第58話 ナバルの捜査
本日は4話の予定です。
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「最悪の目覚めだな」
小鳥のさえずりで目を覚ました俺は昨夜の事を思い出していた。出来ることなら消し去りたい記憶を。
「う…俺を…巻き込むなぁ…」
テリオはうなされていた、昨日の一言が余程こたえたんだろう。部屋にノベルさんの姿は無かった。ギルド設立の準備だろな。サポートが寝こけてて良いのか?とは思うが…まあいいや。
「はぁ、俺も起きるか」
食堂に降りるとナナイが朝食を食べるところだった。
「兄さん、おはようございます」
「ああ、おはようナナイ」
席に着き注文を済ませ、ふと見回すとトランとホルンは居なかった。ナナイと一緒に居ないなんて珍しいな。
「ナナイ一人か?」
「ええ、トラン君たちは
「
ところでナナイは今日はどうするんだ?」
「そうですね…今日は部屋で休んでます」
「そっか。俺は…久しぶりだし少しぶらついてくるかなぁ。そういえばナナイさ」
「はい、なんですか?」
…
……
俺は孤児院の前に立つ。
「ウィンド・リープ」
足に風を纏い屋根の上まで跳躍し、ナナイが戦った場所を観察する。
「確か矢はこう来たって言ってたなぁ。なら…ここを狙うとしたら…」
視線の先には住宅地が続いている。一番手前の建物の側に大きな木があった。
(100mってところだな。そこから直線で来ると)
そうして逆を向くと街路樹があり、葉の隙間から何かが光った。
(当たりか?!)
そのまま飛んでいくと1本の矢が刺さってた。それを布でつかんでから引き抜く。
(魔力の
敵の残した手掛かりを大事にポーチ型の魔法袋にしまうと今度は狙撃地点を調べたわけだが…最近折れたであろう枝以外に変わったところはなかった。
(何もねぇな。弓兵と言い、あの時の魔術師といい対人戦に慣れてやがる…)
そのまま孤児院に戻ると少年が3人、俺をポーッと見ていた。何だ?
「どうした?坊主たち」
この子達に聞いてみるか?と思ったのは失敗だった。俺は早々に立ち去るべきだった。
「兄ちゃん、クマンダー2号か?」
「グハッ!!」
思わず膝から崩れる身体をなんとか支えようとして…そのまま四つん這いになった。
「!!、2号の兄ちゃん、お腹痛いのか?」
「お、おれマリ姉ちゃん呼んでくる!」
「今、助けを呼んだぞ!2号の兄ちゃん!」
『2号』と呼ばれる
「お、俺は何ともないぞ…」
ガクガク
「それよりここら辺で」
ガクガク
「
カックン
「うお!!」
突如、
…しゃーない。少し付き合ってやるか
「やーったな!」
ガシッと捕まえるとくすぐり攻撃をする俺。少年は爆笑しながら身体をうねらせる。
「アヒャヒャヒャ!」
「ハビルが捕まった!助けろー!」
こうしてプチ鬼ごっこが始まった。
…昔はテリオ達とこうして遊んだなぁと思い出しながら俺は子供達と戯れた。
…
…
「マリお姉ちゃん、ハビル達と知らないお兄ちゃんが遊んでるよ?」
「知らないお兄さん?」
孤児院の神父様が亡くなって歳が一番上だった私はそのままこの子供達の世話をすることになった。流されるまま院にいるのだけど…
ああ、いけない。また愚痴のようになっちゃった。昨日、物騒な人たちに襲われたばかりだから不安が拭えない。少し心配になり外の様子を見ると
「ねえマリお姉ちゃん、あの人クマちゃんのお友だちかなぁ」
「そうかもね」
そう答えると私はその人のところに向かった。
…
…
子供達と戯れていたら孤児院から一人の女性か近寄ってくる。責任者かな?
昨日は俺はそそくさと帰っちまったからな。…あんな覆面つけたままウロウロしたくねぇし。
…結局、正体ばれてるし。
「昨日は助けていただいてありがとうございました」
「いゃあ、みんなは無事でした?あの後バタバタして、なし崩し的にバラけちゃったけど」
「ええ、皆さんのお陰でみんなどころか院の方も無事です」
そのまま中に通してもらい軽い自己紹介をする。茶をすすりながらふと聞いてみることにした。
「昨日の前後に変わったこととか知らない人物の来訪とか、何時もと違うことってありましたか?」
彼女は少し考えると顔を横に振り
「昨日のような人が脅しに来るくらいでそれ以外にはちょっと…」
「あんな奴らが何度も来てたのかよ…そりゃ大変だなぁ。衛兵は…ああ、魔物の騒ぎがあったな。じゃあもう」
「ええ、それに公爵家の方が支援してくれることになったんです」
「ん?今までは?」
「聖教会の支援があったんですが神父様が亡くなってからうやむやになってしまいまして」
「そっか…」
次の神父とか派遣されてねぇ?
「嫌なこと聞いて悪いけどさ、神父さんって病気かなんかだったのか?」
「いえ…でも亡くなる前からは具合が悪そうでしたので」
「そうだったのか」
俺が居たときはただの古ぼけた教会だったけどいつのまにか孤児院になってたんだなあ…ん?部屋に飾られてる花に見覚えがあるが…あれ?
…
…
ああ、花瓶だ。正確にはあれは確か…
「なあ、あの花瓶って」
「あれですか?神父様が亡くなる前に飲んでいたお酒の瓶なのですが、そのまま捨てるのももったいなくて…余裕は無いのですがせめてお花だけでも…」
「あ、そういう意味じゃないんだ。あの形のビンってよくあるものなのか?」
「どうでしょう…私は他には知りませんね…お
俺は近づいてビンを手に取る。形がしゃれた感じに角ばった瓶、間違いねぇ。
…
…
奴隷商が飲んでいた酒と同じビンだ。まさか神父がやつらと繋がって?飛躍しすぎか…嫌な感じがする。
…とりあえず捕まってる奴隷商に聞き込んでみるか。俺はすぐに衛兵の詰め所に行くことにした。
衛兵の詰め所は森の反対側、他の町との玄関口とも言える門の側にあった。そういや
メンドクセェ生き物だよマッタク。
俺は扉にノックをするとそのまま入る。
「ちわーっす」
「ん?おお、お前さんは昨日の魔物狩の立役者じゃねぇかよ」
俺が入ると一人の衛兵が気さくに話しかけてくれる。この人もあそこにいたんだなぁ。
「
俺がそう言うと衛兵は途端に険しい顔をする。警戒されたか?胡散臭いかもなぁ。
…ちょっと凹むわぁ。
「悪いな。そう言うのは出来ないんだ」
「ああ、なら良いんだ」
「それにな…ああ、お前には地竜から助けられたなぁ」
「ん?ああ、気にするなよ。あれは仕事だし素材も入ったしな」
「そう言ってくれるか」
衛兵はそこまで言うと今度は顔を近づけてきて…
「俺の独り言だからな…あの奴隷商の
!!
「…邪魔したな」
俺は詰め所から出た。クソッ!
これからどうする…折角だ、やつらのアジトだった倉庫にいってみるか。
…
…
倉庫内は木箱の残骸が散らかっている。書類関係は衛兵隊に撤収されてるなぁ。部屋を見回すと目当てのものがあった。
酒瓶だ。
結局、手がかりはへんてつの無い矢と酒瓶だけだ。
正確にはビンの中身だけどな。
この事件、思ったより根が深そうだ。
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