第66話 祭りの最終日と影に潜む者たち

 アルセイム王国の国境の村、フィーニ村ってのは後で知ったんだがここの祭りは3日間開催されるらしい。んで今日が最終日になるんだけど、ほとんどのオッサンが酔っ払いと化していた。そしてオレたちの中にも…


「ヒグッ…ヒグッ…

おらぁよぉノベルさん、あの瞬間、本気だったんだよぉ!」


「ああ、うん。そうだね」


「そりゃあよぉ!キレイだったさ!だから相手がいたなんて当たり前だよなぁ!」


「ああ、うん。そうだね」


「なのに俺ったらよぉ!…」


「ああ、うん。そうだね」



「ああ、うん。そうだね」


 テリオがノベルさんに絡んでる。この状態のテリオは何を言っても通じてないからノベルさんはリピート再生でしのいでた。…もうアレだな、これ一種の風物詩だな。


「トラントラン!このトリめっちゃうまいニャ!」


「そ~ね~」


 ホルンは目の前にある焼き鳥や唐揚げ、それとローストチキンに夢中になってかじりついてる。その鳥を (ビックリするほどデカかった) 狩ってきたナバル本人は…昨日の剣士の兄ちゃんと出来上がってた。ナバルのやつ、酔うと知らないオッサンと友達になるスキルでも持ってるんじゃねぇだろな。生前のダチがまさにそれでソイツの家族に愚痴られたわ。ってアレ?警備隊が酔っぱらっちゃ不味くない?


「ナナイさんや、君の兄上が大変なことになってるよ?」


「…ハァ。トラン君、ああなったらもう知りません。他人のふりでいきましょう」


 ナナイはジトッとナバルを見るとそんなことを言い出した。でもそのあと「…楽しめてたらそれでいいかな」と小声で呟いていたから本気で怒ってるわけじゃなさそうだ。よかったな、ナバル。

 そんな感じで祭りの最終日は幕を閉じていった。



……

………


「グロムリ、よくも私をこき使ってくれましたね。しかもあなたの実験の観察とか…殺しますよ?」


「おやおや、公爵令嬢の小娘一人も片付けられない無能ちゃんが何か言ってるよ?何かな何かな?」


 デルマイユ公爵領のオルレンの町から戻ると最初に目についたのがこの腐れ呪術師とは。冷えていた苛立ちがまたぶり返してきましたよ。相棒のジギールがそれを見てため息をつき、


「その辺にしておけ、ハイドラ」


「…それもそうですね、ジギール。先ずは雇いぬし殿に報告に行きますか」


 バカを相手にしても時間の無駄ですね。さっさと用件を済ませますか。私は相棒と共に奥の執務室に入った。



「ああ。よく戻ってくれた」


 出迎えたのはこの部屋の主であり我々のボス、死の商人ダートだった。もっとも、『ダート』という名は恐らく偽名だろう。そのダートは1つの水晶玉を前にして何やらひどく疲れた顔をしていた。


「どうしました?ダート。そんな顔を見せるなんて貴方らしくないですね」


「まあな、ハイドラ。…そうだな。君ら二人にこれの感想を聞かせてくれないか?」


「それは?」


「デッド・バンドラスが送ってきた記録映像だよ」


「…あのゲスはだそんなことをしているんですか」


 その水晶玉は私が作った魔道具で『目の前の出来事を記録』できる魔道具だ。しかも『記録した内容』を別の水晶に送り届ける事も出来る優れもので私の自信作であったりする。もっとも、最近は一人のゲスの玩具に成り下がったわけだが…。我々はその記録を再生した。最初に写ったのは下卑た顔をしたデッド本人だった。




デッド・バンドラス

 大男の元冒険者で『衛兵殺し』の異名をもつならず者だ。

 アルセイム王国では3年に1度、武術大会が開催される。あらゆる武器を用いて戦う『武の部門』と魔術でもって優劣をつける『魔導の部門』の2部構成となっている。優勝者には多額の賞金と国の騎士団や宮廷魔導士に採用されるなど将来性もあるため参加者は後を絶たない。

 デッド・バンドラスだが、その大会でやらかしたのだ。大会のルールとして『義に反する行いは失格』、『殺しは厳禁』など曖昧なものから明確なものまであるがこの男、両方犯したのだ。しかも嬉々として。

