第50話 トランと子供たち
ナバルたちがリザードマンとオークの群れと戦闘を開始した同時刻の事だった。
防衛線の外れ、街道に面した裏手口にも小さな門があった。その外れの方で二人の冒険者を薙ぎ倒し隠れるように3匹のリザードマンが侵入したのをトランは目撃した。急いで駆け出すトラン。
(おいおい!手薄なところをやられてんじゃん!!)
「ウインドクロス!」
風の魔力を帯び空中を疾駆するトラン。横で魔術師の冒険者が驚いて何か言ってるがよく聞こえなかった。
(ほとんどの奴らは出払ってんだろ?だったら中には弱い
壁の内側は開けた原っぱになっていて、もっとも近い建物は大きく古ぼけた建物だった。侵入したリザードマンは鼻を嗅ぎその建物に狙いを定め侵入する。
パリーン!とガラスの割れる音が鳴り、中で暴れているのか家具をなぎ倒す音が辺りに響く。
「きゃーっ!」
「コワイよぉ!」
「うわぁーん!」
どれも子供の叫び声だった。
一瞬で怒りのボルテージが振りきれたトラン。
「クソどもがぁ!!」
ドカァン!
扉を
「どっせーい!」
飛び込んだ勢いのままにリザードマンの側頭部を蹴り飛ばすトラン。面白いくらいに吹っ飛ぶリザードマンはバウンドをしつつそのまま白目を向いて気を失う。
「気に入らねぇなぁ」
トランが言い終わる瞬間に他の2匹が左右から斬りかかる。すかさず右手の剣爪を展開、トランが腕を振るうと剣ごと吹き飛ぶリザードマンたち。恐らく森で拾った金属製の武器だろう。トランの剣爪の敵ではなかった。
(この中じゃあ暴れたら不味いなぁ、間違いなく怪我人出るな。とりあえずリザードマンは全員外に叩き出すか)
そう決断するやポンポンと外に放り投げるトラン。それを茫然と見ている女性と子供たち。
端から見ると60cm程の小熊が2m近いリザードマンを3体も放り投げる姿はあまりにもシュールだった。
外に出てポンポンと手をはたくと。
「ここならいいな。かかってこいやぁ!」
…
…
…
白目を向いたままのリザードマンたち。足元をピューと風が吹く。
「…か、かかってこいやぁ!」
ピュー
「お姉ちゃん、あのクマちゃんどうしたの?」
「出てきちゃダメよ!」
「でも姉ちゃん、あのリザードマン気を失ってるぜ」
「でもでも、ちぃ兄ちゃん、クマちゃんがなんか言って…」
「気づかなかったんじゃね?」
「自分でやっつけたのに、じゃあなんで…」
「引っ込みつかなくなったんじゃね?」
「うわぁ…」
「…そっとしてあげましょ?」
(やめて!その気づかい!泣きそうになるから!)
そこへ3人の冒険者が駆け寄ってくる。
「おい!大丈夫か!」
冒険者はトランを見て戸惑う。
「オレは魔物じゃねぇぞ?ソイツらが入り込んだからとりあえずたたんでおいた」
「お、おう。助かったよ…
クマだよなぁ…しゃべってるけど…」
トランは後半よく聞き取れなかったけど納得したと判断した。捕らえられ連行されるリザードマンたち。
「なあ、外はどうなってる?」
トランの質問に困惑を浮かべる冒険者。
(…なんだろ、この反応)
「じつは、地竜が3匹も出たんだがな、一人の剣士が2匹を瞬殺してた」
驚く女性と子供たち。
「あ、あの、もう一匹は?」
「信じられないことにな…ビビりまくって全速力で森に逃げてった」
(ナバルだ。そんなことを出来るのはアイツしかいねぇ…でも一匹は逃げたのかぁ。悔しがってんだろうな。プクク)
「あ、あの、クマさん」
女性がおろおろしながらトランに近づく。
(まあ、さっきまで魔物に殺されかかってたもんなぁ。見た目クマのオレも怖いだろうに)
「おう。アンタらは無事か?」
なるべく柔らかい声で気にかけた。
「クマちゃんありがとー」
ドンと一人の少女がトランに飛び付く。
トランはホルンとのいつもの癖で頭を撫でると少女はニヘラッと笑った。それを見た女性と冒険者は安堵の表情を浮かべる。
続々とよってくる子供たち。
(…戦隊ヒーローの中の人たちはこんな気分なんだろうか…)
これがトランとこの子ら『マイユ孤児院』の人たちとの出会いだった。
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