第59話 推察と再会

「お、トラン起きてたか。ナナイも居るな。ワリイ、ちょっと手伝ってもらっていいか?」


 昼過ぎにナバルは何処からか帰ってきてくつろいでいるオレたちにそんなことを言う。

 …気分的にはマッタリしたいんだけどなぁ。でもいつにも増して真面目な顔だからちゃんと聴いてやるか。


 ナバルはポーチから酒ビンを始め、ビーカーやら変な紙やら実験道具らしき物を取り出した。

 …何する気だ?


「兄さん、それは?」


「昨日の奴隷商が飲んでいた酒ビンだよ。この銘柄めいがらの酒は少しばかり高価らしいが数としては結構出回ってるらしい。下のマスターに聞いてきたよ」


 ナバルはそれを4本の試験管とビーカーに注いでナナイに差し出し、


「ナナイ、こいつを鑑定魔法で見てくれないか?」


「ええ…」


ナナイは受け取り右手に魔力を集め


『…ヴォトゥム』


 そう呟くとビーカーの液体は薄い紫色に光だした。


「兄さん!!」


「…ああ」


「…ナナイ、これなんだニャ?」


 ナバルとナナイの顔には緊張が走る。オレとホルンをおいてけぼりで。


「トランたちは知らなかったか?鑑定魔法」


「あるのは知ってるが使ったことねぇな」


「まあ、トランやホルンじゃ反応変わっちまうだろうしな」


■■■


鑑定魔法・ヴォトゥム

対象の人や物などの名称や効果を特定する魔法。ギルドカードの効果を魔法で再現したもの。

 実はこの魔法、この世に出て間もない新しい魔術である。(深緑の魔女は個人で確立させていたが誰にも教えておらず今まで秘匿されていた。)

 余談だがトランが魔女に『どーせバアちゃん、この魔法の存在忘れてたんじゃないの?としだねぇ(笑)』と言って地獄の魔術特訓を課せられて一部の魔王が爆笑したとか。


■■■


「でね?この魔法、使う人によって判定が変わっちゃったりするのよ」


「何で?」


「例えばトラン君たちにとって何ともなくても普通の人にとっては毒だとするじゃない?で、トラン君が使っても何も反応なくて、私が使うと《毒》として出たりすることがあるのよ」


「あ~、要するに『使い手』にとっての情報になるのね」


「そうなの。だからおバアちゃんは私にこの魔法を教えてくれたんだと思う。それでね、この紫の反応は《毒》の反応なの。ただ、混じゃってるうえに元がお酒だから名前まではわからないけどね」


「やっぱり…『コラド草』だ」


そう言ったナバルの前にある4本の試験管の中には緑やら紫やらに染まってる。


「よくわかったな。で?それはどんな草なん?」


「まあ、目星をつけて特定したからな。これはかなりタチの悪い毒草だよ。遅効性で発症まで4~5日位で効果が出るんだ。目眩めまいから始まって最後は意識を失うんだ。それで…」


「それっきり、と」


「そう、それに本来は虫除けとかに使うから結構エグい味がするはずなんだよ。ああ、だからこの酒で誤魔化してるのか?でも酒だけで消せるわけ無いよなぁ…」


 ナバルは思考に夢中になってしまった。こうなるとしばらく戻ってこないんだよな。それにオレに手伝えることもないし。薬学なんて知らんもん。そういやテリオたちはどうしてんだ?暇だし行ってみるかな。


「オレ、テリオたちの所に行ってくるわ」


「ニャ!、ホルンも行くニャ」


 ナバルは無反応だった。ナナイが困った笑顔で手を振ってくれてオレたちは宿を出た。


「そういや何処にいるんだろな」


「クンクン…あっちニャ!ホルンたちが最初に通った入口だニャ」


ってことは魔王都ギルドランからの追加物資が今日、届くのか。ちょっと行ってみるかね。


……


 門の入口近くに一台の馬車が止まっていた。その前にはノベルさんとテリオ、それにフードを被った3人の冒険者らしき人たちと楽しそうに話している。…あれ、テリオの顔は青いぞ?


「おいっす!…追加のアイテムは今日届く予定だったのか?」


 オレがそう言うと3人の中で一番背の高い人物がフードをとりオレを見た。




「あら~『あの時のクマちゃん』じゃなぁ~い?」



 ソイツはガチムチでちょいイケメンのオカマ、リリオだった。


!!!!


 とっさにホルンの背中に隠れるオレ。しまった!これじゃホルンが…


「あ、リリオ、おひさニャ」


「あっら~相変わらずホルンちゃんも可愛いわねぇ」



…………え?


 どういう事?二人は知り合いなの?思わずホルンの顔をまじまじ見てたら当のホルンはあっけらかんとしている。そしてとんでもないことを口走った。


「ナナイとギルドをうろうろしてたら『一緒に狩りに行こう』って誘われたニャ。心配だからってウィルも一緒に来たニャ。楽しかったニャ」


……まあ、魔王ウィルが一緒ならいいか。


「そ、そうか。で?オッサn《ギロ!》……アンタらはすぐに魔王都あっちに戻るのか?」


「ちょっとした依頼があるのよぉ♪それにここのオレンジュ、甘くて美味しいらしいじゃない?そっちの買い出しも込みで暫く居るわぁ」


「「うわぁ」」


思わずテリオとハモる。


「な”あ”にぃ?文句あるかしら?」


「「滅相もございません」」


テリオとオレは平謝りに徹する。藪をつついてヒドラが出てきたら洒落にならんもん。


「そういえばナバル君たちは一緒じゃないのかい?」


「ああ、それね。昨日の事で後で話すよ」


不思議そうにノベルさんが聞いてきたけど外で話すのははばかれるな。

 このあとギルド派遣のチームは領主の館に向かいギルド設立を煮詰めるらしい。同行するかと言ったが町から出ないから大丈夫だと言われた。まあ、だからこういう流れになるわけで……



「あ~らクマちゃん、貴方のオススメ教えなさいよぉ」


テーリオー!、カムバーック!!



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