第69話 公爵の一手とコルネの日常

 アルセイム王国の中でも王族に次ぐ権限を有する公爵の一つ、デルマイユ家現当主カトロ・フォン・デルマイユは『返答済み』の書類にあらためて目を通した。

 公爵と魔王都ギルドランギルドマスターであるベルゼイ・ファウストとの間に『ある』約束がされていた。



魔王都ギルドランから提示されたもの■


・上位素材に対応できる各種道具を魔王都ギルドラン側から提供する。


・人間側では入手困難な魔法袋(ポーチ型)を一つ辺り原価銀貨5枚で販売。

(人間側のギルドから手数料などを上乗せされた金額が一般に販売される)


魔王都ギルドラン側からスタッフを派遣する。


・アルセイム王国内において『冒険者ギルド』を新たに設立する際は報告してもらい管理は公爵に委ねるとする。


・冒険者登録の際、初回に限り『冒険者カード』を無料で配布する。


・冒険者カードの機材一式、新品のカードなどは全て魔王都ギルドラン冒険者ギルドが負担する。


・売り上げの5%を魔王都ギルドラン冒険者ギルドに送金する。

(各種機材の料金として)


魔王都ギルドランから提供された様々な物は『提供先』を公表しない。

(魔王都ギルドランからの物に抵抗ある者に対しての配慮として)



 以下の内容に対する返答は先に郵送した通信魔道具にてしていただけるよう願います。


        ベルゼイ・ファウスト


■ ■ ■


 公爵がまず驚いたのは魔法袋に関してであった。そもそも魔法袋なるものは希少価値が高く『貴族御用達の店』でも見ることは少ない。なのでその扱いに公爵は頭を悩ます羽目になった。

 ついで『各種道具』であるが、これらは『ミスリル製』のハサミや『オリハルコン製の針』など、とても発表出来ないものであり、『偽装』の符呪を付けてもらうことにした。

 冒険者カードについては公爵は大変興味をそそられた。『弱体化』の情報に偽装はされそうだが登録の際の『やり方』1つで何とか出来そうな気がした。

 人員は、素直にありがたかったし

(相手の諜報活動を視野に入れたとしても) 手数料も機材や提供される道具から見ても、むしろ『安くないか?』と思ってしまうほどなため了承した。


(潤沢な資金と資源があるんだね。それじゃあ人間側を襲うメリットなんて皆無だよねぇ)


 むしろ『人間側』がバカなことをしないか、その事を危惧する公爵であった。そこへ執務室にノックの音が響く。


「ウェリッジです。今よろしいでしょうか」


「ああ、良いよ」


 入ってきたのは女性の騎士ノイエ・ウェリッジ、今は娘アイリスの護衛をさせている剣の達人だ。


「お耳に入れていただきたい事案が御座いますのでご報告を」


「…アイリがまた何かやらかしたのかい?」


「…『今回は』ギルドに関することです」


「そうか。いつも苦労をかけるね」


「あ、い、いえ」


「話の腰を折ってすまないね。で?何かあったかい?」


「はい。ギルド周辺を嗅ぎ回っている男がいます」


「素性は?」


「リョウ・アンダーソン。表では辺境の警備隊長をしている男ですが…」


「ほお、我が国『アルセイムの護剣』の一振りか」


「はい。剣聖アースハイトの直弟子で、その剣技において並ぶ者無しと言われた男です」


「ずいぶん本気で来たね…とりあえずわかったよ。後で指示は出すから今は下がって良いよ」


「はっ」


 バタンと閉まるのを確認すると公爵は思案する。


(さてどうしたものか…)


 そして1つの答えを導きだすと通信魔道具に手をかけた。


「…ええ、デルマイユです。ファウスト殿」



「バッチャ。これはどお?」


「そうだね。薬草の選別もだいぶ覚えたじゃないかい。偉いよコルネ」


 魔女に誉められ嬉しそうにする熊獣人の少女。姿形すがたかたちは人間の子供だが髪の毛と同じ黒く特徴的な耳と尻尾が魔女の目には愛らしく写った。やや癖のあるショートボブの髪を揺らし喜びを表現している。顔は『いつもと同じ無表情』なので初めて見る人にとってはわかりづらいが。


「バッチャ。今度ね、東の森で探検するの」


「もうかい?早くないかねぇ」


「師匠はね、『東側なら敵無しだな』って言ってたの」


「そうかい、ガドがねぇ。でもあんまり遠くには行くんじゃないよ?」


「わかったの。いっぱい何でも出来るようになってホルンやトランをビックリさせるの」


『フフン』と得意気に胸を張る少女。それを見た魔女は


(変なところをトランに似てやしないかねぇ…考えすぎかねぇ)


 くだんの小熊がいたら「オレのせいじゃなくね?」と抗議する姿が目に浮かぶ魔女だった。








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