第67話 送り出しと左遷騎士の受難

「ナバル、それに皆さんも、良かった…間に合ったな」


「リョウ、どうした?わざわざ見送りか?」


「まあな。それに伝えなきゃならない伝達事項があってよ…」



 ナバルは警備隊隊長さんと、ずいぶん仲良くなってた。そういやテリオは?とふと見れば…


「マリルカさん、昔から男性にモテてたんですよ」


「そ~なんすか?自分もあっさり撃沈したッス」


 警備隊員のロロさんだっけ?に恋愛相談をかましてた。まさかコイツ、ロロさんにシフトチェンジしたんじゃなかろうな!そう思った矢先、ノベルさんがオレに耳打ちしてきた。


「テリオ君には『ロロさんには意中の人がいますよ』って言いましたから彼女は大丈夫ですよ」


 …早い、早いよノベルさん。

 …

 …

 …それってマジ?

 そんな視線を向けるとノベルさんはニコニコ顔で隊長さんを見てる。…まっさかぁ~。そんなベタなぁ~。

 そんな馬鹿話をしてるとナバルたちから不穏な会話が耳に入った。


「…ああ、今ネシア王国は北のソウード共和国と一触即発の状態なんだよ」


「何だってそんなことに?」


「国のトップが代替わりしたらしい。その新しい国主は元軍属でさらに『北にある帝国』と繋がりがあるヤツって言われてるな」


「帝国ねぇ…ヤバい奴らなのか?」


「そうだな…中央にある聖教国を中心に俺たちがいるアルセイム王国も含めた周辺諸国をひっくるめて『アクアリア連合』って言うんだけどさ、その『連合』と同等の国力って言われてるぜ。ソウードも連合だったんだかな…分裂の危機だって政治家連中は大騒ぎらしいぜ」


「ふ~ん。その『帝国』ってのは連合と同等って…国土と戦力両方か?」


「ああ、そうだ。バカみたいな数の兵隊がわんさか居るらしい。それにさ、このどさくさにかこつけて盗賊なんかも活発に活動してるらしいぞ。だから気をつけ…るほど強い盗賊はいないか…」


「…一応、気をつけるさ」


 戦争に盗賊ね。ろくなもんじゃねぇな。それに比べてこっちは…。


「テリオさん!ファイトですよ!」


「ウッス!ロロさんも頑張ってください!」


 こっちはこっちて変な友情が生まれてるし。まあ、平和が一番だよね。




「隊長、行っちゃいましたね」


「そうだねロロ。」


 俺が初めて村に派遣されたときはもっと閑散としていた。今回の収穫祭も以前なら外れにある小さな神殿にお供えして終わっていたし。

 それが一人、二人と増えていき、気がつけば今の形になっていった。そのあいだ俺は鍛練と村の雑用をやっていただけなんだがね。

 気の良い一組の旅人たちを見送りながらそんな昔を思い出しているとふと、後ろに気配を感じ振り向いた。そこには村の方から一人の剣士がこちらに向かって歩いて来るところだった。見た目優男な騎士は俺にとって見慣れた男だ。


「あちゃ~」


 そう、コイツは何かしら問題事を持ってくるんだ。『魔術学園の奴らと乱闘騒ぎ』とか『誘われた鹿狩りが大争虎ヴェナント・タイガー狩りでした』とか『辺境に左遷』とか…とにかく、コイツが来るとろくなことがない。


「こんな所にいたのかよ。隊舎の方にいないから探したぜ」


「そうか。なら回れ右してそのまま帰れ」


「…ひでぇな。辞令は俺のせいじゃ無いのによぉ」


「あの~隊長?」


 俺が目の前のアホ騎士と話していると困った顔をして見てくるロロが目に入った。いかんな。彼女に紹介するか。


「ロロ、コイツは騎士学校の同期のサイ・バルトスだよ。俺もすぐに隊舎に行くからロロは先に戻ってくれるかい?」


「でしたら隊長?お茶の用意を…」


「コイツには勿体ない」


「…あはは。ロロさん、お構いなく。自分はまた直ぐに他に行きますから」


「わかりました。では私はこれで」


 そう言い、少し後ろを気にしながらもロロは隊舎に戻った。



「良い娘じゃないか。リョウには勿体ないな」


「余計なお世話だバカ野郎。で?

『近衛騎士』のお前が何でこんな辺境にいるんだよ」


「そりゃお前、『特命』を受けたからさ」


 得意気にふんぞり返る同期の騎士に呆れてしまう。俺は道の外れの岩に座ると腰にぶら下げてある水筒を取りだし一口飲んだ。


「サイ、『今度』はなんだ?」


「その前にお前に伝えとかなきゃならん情報が幾つかある」


 サイはそう言うとリョウから少しずれた岩に座り、同じ様に水筒に口をつけ、


「ふう、お前『オルレン』で起きた事件は知ってるか?」


「真逆にある町じゃねぇか。知るわけねぇだろ」


 俺の返答に爆笑で返すサイ。この野郎。


「プクク…ワリイ、ワリイ。『1つ目』は魔物の軍勢が襲ってきた。リザードマンとオークが各々それぞれ100頭近く」


「…マジか。負傷者は?ってか被害は?」


「負傷者はそれなりだが死者と町の被害は…孤児院がちょっと荒らされたそうだがそれ以外は無し。その後に出てきた8m級の地竜を2体撃破に成功したそうだ」


「は?!、地竜相手に死者が無しぃ?!」


「あはは、流石にデマかと思うよな」


 あり得ねぇだろ。 大争虎ヴェナント・タイガーがC + の大物魔獣だぞ。あの時だって逃げるのに精一杯だったのに…8m の地竜っていえばそれ以上だ。あんなのに無傷で勝てるのなんざ俺の師くらいだ。


