第39話 生還
「生きてたなぁ、俺!」
「今回はヤバかったな」
多数の魔獣の死体が横たわる中、兵と冒険者たちは互いの生存を喜びあっていた。
「まあ、
「やめろ。思い出させるな」
「死者なんぞ出してたら後が怖いぜ」
どうやら別の意味で必死だったようだ。
兵の一人が遺跡の方を見る。戦闘の終盤、幾度も爆発音が鳴り響いた方向だった。
「なあ、さつきの爆発、なんだと思う?」
「魔獣じゃねえのか?」
「
その爆音が合図かのように一体、また一体とベヘモスは逃げるように森に帰っていったのだった。
そんなことを話している兵の声に耳を傾けつつ、ナバルたちはトランの救助のための準備を進めていた。
(誰かは知らねぇが、あの半端ない魔力のぶつかり合いでベヘモスたちがビビって撤退したんだよなぁ。まあ、俺たちとしては助かったけど)
そんなことを考えてるとガドがナバルの元に駆け寄ってきた。
「ナバル!朗報だ!
はっ!とし、安堵する3人。
「よかった…ウィルが…そうか」
「ウィル兄ちゃん…」
「…ひぐっ…ひぐっ」
そんな3人を優しく見つめるガド。
(まったく…トランのやつめ…心配かけさせおって)
そして大規模な戦闘があったであろう西を向く。
(片やは陛下であろう。問題は相手の方だな。まともに戦えるものなぞ…)
そこまで考えていると視界の端に武道着の男が立ち去るのが見えた。
「待たれよ御仁、助太刀の礼もせぬまま送り出したとあっては仲間たちも納得せんだろう。もし
「礼には及ばん。俺にも利があっての…」
武道着の男が言い終わる前に兵士と冒険者が寄ってきた。
「あんたのお陰で速く済んだのは事実だぜ?」
「そう固く考えないでくれよ。はっきり言っちまうとダンナを含んで俺たちゃ宴がしてえんだよ」
嬉しそうにそう言ってきた。そんな彼らに折れた男は
「はぁ、わかった」
短くそう言った。
はしゃぐ冒険者と兵士を嬉しそうに見やるとガドは全員に聞こえるよう叫ぶ。
「よし!戦利品を回収したら撤退だ!
モタモタしてると宴が遠のくぞ?」
「勘弁してくだせぇ!」
「おい、さっさと片付けるぞ!」
せわしなく作業に入る彼らを見て今度も無事に済んだと安堵するガドだった。
…
……
「良かったねぇ。あっちの方も死者はゼロだそうだよ」
「ガドが居るからね。とはいえ彼の本領は一対一だからねぇ。それでも不得手な乱戦で全員生存ってのは流石だよ」
「その分あれも疲れがたまってるんじゃないかい?」
「そうだね…今度まとめて休みをあげるよ」
「その分、今度はあんたが頑張んな」
「わ、分かってるよ」
トランを魔女の家に送り届けたあと、優雅にお茶を楽しんでたところに釘を刺されて若干引き気味の
「ところでキャリィ、あの子をどう見る?」
「あんたと同じ答えだよ。間違いなく《
言われている当の本人は物珍しそうにキョロキョロしてる。
「《始祖》が最後に誕生したのはもう何百年も前だよね?
しかも《魔境》の魔獣の進化は初めてじゃないかい?」
「そうだねぇ。
…
「なあバアちゃん、その始祖って何だ?」
よろよろとオレが歩いてくる。
「まだ足がふらついてるじゃないか。
大人しく寝てな」
オレは近くの椅子に腰掛け
「へーきへーき、あんま寝てると床擦(とこず)れ出来るわ」
呆れ顔のバアちゃんの横からウィルがオレにお茶を持ってきてくれた。
「悪いね。魔王さま直々のお茶とか超贅沢じゃね?」
「あはは、お茶ひとつで好感持ってくれるなら安いものだね」
そう言いオレの
「始祖だったね。トラン君はその辺はどこまで知ってる?」
「サッパリなんも知らんのよ」
「そうさねぇ、その辺は雑学だから教えてなかったね」
バアちゃんは茶を一口飲むと教えてくれた。
「獣人はね、元になった動物や魔獣が進化した姿と言われてるんだよ。
そして魔力があり、弱い生き物ほど獣人に進化していったね。切っ掛けは一種の《魔法》と言われてるね」
「そういや魔術と魔法はちがうんだっけ?」
「
《世界》に認識される事象を起こしたのが魔術、
《世界》に変革をもたらすのが魔法、としたのさ。
でもね、ギルドカードを見るとわかるけどそんなもの、世界にしてみればどうでもいいのかもね。ただ、術の規模の目安にはなるねぇ」
そういやオレのカードにも《風魔法》《土魔法》だったな。
「話を戻すけどね、魔獣たちが《望んだ姿》に変化したのが獣人な訳だけど強い魔物が獣人にならない理由でもあるんだよ」
はっとした。つまり…
「『格下の人間』になるわけがない、ってこと?」
「そうだねぇ。特に魔境の魔獣たちはどれもが真性の怪物だからねぇ」
「はぁ~成る程ね。でも獣人の進化って元の大きさは関係ないんだね。だってあの子、元は30m 級の化け物だったもん」
「「は?!」」
あれ、なんか変なこと言った?数字の単位は『俺たちの世界』と同じだよなぁ。以前ギルマスに聞いたが随分前の転生者らしき人物によって広まったらしい。そんな事を考えてたら
「やれやれだねぇ」
「いや~トラン君はホント面白いなぁ。それってこの
ものすごい不本意なんだが…。オレが原因みたいに言うの止めてくれない?
結局この子はバアちゃんが面倒を見ることになった。
その後ナバルたちと会えたんだけど何故かホルンの様子がおかしかった。
「トランや、自業自得さね。お前が何とかしな」
バアちゃんあんまりだぜ。
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