第42話 新人研修とトラウマ

「おい、野郎しか居ないってどういう事だよ」


 オレの第一声のぼやきにポカンとするギルド職員(男)。


「え、え~と先ずは自己紹介から始めましょうか」


 はい、オレのぼやきは無かったことにされました。

 ここはギルドの端、巨翠亀ミリディエット・テスタ討伐時に納品受付をやっていた場所だ。周りを見るとオレたち4人以外にも二組の冒険者たちがいる。どうやらオレら以外にも奇特な奴らがいたらしい。


「…で、こちらが今回、護衛をしてくれるランクB冒険者のナバルさんたちです」

「どうもナバル・グラディスです」


 ナバルが適当な自己紹介をすると一人の《人間?》の新人が驚いた顔をして近寄ちかよってきた。


「え?ナバル?…マジかよ!」

 最初は怪訝な顔をしたナバルだがみるみるうちに驚きの顔に変わり、


「え?マジで…」

「おう!俺だよ!テリオだよ!」

「マジかよ!テリオ、お前何でここに?!」


 すごく嬉しそうに話し出す二人、ポカンとする周り。


「あ、すみません」

「すみませんでした」


 それに気づいて慌ててあやまる二人組。

 こっちに来る前の知り合いか?何気なくナナイを見るが覚えてないのか知らないらしい。そういえばナナイがこっち来たのは3才だったな。

 その『テリオ』はナナイを見ると驚くが覚えてないことを知ると笑って誤魔化していたがちょっとショックだったようだ。

 で、オレらの番だが、


「ホルンだニャ。よろしくニャ」


 ホルンの挨拶にデレデレになる新人ども。見た目は確かに愛くるしいがその戦力にビビるがいいさ。


 そしてオレの強さにらすがいいさ。


「えーゴホン!冒険者のトランです」

オレの挨拶に


「え?召喚獣?」

「マスコットだろ?」

「しゃべったぜ?」

「あら可愛いじゃな~い?」


 君ら言いたい放題…ちょっと待て最後のヤツはオレに近寄らないでマジで怖い。

そして先程のテリオは


「なんだ、ただの小熊か…」


 小声で良く聞こえなかったがスゲエ安心してた。

 なんだ?オレが魔王都ギルドラン1の狂戦士バーサーカーとかって噂になってんのか?これで道中も安心だと?ならテリオよ。その噂は真実だぜ(キラン)。


(トランのヤツ、またなんか勘違いしてるな)


 ナバルはオレを見て何故なぜかため息をついていた。フッフッフッ、ナバル君や、きみもいずれはオレみたいになれるさ。頑張りたまへ。


 出発になり道すがら『何故なぜ女性がいないのか』気になり聞き耳たててたら、女性の新人たちには女性冒険者のパーティーに依頼したらしい。チッ。


 そうこうしてると前方にアドレティ・ドッグの群れがたむろしていた。


「うわ、デカイな」

「こえぇぇ」

「でも防具の素材には良さそうだな」


 新人の反応は様々だな。基本、街の住人は壁の外には出ないからなぁ。

 魔王都は広範囲に壁で覆われてるから実を言うと敷地しきちはかなり広いらしい。街を中心に畑やら農園、牧場まであるとか…メインの街しか知らなかったよ。


おっと、『狩り組』の戦闘が始まったな。

「おらぁ!」

「援護入るぞ!」

「あ~ら、可愛いワンちゃんじゃな~い?」


 オレをロックオンしかけたのは派手なダンディ中年のオカマさんだった。しかも凄いイケメンでやんの。あれ?戦闘に参加してるってことはオレらと同じ冒険者か。…しかも強えぇなぁ。

