第57話 月下の戦士たち
屋根の上で魔術師たちが攻防を繰り広げている頃、その下では元盗賊もとい奴隷商の部下たちはたった二人の冒険者に苦戦していた。
「何なんだ!テメーら!」
「クソッ!」
彼らの相手である二人の冒険者は背中合わせで戦っていた。近づくものをテリオの二刀で、距離があるものはノベルの槍と魔術で、立ち位置を変える彼らに奴隷商の賊らは
「ノベルさん!」
「どうしました!」
「今の俺たち、カッコ良くないっすか?!」
「ハァ…ストーン・ブリッド!」
元気良くアホなことを言うテリオにノベルはため息で返す。その間もノベルの略式詠唱の魔術が敵を襲う。
「クソッ!」
「ダメだ!どこの入口も見えない壁で入れねぇ!」
孤児院に侵入を試みた賊が諦め顔で戻ってくる。その中の一人が不気味で巨大な
「チッ!何が業物だ!使えねぇ!」
…
…
「アレ、ヤバイ気配の武器だニャ」
孤児院の中では全員が
ナナイの結界がもたらしたもうひとつの効果、『外側が見える』事による外の出来事が見えてしまう為だった。
より正確には40インチのモニターサイズの枠が8枚、彼らを囲むように展開されている。それは『ホルンが護衛』しやすくする為の処置なのだが…ともかく、そこでホルンは目撃する。敵の一人が『呪われた
『もう面倒だ!全員でコイツらを先にやっちまえ!』
チッと舌打ちするテリオ、冷静に敵を見据えるノベル。
その時だった。
ドォォン!
強烈な音をたてて飛来して来た物体、舞い上がる
一瞬の静寂、月を背に雄々しく立ち上がる何か。
そこに浮かび上がるシルエット。
その場の全員が『彼』に視線を向ける。
『非情、無情のこの世の中で』
悠然と近づいてくる覆面を被った
特徴ある耳をピクピクさせ、背中のマントは風になびく。
『この世を照らす1等星』
ザッ!と音をたて立ち止まる物体。
鳴り響く音楽。
タラララララッタ!タラッタ、タッタッタ~タッタッタ!!
『我こそ、愛と自由の使者』
ババッ!!
『クマンダーZ(ズェェット)!!』
プスゥ~ン
小さな煙が背後に上がる。
『クッ!!2発目は無理があったか!』
「…ノベルさん、アレ」
「ギルドマスターがニヤニヤしながら何か作ってるのは知ってましたが…」
ボーゼンとするテリオ、頭を抱えるノベル。
『なめてんのかテメェ!』
悪役顔の5人が同時に覆面マスコットに襲いかかる。が、
『甘いわ!『クマンダー・エア・ショック』!!』
パァァァン!!
覆面の正拳突きが空を切る!
「クマンダーすげぇ!!」
「クマちゃん凄い!」
「うおぉぉぉ!!」
避難している子供たちは目をキラキラさせ、アイリ達女性2人はポカンとし…
「カッコいいニャ…」
ホルンは夢中になった。
『衛兵隊だ!投降しろ!』
気がつけば衛兵隊に囲まれた奴隷商たち。逃げ場も失い完全に怒り狂った。
『畜生!ふざけた野郎がふざけた真似しやがって!』
大鉈の男が振りかぶる、迎撃に腰を落とし構えをとるマスコット。
しかし、攻撃されることはなかった。
『ッ…ッアァァァァァ!!』
突然、発狂する鉈の男。
男の体は
『おい、どうした!』
『なんだよ、おい』
どうして良いかわからない奴隷商。
武器を構え神経を集中するテリオとノベル。
ザッ!と距離をとるクマンダー。
男は黒い
『グギャァァァァ!!』
黒いオーラを纏った男は魔獣の様な雄叫びをあげ、仲間の一人に鉈を振りかぶる。
『お、おい…冗談だろ?』
『アー…アアー…』
ブンッ!!
鉈が振り下ろされる…直前に男は吹き飛んだ。
鉈の男がいた場所に一人の男が降り立つ。月明かりに照らされて煌めく黄金の剣、風になびくマント、違和感だらけの覆面。
バキバキッ!
木箱へ飛ばされた男は虚ろな目で覆面の男を見、唸りながらゆっくりと立ち上がる。
そんな男に、覆面の剣士は悠然とし相手の瘴気を放つ武器に目をやる…
『呪いの武器か…しかも結構な業物だな』
そう言い黄金の剣を『ブンッ!』と振り下ろす。徐々に刀身に光が集まり一言『世界』に告げる。
『
その瞬間、辺りに衝撃が走る
輝く聖剣はまるで神話のようで
全ての人たちは魅せられた。
誰かの息を飲む音が聞こえる。
使い手が世界に数人しかいない魔法剣、それも『奇跡』の代名詞である光の剣を手にし敵を見据える。
『まさか…エクゼキュー…』
『いや、アイツらとは違うぞ』
『なんだあれは…』
衛兵たちの戸惑いの言葉が聞こえる。
困惑を浮かべる奴隷商。
終わったとばかりに構えを解く小熊。
『ヴアァァァァ!!』
距離を積め振り下ろされる大鉈、
姿が霞む覆面剣士、
『狼牙二式・飛燕』
!!!
左右同時の斬撃、宙を舞う男、大鉈は激しく砕け散り…
バァン!バァン!
男は大きくバウンドするとそのまま動かなくなった。
『と、取り押さえろ!』
慌ただしく動く衛兵隊、
「カッケェェェ!!」
「すっげぇぇぇ!!」
「きゃあぁぁ!!」
「くぁwせdrftgyふじこlp」
「クマンダーが見えないニャ…」
何人か反応がオカシかった。
…
…
「良くやった!2号!」
「2号言うな」
小熊は
「プクク…カッコ良かったぜ?2号君」(笑)
ブチッ!
2号の肩に手を置くテリオ。
不穏な空気を
「…お前を《3号》に引きずり下ろしてやる!」
「……………え?」
そんな姿を見ていた屋根の上の少女は大きなため息をついていた。
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