第52話 マイユ孤児院の朝

 朝起きると小鳥のさえずりが聞こえる。なんと清々しいのだろう。

 ああ、朝とはこう、有るべきなのだ。


「おはよう、小鳥さん」


ビクッ!

バサバサバサ!


 窓を開けると小鳥はスゲェ勢いで羽ばたいていった。


 フッ、せっかちさんめ。


「…トランが壊れてるニャ」

 後ろでホルンが呆れ顔で突っ込んでくる。そう、オレはホルンとナナイの部屋に通されていた。


「…なんでオレはこっちの部屋なんだろね」

 女子部屋だよねぇ…

 この二人が小さいときから面倒を見てきたオレとしては、どちらかと言うと保護者の感覚?ともかく『しっかりせねば』と、気を引き締めなきゃとは思ってるから嬉しくも何ともない。


 …マジベッドに感動はしましたが何か?


「しょうがないよ。向こうもこっちも部屋のベッドが3つずつだからね」


 身支度を整えたナナイがそう説明してくれた。向こうもそうなんだ。ってことはベッドの数でオレはこっちに配置されたのかな?


「ところでトラン君はどうするの?私たちは適当にのんびりしなって言われてるの。兄さんは昨日の地竜を解体してから売りに行くって言ってたよ?」


「解体かぁ、めんどいな。それにテリオの訓練でもあるだろうし」


 そこでオレは昨日の子供たちを思い出した。魔物が踏み込んだからとはいえ建物の中が荒れちまったもんなぁ。


「ちょっと気になるところがあるからオレはそこかなぁ」


 オレがそう言うと二人は顔を見合わせる。そして


「トラン、ホルンたちもついていって良いかニャ?」


 そういや二人はあの子らの事を知らないんだよなぁ。手伝わせるのもなんだけど…


「別にいいけど…昨日荒らされたところを直しに行くくらいだぞ?」


「あ、わたし先に道具屋に寄って行っても良いですか?」


「良いんじゃね?こっちも約束してるわけじゃないからな」


 こうして宿で朝ごはんを食べたあと3人で出発した。


「ナナイは何が欲しいんだ?」


「何が売ってるのか見たかったかな。魔王都あっちと売ってるものは違うだろうから」


 それもそうか。それならオレも見ていくかな。





カランカラン♪


「へいらっしゃい!」

 ずいぶんと威勢が良いな…


「おいオヤジ、店内見せてもらうぜ」


「おう!…あれ?嬢ちゃん二人だよな?」


 オヤジは首をかしげながらカウンターの中で作業を始めた。 

ナナイは棚に並ばれているポーションを見ている。珍しい効果とかあるのかな?

 オレは魔道具らしきものを見るとするかね。そこで気づいたんだが魔法袋の類いがない。魔王都ギルドランで出回っているポーチ型は手のひらサイズの大きさながら一般家庭の湯船程の広さがある。魔王都ギルドランの冒険者たちはそれを2~3個程身に付けてるのが普通だな。(ポーション系や武器関連などカテゴリーで分けるヤツらがいたりと用途、理由は様々)

 因みにリュック型の中は四畳半の部屋から、それこそ体育館級などさまざま。符呪する魔術師の腕で決まるし、その分値段も上がっていく。…オレたちの魔法袋はバアちゃんお手製だから大変なことになってるが。っにしてもだ、それが無いって…品切か?


「おいオヤジ、この店に魔法袋は無いのか?」


「さすがにそんな高価な品はねぇなぁ。その代わりに調理台の魔道具や重さを軽減するカバンなんかがよく売れてくぜ」


 オヤジはオレのとなりにいるホルンを見ながら話していた。「ウニャ?」と首をかしげるホルンをよそにオレは掘り出し物がないか物色する。それにしても人間側こっちの冒険者たちは大変だな。荷物がかさ張って仕方ないだろうに。


 オレはそこで茶色の塊を見つけた。


「オヤジ、これなんだ?」

「ソイツは素材のひとつでな…」


 オレの想像通りの物があった。コレを加工すれば面白いものが出来そうだ。失敗するかもしれんから多めに買うかね。何に使うかはあとのお楽しみだぜ。


「…あれ?今のクマが…あれ?」


カランカラン♪





 そうして孤児院についたわけだが…


「オッス!元気にしてたか?」

「あー!昨日のクマちゃんだ!」


 ちびっこ軍団がオレにタックルをかましてくる。元気があり余ってるね君たち。後ろにいた大人の女性もよってきて


「昨日はありがとうございました。お連れの方もよく来てくれました」


 ナナイとホルンが挨拶を交わす。子供たちも二人に集まる。孤児院の中を何気なく見てみたら既に片付いていた。手伝うことは無かったね。


 ナナイとホルンの二人の周りに集まる率に男子が多いのは気のせいだろうか。

 おい!そこのお前!顔を赤くするんじゃない!この場にナバルがいなくてよかったぜ。

 テメー!ホルンに向かって顔を赤らめるな!


 ゴホン、オレは買ってきた茶色の塊をナナイに頼んで精霊魔法で暖めてもらう。熱いくらいがちょうどいいのよ。そこをオレの風魔法で膨らませる。

 子供たちは興味津々でオレを見ている。事前に話していたホルンやナナイも現物を見るまでイメージわかなかったらしい。好奇心で目がキラキラしている。


「いょっしゃ!イメージ通りだぜ!」

 オレが作ったもの…そう、樹脂の素材で作った『ゴムボール』だ。樹脂は本来、錬金術の材料として利用するらしい。


 ゴムを厚みに残し空気も入れすぎない。パンパンにすると顔面に当たったとき、軽い凶器になるんだよね。大きさはサッカーボールのサイズだ。


 1発で完成できたから残りのゴム材料で小振りのラケットと羽を作成する。

 バトミントンなんて何年もやってねぇな。


 …スゲェ不格好な羽とラケットになった。これちゃんと飛ぶか?



「トラン君は凄いね!樹脂の素材でこんなアイテムを思いつくなんて♪」


「トランは遊びの天才ニャ♪」


 ナナイとホルンの称賛に若干の気まずさを感じるオレ。

 …ごめん、これ前世の知識なんだわ。


 子供たちは初めて見る遊具に群がり遊び始めた。ボールの方はコートなしのドッジボールが始まったわ。これは全世界共通なのかねぇ。


 オレはバトミントンもどきの道具で実際に遊んで見せる。


「どうだ?こんな感じで遊ぶんだよ。出来そうだろ?」

 こっちは女の子たちが集まった。

 …遊具が足りねぇな。余った材料でさらにラケットと羽を作成する。


「トラン君でしたね。本当にありがとうございます」


「いえいえ、まあ息抜きは大事だからね」


 一番上のお姉さんにお礼を言われた。照れるな。それに…子供は元気に遊ぶに限るね。どこの世界だろうがきっと同じはずだ。

 あれ?子供たちの顔が険しくなって孤児院に入っていく。まるで何かから『逃げる』ように。中には泣きそうな顔をして…どうしたんだ?

 子供たちが見ていた視線の先には遠くからガラの悪そうなオッサンが3人、こっちに向かってきた。


 なんだろうね、テンプレ展開か?そういうのはいらないよ?

 面倒な出来事ってのは突然くるんだねぇ、オレたちの1日は長くなりそうだぜ。やれやれ。




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