第51話 開設と再開
宿屋『オレンジュ・リキュイン』の店内にある酒場では無事に帰ってきた冒険者と村人たちが酒盛りをしていた。
「俺、地竜って初めてみたよ!」
「回収を手伝ったけど死骸でも怖かったわ…」
「でも、あの剣士それを狩ったんだよな…」
「あの腕前だろ?結構有名なんじゃねぇか?」
「…俺は聞いたことないな」
「そういやお前のナマクラは?」
「…折れましたが何か?」
話題はやはりと言うべきかナバルの話に流れていく。
「ナマクラ
オレが入って行くとすれ違う人たちが目を
宿の姉ちゃんに(マスターは不在)ナバルの場所でも聞くかね。
「すんませ~ん、うちの連中どこにいます?」
「…トランさんですね?2階の203号室にいますよ」
あっさり教えてくれた…動物扱いしなかったぞ!ナバル君!
今夜はオレも部屋で寝れるのか?ヤベェ!!泣けてきた!
「おう…ありがとさん」
オレは溢れる涙をこらえながら階段を上がった。
「本当にクマがしゃべったわ…腹話術でも空耳でもなかったのね」
トントン
ドアをノックすると「誰だ?」とナバルの声が聞こえた。
「オレだ。トランだ」
そういうと扉が開かれる。
部屋の中央のテーブルには水晶と箱と板が組合わさった魔道具が置かれている。…あれなんだ?
ジジッ…ジジジッ…
『…と言うわけで周りの商会との協力関係を結ぶことで互いの利益を築いてるわけです』
あ、ギルマスの声が聞こえる。あれは通信魔道具かよ。あんなもん持ってきてたんだね。
手前はノベルさんが座っている。その左右をナバル達が固めている。そういや『護衛』なんだよな。ところで相手は…
3人のうち1人は酒場のマスターだ、緊張している。こうしてみるとゴツいから隣で立ってる騎士風のオッサンと見た目大差ないわ。
そしてその前で椅子にかけている男は…騎士の主かな?やたらと身なりが良いな。貴族かな?もしかして領主の代行ってやつかも…。
『…でも宜しいのですか?我らは…おわかりとは思いますが《魔族》ですよ?』
「ええ。わか国の王族はもちろん、教皇様も魔族が悪とは申しておりません。むしろ『悪とは自身の内に芽吹くもの。だからこそ自身を律し正しくあろうと努力するのだ』と言うことを公言されてますしね」
へえ…この世界のトップはまともなんだな。正直
そんな世界に転生しなくてよかったぜ。ナバルたちも意外そうな顔をしているな。まあ、
「それに…《
オッサンはちょっと得意気に言って見せた。
…
…
え?
公爵ぅぅぅ!!
あれ?!公爵って大抵王族の身内なんでね?爵位では最高位なんでね?なんかその上あったりなかったり覚えてないけど…とにかく上から数えた方が早いのは確かだわ!
ナバルたちはよく分かってないようだけどノベルさんは相変わらずのポーカーフェイスだ。…絶対あせってるよね。
「…魔族の方はご存じありませんでしたか?以前この辺はとある辺境伯の領土でしたが後継者がいなくなりまして、私がおさめることになったんですよ」
やべぇ、余計なこと考えてたら会話が変わってた。公爵のオッサンが笑顔で教えてくれた事だが…『いなくなった』ね。人間社会は怖ええよなぁ、貴族同士の事情は知らん方が良さそうだ。
もっとも
「とにかく、そのような組織があるのは我々としても好ましいですね。領主として貴殿方を歓迎しますよ」
『…早急とはいえ、このような形で申し訳ありません。いずれ直接うかがいたいのですがいかんせん、私の姿が姿ですので…』
「いえいえ、ファウスト殿、これは我らにとっても
…話の流れで何となく?わかるんだけど途中からだからなぁ…そんなことを考えていたら会談は終わったらしい。公爵が立ち上がり部屋を出ようとしたときだった。不意にナバルに向き、
「やはり…会話の流れで聞いていたけど君が『ナバル・グラディス』君だね?」
「…ええ」
親しそうに?話しかけるオッサン。困惑しながらも警戒をするナバル。知り合いではなさそうだな。引き抜きか?
「大きくなったね…」
その言葉でポカンとする一同。
「えっと…どこかでお会いしましたか?」
なれない敬語を必死に絞り出すナバル。オッサンの方はすんげぇ懐かしそうですよ?
「出会ったのはほんの僅かだからね。…私はね、君に助けてもらったことがあるんだよ」
「は、はぁ…ご無事で何よりです」
ナバルは変なかえしをぶちかました。
からかうネタが増えたぜ。プクク
「またいすれゆっくり話そうじゃないか」
そう言って公爵のオッサンたち3人は出ていった。
「兄さん、本当に覚えて無いんですか?」
「公爵って貴族だろ?スゲェ偉い。
…こっち居たとき…今もだけどバリッバリの庶民だぜ?俺。誰かと間違えてんじゃねぇかなぁ…」
ナバルとそんな話をしている時、ノベルさんは通信魔道具でギルマスと話してたらしい
「わかりました。ではそのように」
『…ええ、お願いしますよ。2、3日すれば此方からの派遣のメンバーも到着するでしょう。そうしたらある程度の手伝いが終わったら貴殿方は先に行ってください』
ギルマスとの話は終わったらしい。ノベルさんはオレらに向き、
「皆さん、この町に冒険者ギルドの支部の設立が決定しました。準備が忙しくなりますがよろしくお願いしますよ?」
嬉しそうに言うノベルさんにオレは思わず疑問をぶつける。
「なあ、あの公爵が『上』と相談の結果とか待った方がよくないか?」
と言うといにノベルさんはきっぱり答えた。
「いえ、恐らく逆ですね」
「逆?」
「そうです。あの公爵は余所からの妨害が入る前に『形にしてしまおう』としているんですよ。こちらの貴族は一枚岩ではありませんからね。
…我らと違って」
テーブルのお茶を飲み一息つくとノベルさんは続きを説明する。
「それに…地方の《1店舗》の事をわざわざ報告する必要はありませんしね。特に管理する貴族が承認すれば全く問題ないわけですよ。もっとも、我々が完全な《魔王軍の施設》なら大問題ですが、あくまでも《冒険者ギルド》は《独立機関》です。だからなんの問題もありませんよ」
…詭弁じゃね?と思ってはいけないね。それに…
「あの感じだとあの公爵のオッサン、自分のところからも人を派遣してきそうだな」
「でしょうね」
オレの問いかけに肯定で返すノベルさん。
「でもそれでいいんですよ。彼らを《受け入れているからこそ我々は中立》をアピール出来るんですから」
…ギルド内が情報戦の最前線になりそうやね…大丈夫か?
でもそういう状況、
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