 武術の部門で用いる武器は全て大会側から用意されたもので全て刃が潰してある。デッドはそれでは面白くないとひっそりと暗器を持ち込んだがあっさり没収された。そして始まった最初の試合だが相手はまだ幼さが残っている少年だった。しかし繰り出される技は見事でデッドは追い詰められていく。最後の寸止めで勝負ありと審判が宣言した瞬間、腰に下げてる水袋を口に含むと一気に吹き掛けた。中身は目潰し用の毒液だった (長年使ってたせいかデッドには耐性が付いていた) 。顔を押さえ距離をとる少年に殴打するデッド。会場は罵声と怒号に包まれた。

 踏み込んできた警備の兵をなぎ倒すデッド。武器を奪うと一人の兵の腹を裂き腸を引きずり出した。怒り狂った兵は飛びかかるがデッドの毒霧で目を潰され10人いた兵は全員死体となったのである。

 その後、逃走したデッドはここの組織に入ったわけだがヤツには低俗な趣味があった。相手の家族ないし身内の前で仲間をなぶり殺して快感を得るといったものだ。その変態野郎の目には私が作った『情報収集の魔道具』はさぞ魅力的に写ったのだろう。誰よりも早く使いこなしていた。



 そんなわけでデッドの趣味を見せられるとなると流石にうんざりする。


「ハァ…相変わらず下品な顔をしてますねぇ」

「そこは何時もの事だな」


 デッドは下卑た笑みで相手を挑発する。…そこでようやく相手が写った。


「「!!」」


 相手は一人だった。しかし『その男』を見た瞬間、嫌な汗が背中を伝う。どうやらジギールも同じことを感じたようだ。

 カーキ色のコートに白い金属の拳甲、顔はフードでよく見えない。しかしコート越しにでもわかるほど発達した筋肉。それに何より…


「なんだコイツは…以前見た執行者エクゼキュート、いや、アイツ等とは少し違うか…しかし、同じくらいヤバイぞ」


 緊張した声でそう告げるジギール。空気の読めないデッドは男を挑発していた。


「…会話がよく聞こえませんねぇ」


「デッドのヤツめ、自分に酔いすぎた」



ザザッ…


『…てめぇ!俺様をナメるのもいい加減にしろ!』


『面倒だな。聞いたことだけ言いたくなるようにしてやろう』


 ようやく会話が拾えたと思ったら聞こえたのは苛立ったデッドの叫び声と男の淡々とした返答だった。


 瞬間、男が消えた。

 その後、画像が荒れ、そこで映像は終わってしまった。


「殺られたな」

「死にましたね」


 私の魔道具は、正直に言って耐久性には自信がある。それこそ『ドラゴンのブレス』でもなければ破壊できないほどの自信作だ。デッドごときには傷もつけられない。で、あるなら…

 ジギールと私がほぼ同時に言うとダートは深いため息のあと、ぼそりと呟いた。


「そうですか。アザリを向かわせて正解でしたかね」



アザリ

 組織のメンバーの一人だが誰も彼の(彼女)の顔を知らない。ただ、わかっているのは『アザリが動くと死体が増える』と言うことだけだった。


「デッドは退場か?」


 珍しくジギールがダートに言う。それも『消す』のかと。予想外だったのかダートも一瞬呆けるがその後、何時もの笑顔をうかべ、


「正直な話、状況次第ですかね。無事そうなら適当に暴れさせたあと、雲隠れさせますよ。それもできない状況なら…」


「妥当な判断だな」


 そう言うと目をつむるジギール。私はすかさず『あの男』について話をふる。


「あの男について此方では何か掴んでいるのですか?」


「いや、さっぱりだよ。だから二人にも見てもらったんだけどね」


「すみませんね。ですがあの男、騎士団の幹部クラスが束にならなければ太刀打ちできませんよ?」


「下手をすれば…」


「…それほどですか」


 予想よりも相手が『強者』だったことに驚くダート。そういえば…


「…彼ならどうですかね?あの若い剣士。たしか名は…」


「ナバル・グラディス。地竜殺しの怪物だったな」


 私とジギールの話に目を見開くダート。


「…そっちの報告も聞きたいね」


 その日、報告だけで1日が終わってしまった。しかしここにきて『正体不明の戦士』がやたらと目につく。どうも気持ち悪いですね…






▪▪▪▪▪▪▪▪▪▪

 

今回でストック無くなりました。次回作からは時間がかかると思いますが温かく見守っていただけると助かります。




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