第61話 出発前の挨拶巡り
晩飯も終わり部屋に戻る頃だった。
オレとホルン、ナナイはナバルたちの部屋に集合していた。
「…って訳で今回の事件、嫌な臭いがプンプンするわけですよ」
うんざりしながらナバルは説明した。テリオは純粋に驚きノベルは考え始める。
「とりあえずギルドに報告しましょう。ですがナバル君、残念ながら我々はもう時間切れです。ギルド設立の引き継ぎは先ほど済ませたので。明日には準備を整え
「どのみち、ここから先は衛兵の仕事ですからねぇ。なら俺は明日に衛兵の詰め所に行っても良いですかね」
「それなら領主の館に直接行ってもらえますか?…言いたくはないですが衛兵の中に裏切り者がいないとも限りませんので」
「オオウ…わかりました」
ギルドが送るだけある。頭がよくまわるわ。ナバルはその可能性に若干引いてるけど納得はできるせいか素直に応じた。
にしてもそうか、明後日にはこの町を出るんだな。オレも挨拶にいってくるかな。
…
……
俺はノベルさんに書いてもらった地図を頼りに領主の館を目指していた。
「…やっぱ見覚えあるよなぁ」
7、8年前だったと思う。俺はこの町で一人の少女と出会った。まぁ、その日は色々あって慌ただしく別れたんだけど。そのあと何度か来たが、その
目の前の館は当時、少女が自分の家だと言ってた記憶がある。もう居ないってことは引っ越したのかな…ともかく生きてさえいてくれるならきっと何処かで会えるだろう。
「会えなかったことをまだ引きずってるとはねぇ…らしくねぇなぁ」
俺は頭を切り替えて館の門番に話をする。
「一昨日の盗賊討伐について報告したい事がある。冒険者のナバル・グラディスだ。一応、紹介状もある。確認してくれ」
「わかった。暫し待て」
門番の一人はノベルさんからの書状を受けとると奥に引っ込んだ。もう一人の門番と目があったので話しかけてみるか。
「この町みたいに他所の町も大きくなってる所はあるのか?」
「どうだろうな。うちの御館様が優秀だってのは確かだが…おっと、来たようだぜ」
「待たせたな、入ってくれ。くれぐれも失礼の無いようにな」
「ああ、ありがとよ」
門をくぐり館に入ると黒い服装の初老の男が俺を出迎えてくれた。
「ようこそおいでくださいました、ナバル・グラディス様。私はこの館の執事をしておりますセバル・タンディオと申します」
執事のオッサンはにっこり笑うと俺を案内してくれた。俺も挨拶をして案内してもらう。っにしてもデカイ家だな。
「グラディス様、どうぞこちらへ」
あれ、どうやら着いていたらしい。扉が既に開いていて焦った。ボーッとしすぎだな。なるべく落ち着いて部屋に入ると宿で出会った領主がそこにいた。
「よく来てくれたね、改めて。私はカトロ・フォン・デルマイユだ。よろしく」
「…ナバル・グラディスです」
笑顔で出迎えてくれた領主は金髪碧眼でいかにも《貴族》って雰囲気なのに全く偉ぶった感がない。領民からの信頼も厚くて正直すげえって思った。いるんだなぁこんな人。
ただ、残念ながら何処かで出会ったらしいんだがさっぱりわからん。席を進められてとりあえず座るが、座ったソファーが思いの
気をとりなおして俺は昨日わかったことを一通り報告した。で、実際の酒瓶を取り出して見てもらったりしたんだがやはり有名な酒でその気になれば何処からでも手に入るらしい。報告も終わり席を立ってもいいんだが出会ったヒントくらいは欲しいから雑談をふってみるかね。
「今ではこの町もすごく大きいけどここまで来るのは大変だったんでしょうね」
「そうだね。元は小さな村だったからね。そういえばナバル君はその頃を知ってるんだよね」
「ええ。だから久しぶりに来たらこんなに大きくなってたから驚きましたよ。当時は孤児院も無かったですし」
「そうだね、その頃…そうか、あの時から狙われ始めたのか…」
あれ?なんか不穏な単語が出てねぇか?ふと領主さんと目が合うと思考の渦に飲まれたのを恥じるように「すまないね」と困った笑顔を浮かべた。
「初めてナバル君に会ったのが丁度アドレティドッグに教われているところだったじゃないか。あの日からチョクチョク嫌がらせじみた嫌がらせも本格化しだしてね。それを思い出したんだよ」
■ナバル脳内検索■
初めて出会った
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まだ子供の俺
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久しぶりの人間の町
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確かオレンジュの買い出し
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アドレティドッグに教われたオッサン
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アイリの父ちゃん
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目の前のオッサンは貴族
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アイリは貴族のお姫さま
■■■
「……………えぇぇぇ!!」
「あれ?今まで気づいてなかったかい?」
「あ!いや!……すんませんでした!」
「……あっはっはっはっ!
いや、良いんだよ。そうかそうか」
「あ!…それじゃあアイリ…さんも今こっちに?」
「居たんだけどねぇ…今はまたどこかに行ってしまって。見た目と口調はお淑やかなのに行動が自由奔放でね…たまに護衛を撒いたりとかしてね…」
領主…もといアイリの父ちゃんはだんだんとボヤきだした。アイリさんよお、護衛を撒いたら駄目だろう。そんなこんなで長居をしてしまった。
…
……
朝起きるとホルンやナナイも起きていた。オレは孤児院に
「あれ?お嬢さん、今日もこっちに来たの?」
そこには金髪の令嬢、アイリス嬢がマリ姉ちゃんと洗濯物の篭を持って出てきたところだった。ってこのお嬢さん、良いとこの子だよね?
「あら?いらっしゃい。アイリさん、ここは私に任せてください」
「あ、違うんだよ。明日にこの町を発つからさ、今日は別れの挨拶に来たんだよ」
「え!クマちゃん、どっか行っちゃうの?」
後ろから声がかかった。そう言ったのはオレに初めて飛びついてきた少女だった。他の子とラケットを持ってる辺り気に入ってくれたのかもな。…なんか嬉しい。騒ぎをききつけた他の子供たちも集まりオレたちは一緒に昼飯を食べることにした。
「オレンジュのジャム
この町の特産品らしい。知らなかったわ。これは買いだめでしょ。
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