3章 獣王国へ~旅上編

第46話 初めての人間の町で

 ナバルたちの故郷の村は領主が変わり、その名も『オルレンの町』と変更された。と同時に発展も進み、もう村の面影は全く無くなっていた。

 その中でもひときわ大きな建物があり、中は酒場と宿屋が一緒になっている。その店『オレンジュ・リキュイン』の店内の壁にはいくつかの張り紙がしてあった。

 人間サイドには冒険者ギルドは無いためこういった施設が代わりをしている。その中に一人の青年の目撃情報を求める張り紙がしてあった。


『名前-テリオ 性別-男 魔の森で行方不明。情報求む』


 張り紙にはテリオの似顔絵が書かれていた。



「なあマスター、アイツの情報来てないか?」

「…無いな」


「そっか…あれから随分たつのにな」


 マスターのグラスを拭く音が寂しげに響く。


「…もう半年だな」

「ああ…」


 はぐれてすぐの頃は森の中まで何度も入った。その都度、何度も死にそうな目に遭ったが諦めつかなかった。

 天に掛かる光の柱のあとに続く激しい爆音が鳴り響くなかでも、勇気をふり絞るように足を向けた。しかし、深く入るにつれ襲いかかる魔獣の激しさに『次は自分が…』と思うと心が折れていく。


 そんなある日、ここのマスターに

「昔の魔術師の言葉によぉ、『餅は餅屋』って言葉がある。プロの冒険者に情報を求めるのが良いんじゃねぇか?じゃねぇと今度はお前らがあぶねぇぞ」

 そう言われた。それからずいぶん経ったが成果は相変わらずだった。

 寂しさと苛立ちをごまかすのにエールを一杯飲み干す。3人でこの町に着たのに早々に一人欠けるとは当時は思いもしなかった。


「クソッ…」


 やはり自分達が…そう思う心と魔獣への恐怖心との板挟みに、今にも潰れそうになる心を誤魔化す事しか出来ない自分に泣きそうになった。


……


「ワゴ~ン、マスタ~~、いっそげよ、ほろ~ばしゃ~~」


「いつもと感じが違う歌だニャ」

「続きは?」

「オレも知らねぇ」

「…続きが気になるな」

「!!」


 馬車に揺られオレたちはようやく森を抜けると目の前に大きな町が見えてきた。ただし全体が高い壁に囲まれているが。


「デカイ壁だな」

「町は大体こんなもんだぞ。ここら辺は魔物に対してだが中央に行くと盗賊団とかに対してだがな」


「へー、盗賊団ねぇ」


 テリオの説明にナバルはぼんやり答える。魔王都ギルドランには盗賊はおろか犯罪自体が皆無だからだ。

 門の前は順番待ち…ということは無く、すんなり入れた。



「先は長いからよぉ、一旦この町で宿をとらねぇか?」

 そんなことをテリオは言ってきた。オレも本音を言うとその町の名物料理が食いたいしね。


「確かにな。それに人間側こっちの情報も欲しいな」


「情報ですか?兄さん」


「ああ、この先めんどくさい事に巻き込まれんのは勘弁だからな。噂も込みで知っておいて損はないだろ?」


「そうですね…」

(兄さんの事だから災難からやって来そうですが…)


「?どうした?ナナイ」


「いえ、なにも」


「あ、そう」


 ナナイの考えてることは何となくわかる。ナバルは災害吸引機だからね(笑)

 安心したまえナナイちゃんや、オレがフォローするぜ!という視線を向けると何故だろう…『あなたも同類どうるいですよ』という顔をされた。オレの勘違かんちがいだよね?


「テリオ君、この辺で大きめの宿はわかりますか?」

 ノベルさんも賛成らしい。テリオは最後にこの町に来たんだよな?


「確か宿と酒場が一緒になったデカイ店があるはずですよ」

テリオの案内でオレたちは大きな建物に向かった。


 建物に着くと馬車を脇に止めて店内に入る。入るとすぐに酒場になっていた。ちょっと雰囲気良いな。それに冒険者ギルドにどことなく雰囲気似てる。

 中では昼間っからひっかけてるヤツは流石に少ないな。バーテンらしきおっさんのとなりに女性の店員もいた。こっちが宿の受け付けかな?とりあえずカウンターに行くナバル。


「宿を取りたいんだが…ここは馬車を預けたりとかは出来るか?」


「ええ、店の裏手に厩舎がありますので係りのものが案内しますよ?ところで…何名さまでしょうか?」


 ナバル、ナナイ、ノベルにテリオ。

 ホルンにオレで6人だね。


 そこへ隣のマスターが俺たちを見て固まってる。ノベルさんを見てるけど獣人は珍しいのか?


「横から悪いんだが…あんたはテリオか?」


 あ、隣にいたテリオを見てたのね。


「あ?ああ、そうだが…」

 その答えを聞いて驚くマスター。


「おい!ランドル!起きろ!!」

 マスターは目の前で寝込んでる酔っぱらいをたたき起こした。


「なんだよマスター」

 酔っぱらいは寝ぼけながらオレらを見る。目が合うテリオと酔っぱらい。


「「おい…お前テリオ(ランドル)か?!」」


 固まる二人。


「お、おま、い、生きて…」

 そこまで言うとランドルと呼ばれた兄ちゃんは泣き崩れちまった。何この感動の対面。オレたちおいてけぼりなんですが…

なんかテリオももらい泣きしてる。オレはナバルに目をやると『そっとしてやろう』と言われた。

 そだね。落ち着けば話を聞かせてくれるかもだしね。とりあえずは宿だな。



「ああ、わりいな。泊まるのは6人だ」


 そこで女性はオレたちを見て、最後にオレを見て困った顔をする。


「あの~、たいへん申し訳ないのですが、使い魔は厩舎のほうでよろしいでしょうか」


 そう言いオレを見る。


 へ?…へ??


「あ、コイツは不味まずいのか?」

 ナバルはオレを見て言う。

 頑張れ!ここはマジで頼むぞ!


「ええ、流石に動物は他のお客様にも迷惑になりますので…」


 動物どうぶつ?!動物 あつかいは初めての体験よ?!


「ホルン君や!きみからもなんとか言って?!」



「Z z z z 」


「おねむの時間ですかぁ!」


 ホルンは酒場の席について寝てたよ!

 ウソぉん!(泣)


 オレがあがいてる間にもナバルは説明(と言う名の説得)を受けていた。


「トラン」


「おう!話ついたか?!」


「ごめん」


「バカやろぉぉぉ!」


 オレは厩舎で寝ることになりました。


「無いわぁーーー!」




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