第56話 孤児院の攻防

「ノベルさん、静かですね」


「戦の前の静けさ…だね」


 宿からナバルがクマと出ていった後、俺とノベルさんは孤児院の防衛を開始した。


 いつの間にか日も落ちて月明かりが俺たちを照らす。真っ暗闇よりマシだけどな。

 孤児院の屋上からナナイちゃんがいん全体に結界を張る、子供たちと二人の女性は建物内の中央に固まっている。ホルンちゃんはみんなの護衛に当たってもらった、結界が破られない限り出番はなさそうだが…

 ノベルさんは白銀の槍を手にしている。


「ノベルさんは槍を使うんですか?」


 俺とノベルさんは孤児院の正面で待ち構える。彼がこちらに向くとコートがはためく、裏地に符呪の印が見えた…ノベルさんのコートもかなりの業物かなぁ。


「ええ、と言っても魔術が主体なんですがね。槍は媒介としての意味合いが大きいのですが近接戦のために槍術もかじってますよ。テリオ君こそ、その装備かなりの業物だよね?」


 俺の装備が誉められた。エヘヘ

 そう、俺の装備は魔の森で最初に遭遇したベヘモスの素材がふんだんに使われている。例えば…

 片手剣のバゼラードとダガーは、それぞれベヘモスの牙が主体にミスリル銀でこしらえた業物だ。革鎧もベヘモスの素材がふんだんに使われている超高級品だ。ここまでの逸品は王都にだって売ってない。


 ギルマス曰く

『その装備は人間サイドでは貴族が家宝にするほどの逸品ですので、まんまだと揉め事が起きますからなぁ、だからわざと《質素》に見えるような見た目になってます。色合いも平凡でしょ?』


 って言ってた。ボソッと『符呪も反則級なんですがね…』ってこぼしたのを俺はしっかり聞き取っていた。

 あざーっすギルマス殿!


「エヘヘ、わかります?でもノベルさんの槍もかなりのものですよね?」


「あ、わかった?実はこれ先端から柄までミスリル製なんだよ」


 …これだから魔王都ギルドランは。

 ミスリル銀と言えば教会の守護騎士『こっちは聖水で清められた《聖銀》だったはず』か、国王の近衛と言った超エリートが正式採用してる装備に使われているほどに信頼性のある素材だ。…実際は鉄との合金が普通なんだけどね。純ミスリルは金額的にも高すぎるらしい…そりゃそうだ。

 流石にオリハルコンやアダマンタイトになるとおとぎ話でしか出ないような稀少金属だ。しかしそんな物までもが魔王都ギルドランでは出回ってる。もうこの時点で『なにソレ?ふざけてるの?』ってなるよなぁ。まあ、金額がバカ高いけど…

 ソレもこれも街に面している《魔の森》という素材の宝庫があるからこそ出来る力業なんだが。


「さて、ようやく来たようですね」


 ノベルさんがそう、呟くと同時に胡散臭うさんくさい奴らが一人、二人と現れて…



「へぇ、聞いてた話とチゲぇなぁ。お前ら冒険者かぁ?」


 下卑げびた笑いを浮かべながら俺らに話しかけてきた、20人程仲間を引き連れてきた。その数が自信の現れなんだろうか。

 しかし…こいつらには悪いが全然ぜんぜん脅威に感じない。魔の森の魔物に慣れたせいかなぁ。どうみてもゴブリン以下だろ?

 おれ自身、アドレティドッグはキツいがリザードマンやオークならサシで勝てるくらいには強くなった。ホントにギルドさまさまだよ。


「このかず見ればわかるだろ?お前ら逃げた方が身のためだぜ」


 ああ、本当に数だけで図に乗っちゃってんだねぇ…まあ、俺らもBランク冒険者が屋上で援護してくれてるという最高のアドバンテージがあるだけにコイツらが可愛そうになってくる。


「あー、お前らには悪いがそいつは出来ねぇ。

っつーかお前ら降伏しねぇ?その方が互いの為だと思うんだが」


 俺がそう言うとやつらは一瞬ポカンとした後、大爆笑した。


「アッヒャッヒャッ!お前、俺らを前に…」


 あ~やっぱり数に溺れてんだなぁ、そう思った時、


『それは屋上のお嬢さんへの自信の現れですかな?』


!!

 辺りに声が響く!どこだ!

そう思った矢先だった。上空から無数の火の玉が俺たちを襲う!


『アイシクル・ブリッド!』


ガゴゴォン!!


 着弾前にナナイちゃんの氷の塊が火の玉に炸裂する。

ソレを合図に襲撃者が一斉に襲いかかってきた。


「野郎ども!いくぞぉ!!」


 ちっ!コイツらは兎も角、魔術師のレベルは解らねぇ!もしかしてヤベェんじゃねぇか?!


「テリオ君!群れ相手の戦闘法はわかりますね?!」


「おう!!」




 トラン君が言った通りに魔術の襲撃が始まった。正直、私は昼間のオジサン3人組みたいな人たちだけだと思ってたからとても驚いた。


『アレを落としますか、やりますねお嬢さん』


 相手は今だ姿を見せずに魔術を行使する。魔術の遠隔発動はかなり難しい技術のはず。


「私みたいな子供相手に大人げないですね」


『ぐっふふふ。面白いお嬢さんだ。

しかも高位の精霊魔術の使い手とは恐れ入る』


 索敵をかけながらも魔術障壁を展開していく。それにしても『普通の魔術』に偽装した私を《精霊魔術》と見破るなんて、この人はいったい…


!!


 嫌な感じがして1歩下がる。瞬間、何かが私の髪をかすった。


『ほお、魔術探知だけでなくソレも避けますか、感覚も一流ですね。本当に素晴らしい』


 どこから私を見ている?撃ち込まれる魔術は魔王都ギルドランの冒険者でも通じるほどの腕前だ。ランクで言えばB…もしかしたら私とそんなに変わらないかもしれない。それほどの魔術師ならばかなりの魔力を保持しているはずなのに未だに索敵に引っ掛からない。

 この魔術師に違和感を感じる。なんだろう…まさか?!


 私は無作為に撃ち込まれる魔術の発動先に氷の槍を撃ち込む。


「アイス・フラメア!」


ズガァァン!

 撃ち落としたのはコウモリ…ではなく丸い石にコウモリらしき羽を生やした物体だった。

(遠隔発動の正体!)


『やれやれ…本当にお嬢さんには驚かされる。

…ああ、残念ですが時間切れのようですねぇ』


 と、同時に打ち出される火の玉。

 防御術式で防ぐ前に剣にて叩き落とされる火の魔術。

私の前にマントをはためかせた《覆面》の剣士が立っていた。その手には兄の愛剣、黄金の剣アルン・グラムをたずさえて。

 次々と襲いかかる火の玉を叩き落としていく覆面剣士、次いでとばかりに剣を振り風の斬撃を飛ばしていく。撃ち落とされる遠隔装置。


『やれやれ…お二人揃ってとんでもない逸材ですね。

時間切れが残念でなりません。またどこかでお会いしましょう』


 と、同時に四方から飛んでくる物体。

 遠隔装置の自爆?!

 私は『二人を覆うように』結界を張る。着弾と同時に破裂する装置、全てが爆発したあと、


「…逃げ足の速えぇ野郎だ」

 覆面でこもった声の兄の声が聞こえた。

 



 …兄さんは私と目を合わせようとしなかった。兄さんの格好、何があったの?

 聞いても良いの?


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