第68話 オレンジュの町へ潜入

 オルレンの町の冒険者ギルドは人員や協力業者との連携などもまだまだ課題は山積みだがようやく形に成りつつあった。

 そのギルドを目指し新たな冒険者たちがまた一組、オルレンの町に向かって歩いていた。



「もう少しでオルレンの町だよな」


「ああ、噂が本当なら冒険者って肩書きが見直されるんじゃねぇかな」


「王都アルセムスにもそのうち出来るんじゃね?」


「あっちはどうだろな。魔物なんか殆んど出ないからなぁ」


「まあ、とにかくだ。本当に出来てたら登録とやらを済ませようぜ」



「『冒険者ギルド』で」


……

………


「あれ?ここの酒場、デカくなってね?」


「そうだな。前来たときは…ああ、そういう事か」


「なんだ?」


「あの看板見ろよ。ここが『冒険者ギルド』みたいたぜ」


「おお!、本当にあったんだな!早速入ろうぜ!」


 中は酒場と受付カウンターだろうか、とにかく広くできていたにもかかわらず、人でごった返していた。


「おいおい、これ全部冒険者か?」


「なんだ?兄ちゃんたちはこの町に最近きたのか?」


 そこへゴツいおっさんが話しかけてきた。革の前掛けをして手には鎚のマメが多数ある。


「…おっさんはこの町の鍛冶屋か?」


 何で鍛冶屋が?とも思ったがこの店は以前、酒場と宿をやっていたから飲みにでも来たのかと思ったが…前掛けをしているという事は仕事終わりでもないのだろう。怪訝な顔をしていると、


「俺か?たしかに鍛冶屋だが…ああ、飲みにきたんじゃねぇぞ?こんな時間から飲んだらカカァにどやされる」


 ガハハと笑い、カウンターを見て、


「うちはギルドと協力関係を結んでてよぉ、素材や良質な道具なんかも仕入れに来たりするんだよ」


「素材は分かるが…道具?」


「おうよ。ギルドが出来る前にな、なんとあの『地竜』を狩った凄腕がいたんだけどよぉ、そのころうちも含めて『地竜の素材を扱えるような環境』が全くなかったんだよ。アレは今までの道具じゃ役に立たなくてなぁ。

革を切るのにもハサミが入らねぇ、

針も刺さらねぇ、となると俺たちはお手上げさ」


 悔しそうに語る鍛冶屋のオヤジ。冒険者たちは『地竜』を狩った者達がいたことに驚きを隠せなかった。


「すげぇな。でも地竜相手ならその部隊?パーティは犠牲者も凄く出たんだろうな…」


「地竜の素材は…ああ、そうか。『鉄製の道具』じゃびくともしねぇよな。…でもよぉ、良質な道具を揃えるなんて出来るのか?」


 冒険者の勘違いに鍛冶屋のオヤジは一瞬戸惑うが(まあ、そのうち嫌でも耳にはいるだろ)と思い直した。


「おうよ。なんとここの領主の『公爵様』が後ろ楯になって色々支援してくれているらしいぜ?」


「へぇ~。貴族様はやることが派手だねぇ。」


「まあ、俺らに見返りがあるだけありがたいがな」


 


 そんなふうに騒がしいギルドの端に男女一組の冒険者がいた。

 否、彼こそ王国より密命という名の左遷を食らった騎士リョウ・アンダーソンと、お付きのロロだった。




「隊ちょ…リョウさん、本当におっきいですね」


「…そうだね。ホントに来ちゃったね」


 生まれてから1度も村を出たことの無い私にとって初めて見る都会は全てが新鮮で衝撃的で…とにかく興奮を抑えきれないほどの世界が広がっていました。しかも隣には…


「ロロ、まず情報集め…の前にご飯にしないか?」


「は!はひっ!」


 …いけない。落ち着かなくちゃ。

 そうなのです。初めての大きな町に私は隊長と『二人っきり』なのです!

 村を出る前にマリルカさんに

『お仕事で隊長と二人で、ちょっと大きな町に行ってきます』

って言ったら

『あら、新婚旅行?順番逆じゃないの?フフッ』

 なんて言ってきたんですよぉ!そんなんじゃないです!ってしっかり言ってきましたよ!…エヘヘ。

 隊長からは『極秘だから今日から名前で呼んでくれ』と言われちゃって緊張しましたけど。

 町の聞き込みも一段落して私たちはギルドの食堂で (なんでも昔は酒場と宿が合わさった店だとか) 食事をしているあいだも隊長は聞き耳をたてて周りの会話を拾っていました。その後、宿の一室で隊長と作戦会議 (二人だけ!) を開いたんです。


「う~ん。本当に地竜を狩った奴がいるらしいね。しかも単独で…でも気になるのは『道具の出所』だなぁ…」


「道具…ですか?」


「そうだよ。地竜クラスの加工なら…間違いなく『特注品ミスリル』クラスだろうしね」


 隊長はそう言うと考え込んでしまいました。きっとミスリルって凄く高価な物なんでしょう。それなら扱う職人さんも限られるのかな?


「隊長、出所がわからないって事ですよね?貴族さんたちなら専用の職人さんとか居るんじゃないんですか?」


 私がそう言うと嬉しそうな顔をしたあと、凄く真面目な顔で言いました。

…真面目な隊長の顔は『カッコ良かったとです!』


「そうなんだよね。でもミスリル辺りを扱える職人は有名どころが殆どだから結構けっこうわかるもんなんだよ。でも今回はどこも引っ掛からなかったんだって」


「はへ~。そうなんですか」


 私が考えるよりずっと先を見てる隊長はやっぱりカッコいいです!…でも今日は色々あって疲れました。


「隊長?もう遅いから寝ませんか?」


「え?あ、うん。そうだね…」


 何故か隊長は急にモジモジしだしました。変な隊長ですね。この部屋は大きなベッドが1つだけなので私が半分で良いですね。そう思って防具をはずし薄着になると眠気が一気に襲ってきました。良い夢が見れそうです。



 寝ようと言う話になるとロロは直ぐに寝てしまった。…防具とはいえ俺の前で脱ぎ出して。しかもご丁寧にでかいベッドの半分を空けて。…この空間、俺の分なんだろなぁ。


「はぁ。ソファーで寝るか」


 ロロは頭の切れは良い方だ。正直さっきの会話でも垣間見れる辺り間違いないだろう。

 …でも大事なところで無防備になられると『俺は男として見られてないのだろうか』と思ってしまう。…マジで泣きたくなってきた。





 その日、俺は枕を涙で濡らした。




 

 

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