「その後、公爵が何やら新事業を起こした。名前は『冒険者ギルド』だと。詳細はわからん」


「…」


「おーい、聞いてっか?」


「…ああ」


 それを聞くと今度はニヤリと笑い、何かをもったいぶるかのようにニヤニヤしだすサイ。…今度はなんだよ。



「で?次は?」


「ああ、お前にとって朗報なのか悲報なのかは分からんが…

 ある街道で『デッド・バンドラスが逮捕』されたぞ。」


 デッド・バンドラス。久しぶりに聞く名前に呆然としてしまう。当時、俺は病気で寝込んだ母の薬を手に入れるべく武闘大会に参加した。その薬が法外な値段のため賞金が一番てっとり早かったからだ。

 その第一試合の相手がデッド・バンドラスだった。俺は長期戦はヤバいと思い速攻で倒し勝利をおさめた。その後に反則行為を仕掛けられボッコボコにやられてひどい目に遭ったっけ。

 病室で凹んでると (怪我がひどく、俺は強引に棄権させられた) 廊下から騒がしい声が聞こえた。何だろうと気になっていたら勢いよく扉を開いてきて、



「おー!居たぞオットー!コイツだ!」


「ミリエル様!ここは病室です!静かにしてください!」


 (…五月蝿うるさいのが来たな)


 そう思い二人を見ると若いお姉さんの看護師は怒った口調で二人に注意してた。


「もう!二人とも、静かにしてください!」



「やーいオットー怒られたー」


「ぐっ…貴女もですよ」


『シューッ♪』(吹けてない)


 言われた女の人はそっぽを向いて誤魔化してる。…口笛吹けてないが。

 

(何だ?俺に用なのか?)

 俺は目の前に立つ二人に思わず見いってしまった。





 ウェーブのかかった長い髪は薄い金髪で (銀髪に近い感じ) 顔はすげぇ美人のお姉さんだった。ちょっと勝ち気な瞳が俺を捕らえてる。笑顔なんだけどちょっと恐い。

 隣の兄ちゃんは黒髪に長い髪を後ろで束ねてる。体はそこまで筋肉質じゃないけどスゲェ強いわ。剣を交えなくてもわかる。…今は頭を押さえて困ってるけど。


「お前がリョウ・アンダーソンだな?」


「ええ…」


「…良い目をしているな」


「はぁ…」


「リョウお前、俺の弟子になれ」


「…は?」


 これが彼女との最初の出会いだった。

 アルセイム王国最強の騎士、ミリエル・ディア・アースハイト。今の俺の師匠だ。

 病室で俺は大会出場の理由を聞かれた。母の薬の話をしたら『お前やっぱイイ奴だな!』と騒いで怒られた。でもその後直ぐに母の薬を手配してくれたんだよな。今じゃ実家で元気でいる。…元気すぎるけど。

その後、ミリエル師匠の薦めで王都に住む事になった。それからは剣術の鍛練と称してボコボコにされたり、体力アップだと称してボコボコにされたり、『今日はスキンシップの日だ』と言い出してボコボコにされたりと色々あった。…生きてる自分を誉めてあげたい。


 いかん。デッド・バンドラスだったな。初めは奴の仕返しが目標だったけど、最近はどうでも良くなってたからな。大会で『死んだ』と言われている兵士も魔術師や師匠の『得たいの知れない技』で助かったらしい。

 でも彼らの地獄はその後だった。『師匠の地獄の猛特訓』を受けたとか。その兵の中にサイの兄貴がいたらしいんだが『兄貴、目が死んでたぜ』は今でも記憶に残ってる。本当に御愁傷様である。そんなわけで俺の感想はまさに…


「いたな、そんな奴」


「…あれ?軽くね?」


「今の今まで忘れてたからなぁ…」


「ほぉー。じゃあ、そろそろ本題にいくか!」


 は?何言ってんだ?そう思うのもつかの間、サイは立ち上がり書類を開き俺に告げた。


「リョウ・アンダーソン。貴殿に『オルレンの冒険者ギルド、及び周辺の調査』を命ずる。これは魔王都ギルドランをも含む」


 …待て。ちょっと待て。このバカ野郎、今なんつった?


「…魔の森を越えろと?ワイに死ねと?」


 サイは首を横に振り、


「いやいや、もう一枚あったわ」


 そう言って朗読した。



『リョウへ


 お前もそろそろ魔王都ギルドランで修行してこいよ。お付きはお前に任せるわ。ガドの兄貴によろしくな。



 ミリエル・ディア・アースハイト』




「バカ師匠ーーーー!」


 こうして俺は真逆へと左遷された。

 運命は俺に恨みでもあるんかな。




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