第55話 小悪党に鉄槌を

 俺は40人の部下を持つ行商人だ。

 と言っても元はそれなりに有名な盗賊団だったんだがな。

 ある日たまたま襲った行商人の積み荷がなんと奴隷だった。殺さねぇ代わりに情報をしゃべらせてみればコイツはかなりの悪党だった。挙げ句には『俺と手を組まないか?ボスはあんたで良い。俺にはツテもある。俺とあんたが組めば裏社会だって牛耳れる!』なんて言いやがる。俺が裏社会のボスか、悪くねぇ。そう、思って実際に手を組んでからは面白いくらいに金が手に入る。今じゃその商人は俺の右腕だ。


 おっと、ガキを拐わせた部下が一人戻ってきた。


「上手くいったか?」


「へい!所詮しょせんガキ共でさあ」


 先に行かせた3人組が衛兵に引っ張られたと聞いたときはさすがに焦った。そもそもこんなに早く魔物の抗争が解決するとは思わなかったからすべての予定がずれ混んでしまった。だが、部下の使いを名乗る魔術師が…


「とりあえず一人、人質を用意してください、今すぐに。

 向こうもまさか立て続けに来るとは思わないでしょうね」


 衛兵が動いたばかりだから危なくないか?…だがこいつと話すと『妙な安心感』が湧いてくる。俺は言われるままに部下を動かし、本当に上手くいってしまった。まあ、これで残りのガキ共も捕らえて売ればなんの問題もねぇ。

 当初の予定では孤児院の女を潰した後、ガキどもを東の帝国に売っぱらう筈だった…。途中で予定が狂いかけたが何とかなったな。孤児院の女も奴隷で売れたら、むしろ良策かもしれねぇ。

 そんなことを考えてたら猿轡さるぐつわしたガキがわめき出す。


「うるせぇぞ!ガキが!」


「んー!んんーー!!」


 ボロボロ泣きながら何かをわめいてる。傷物にしちゃあ値段が下がるから下手に殴れねぇ、イラつくぜ。

 ポケットから出した懐中時計に目をやる。今頃手下が孤児院についた頃だろう。20人ほど行かせたから仮に抵抗されても返り討ちにできる、ガキ共に何かできるとは思わねぇがな。

 部下になった商人は王都に行くと言っていた。そこで一旦別れる際に持たせてきた酒が格別に旨い。俺はその酒をグラスに注ぎ今後の予定を考える。


「あの野郎は王都の仕事、上手くいってんのか?」


かしらぁ、ダートさんはそのへん上手くやりますよ」


「そうだな」


 子分の返事に満足した俺は2杯目を注ぐ…なんだ?今、入口の隠し扉の方から音がしたような…


「おい!外はどうなってる!」


「へい!巡回に8人ほど当ててますんでなんかあれば言ってきま…」



『ふっはっはっはっ!!』


タラララララッタ!タラッタ、タッタッタ~タッタッタ!!



 部下が言い終わる前に高笑いと妙に軽快な音楽が倉庫内に響き渡る。


「なんだ!誰だ!出てこい!」


 室内に散っている部下たちはすぐさま武器を構え警戒する。



『言われずとも出ていくさ!』




『トゥっ!!!』


ダン!!




 部屋のすみに高く積まれた大きな木箱の上に何かが降り立つ。

 そして立ち上がる何か。そこには



「天知る、地知る、われが知る!

悪事あくじさばけと誰かが言う!」



 …誰だよ。

 マントをはためかせ覆面を被ったクマらしき奇妙な物体がセリフと同時に手足をきびきび動かす。


 俺はバカにされてるんだろうか…

 そう思った瞬間、 



『我こそ、愛と自由の使者』


ババッ!!



『クマンダーZ《ズェェット》!!』


ドカーーン!!



 覆面の小熊が名乗りを上げた瞬間、背後はいごが爆発し色とりどりの煙が立ち上る。


 あ、小熊が隠れた。



「ゲホッ!ゲホッ!ケムリのりょう多すぎやん!…これは修正アリだな」




 やはり俺はバカにされてるんだろう。


「野郎共!そこのふざけた野郎をやっちまえ!」


「あ、ちょっと待ってね?けむり邪魔だし良く聞こえなかった」


 クマ野郎はいまだ手をあおいで煙をどかそうとしている。

 コイツ…

 殺す!俺は部下に命令を下そうと周りを見ると人質のガキは目を輝かせてる。

 アレが良いのか?どうみてもふざけてるとしか思えない。

 人質がいたじゃねぇか!あまりの馬鹿馬鹿しさにすっかり忘れてた。


「おい!そのガキ連れてこい!」


 部下がガキの襟首をつかむ…

 瞬間、壁にぶっとんだ!



バガァァン!!



 なんだ!何がおきた?!

 部下がいた場所には…


 クマ野郎と同じ覆面とマントを着けた男がいた。


「てめぇもあのイカレの仲間か!!」


「俺をあんな野郎と一緒にするなぁ!!」


 襲いかかった部下が殴り飛ばされていく。コイツ…なんて腕力してるんだ。人質にするはずだったガキもあっさり奪還されてしまった。動きからして明らかに凄腕なのだが…ソイツは落ちた剣に映る自分の姿を見ながら


「…くそっ、これじゃ俺もアホの仲間じゃねぇかよ」


「誰がアホじゃ!クマンダー2号!」


「2号言うな!」


 覆面野郎が言い合っている間に周りが騒がしくなる。まさか!


「動くな!衛兵隊だ!」


「くそが!」


 完全に囲まれたらしい。ちくしょう!



 ここまでは予定通りだ。人質だった少年は衛兵に預けるとすぐにホルンたちのもとへと急行する。


「ナバ…2号!いそぐぞ!!」


「え?…この格好で?」


「モタモタするなぁ!」


 オレはナバルを引きずって倉庫を飛び出した。待ってろよ!




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