 っにしてもなぁ…オンも生前アレくらいイケメンなら人生も違ったんだろうなぁ…しくしく。

そんな事を考えてたらこっちに2匹やって来た。


「うわぁ!」


 新人の一人が尻餅ついた。他の新人はソイツを庇おうと小さい盾で前に出始める、その中にテリオもいた。

 へえ、ギルマスが採用するだけあって根性はあるじゃない。全員足が震えてるけど。

 アドレティ・ドッグの前にナバルが入り込み、


「はっ!」


 一閃、犬が真っ二つになる。以前より太刀筋良くなってね?また強くなってるわ。

 2匹目はホルンのボディブローをくらい泡吹いてる。


「すげぇ」

「一撃かよ」

「あんな可愛い子まで…」

「あれ?俺たちの前に見えない壁があるぞ?」


 一人が何もない空間に手を当てて首をかしげてる。


「今、解除しますね」


 どうやらナナイの防御結界だったらしい。皆それがわかるとナナイに感謝の言葉をかけていく。


 …アレ?オレだけなにもしてねぇや。


… 


「硬いパンに干し肉だけって味気なくね?」

「しょうがねぇだろ、『冒険者の狩り』を体験する企画なんだから。いつものトランの料理が非常識なんだよ」

「そんなもんかねぇ…せめてスープ系は欲しいよな」

「…そうだな」


 狩りも一段落して開けた場所で昼食になったわけだが、今回は『一般的な冒険者』の食事を再現している。

 オレらは魔法袋から何でも出すから何時いつもやりたい放題なんだよね。

 今日は自重してるけど…


 新人のグループの中からテリオって言ったな。ソイツがこっちに歩いてきた。


「ナバルよぉ、お前今まで魔族側こっちで生活してたのか?」


 テリオが話しかけてきた、オレをチラチラ見ながら。


「ああ、色々あってな。住んでみると快適だぞ?それに大分強くなれたし」


「強くなりすぎだろ(笑)

さっきの犬型の魔物一匹でも兵士が複数で相手するのが普通なんだぜ。それをお前は一撃って…」


「そうなのか?」

「おう、そうなんだよ。でも何だな。わりかし元気そうで良かったよ」


 それから二人とも黙っちまった。

 長く離れていたからかどこかよそよそしいな。時間がたてば前みたいに仲良くなれるんでねぇの?なんて考えてるとオレを見て、


「アンタがトランか…」

「おうよ。なんかようか?」


 男に見つめられても嬉しくねぇぞ?


「アンタ、リリンさんとは中が良いのか?」


 なん、だと!こいつまさか!!


「そうだな。中は良いな」

「くっ!俺もギルドの職員になったんだ…まだ負けてねぇ」


こいつ!やはりか!!


「テリオ君といったね?獣人は強者を好むらしいぜ?」


どや!


「いや、俺だって鍛えていくし負けと決まってねぇし」


 お互いハッキリ言わない辺りチキン同士の意地の張り合いだが本人たちは必死なのよ?

 止めとばかりにオレが


「戦力でオレに勝てるつもりかな?」


 オレの言葉に…あれ?きょとんとしてる。違うでしょ!ビビるとこでしょ!


「はあ、そんな…ひいっ!」 


 あれ?時間差のビビり?オレが近づくと



「ちょ!!こっち来ないで!」


 フッフッフッ今さら遅いのだよ。

 さらに距離を詰めるオレ


「ひぃぃっ!!」


 …ビビりすぎじゃね?


『ハァ、ハァ、』


 !!

 テリオを見るとオレじゃなく視線はもっと上だ!


 オレの後ろに『何かがいる』!!


 恐る恐る後ろを向くと…




 ガチムチの中年オカマが鼻息荒く迫っていた。


「呼んだかしらぁ~」


『『!!』』


 何でだ!何故なぜコイツが!!

 その疑問をヤツのパーティーメンバーが答えてくれた。


「リリオさん多分 人違ひとちがいッスよ…」


「ギャー!

1文字違いで化け物召喚されてるぅ!」


「あらぁ…あんまりじゃなぁ~い?」


 オレはとっさにテリオを盾にした。


「ハァー!きたねぇぞ腐れクマァ!」


「うるせぇ!お前をかてにオレは大きく成長してやる!『君の事は忘れない』」


「ふざけんな!お前がえさになりやがれ!」


「アンタたち、『化け物』だの『えさ』だの好き勝手言ってくれるじゃなぁ~い?」


 ボキッ、ボキッと拳をならす筋肉中年リリオ


 震える獲物ふたり




『『ッアァァァァァ!!』』



 偵察に出ていたホルンとナナイが見たのはボロボロになったテリオとトランだった。何故か至るところにキスマークをつけて。



「兄さん、何があったんですか?」


「…反省会?」


「何で疑問系なんですか…」


「ナナイ、世の中には『知らない方が幸せ』な事もあるんだぜ」


「「??」」


 首をかしげるホルンとナナイ。

 暫くしたあと、トランはホルンにしがみついていた。


「オカマコワイ…オカマコワイ…」


「??」



 テリオはナバルにしがみついていた。


「オカマコワイ…オカマコワイ…」


「なんでお前は俺だよ…」


 こうして新人研修は二人の犠牲者だけで無事に終わった。





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