。と、同時に3人を見ると呆然としている。なんだコイツら?


「…どう言うことだ?」


「残虐な盗賊団じゃないのか?」


「待って、ちょっと待って」


 3人組は明らかに狼狽うろたえていた。そして代表するように豹獣人が一歩前に出て、


「まさかだが…君たちは盗賊団の生き残りではないのか?」


「は?盗賊はお前らだろ?」


「…」

「…」

「…」


 3人組、オレたち、人質の姉ちゃんたち。三組がじっと視線を合わせる。

 …うん。誤解があったようだね。


「…あ~、オレたちは魔王都ギルドランから来た冒険者だ。オレはトラン」


「えっと、同じくテリオっす」


 オレが名乗ると3人は余計に困惑した顔を浮かべる。


「名乗るのが遅れたな。俺はベルヘルト・ミンヒュガー」

「俺はロナウド・シェナーザル」

「センドリック・オーバードだ」


「俺たちは獣王国の兵士だ」




「「へあっ!!」」


 オレとテリオ二人会わせてアホな奇声をあげちゃったよ。まさか目的地の住人がこんな所にいるなんて。

 …ちょっと待って?それじゃあ…。



ドォォォォン!



 とてつもない爆音が入り口から鳴り響いた。ヤベェ!!ナバルたちはまだ戦闘中だ!


「もしかして君たちの仲間が外で…」


「早く止めねぇと!」


 豹獣人と顔を合わせると、オレたち二人は出口に駆け出した。ナバル!はやまるなよぉぉ!!





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