第32話 期待と不安

「ようやく出来たよ。久々に作ると楽しいねぇ」


 バアちゃんに渡されたのは6年前の巨翠亀ミリディエット・テスタの時に作ると言ってたアクセサリーだ。


随分ずいぶん時間かけたね」


 呆れて言うオレに

「そうさね。半端は嫌いでね。ただ今回こんかいはやり過ぎたよ」


 笑いながらそんなことを言ってきた。



オレにはベルト。

ナバルにはゴツイ腕輪。

ホルンは首につけるチョーカー。

ナナイはイヤリング。


 みんなのはちょっとオシャレなデザインだった。オレのは何故なぜかバックルに鍵穴っぽいのがあるんだけど…何だろね?


「どんな効果があるんだ?」


 興味津々でナバルが聞く。ホルンやナナイは早速つけて見せ合いっこしてるし。


「まずはナバルだね。アンタのは《相乗ラミナ・ジェミニス》だよ。魔法剣の威力を底上げするね。込めた魔力の分だけ威力が跳ね上がる仕様だよ。ただ、今まで自分でやってた相乗の半分ほどの魔力で威力は倍以上だからあつかいには気を付けな」

 はあ?!半分の魔力で倍以上とか完全にチートじゃん!ナバルはフリーズしてた。本人が一番ビビってるし。…オレもビビってます。


「ナナイは《複製ラス・ヒエムス》だね。使う魔術をまんま複製して撃ち出せるのさ」

 連続魔術とでも言うのかな。あの極太レーザーの2発同時撃ちとかどこのゼロカス○ムだよ。


「ホルンは《残像ソウ・クリスカ》。ただし『実態を持った』残像だからねぇ」

 ホルンの動きは特に速いんだわ。それの分身多重攻撃とかオレが相手にするなら泣くね。


「トラン、アンタのは《覚醒リベルタス・アニマ》だよ。筋力や何やらが全開になるからね。」

 あ~ステータスアップね…アレ?


「なあバアちゃん、オレだけ地味じゃね?説明もやっつけ臭いし」


 バアちゃんは何とも言えない顔をして

「トラン、アンタには封印めいた扉モドキがいくつかあるんだよ。アタシも覚えのないね。ソイツをひらけないかと思ってねぇ」


!!


 なにそれ!オレに未知の力が!そう思うオレにバアちゃんは言い放った。


「ただ暴走するだけかもしれないから周りには誰もいないところで使いな」


「それただの狂戦士バーサーカーじゃん!」


 そんなオレを無視して

「いいかい?それらは全て《魔力》を消費して発動するタイプだよ。そして能力の発動は《開放リミット・ブレイク》それから名前を告げると発動するよ」


 オレだけ頭パッパラパーで暴れるとか…トホホ


 焼き上がった鉄サソリを旨そうに頬張(ほおば)るナバル。

「うっめぇ~」


 いいよねきみは。オレの恨めしそうな視線をガン無視して食ってくナバル君。

 まあいいや、オレも食うか


「うめ~!」


……


調度ちょうど良い時に鉄サソリの鱗が入りましたねぇ」


 ギルドマスターはスタッフと共に『輸送ゆそう用獣車』の外装強化の指示をしていた。

「ナバル坊たちでさぁ。アイツらも何だかんだで強くなりましたよ」


 そうオヤっさんがいう。オヤっさんはギルドの結成前から付き合いのあるドワーフと獣人のハーフだ。豪快で面倒見の良いおっさんだ、私も何度も助けられている。


「オヤっさんも彼らを何だかんだと気にしてますね」

「そりゃあなぁ。あんなちいせぇ頃から見てりゃあ気にもなるさ」


 彼らが魔王都ギルドランに来てから10年になるらしい。自分と会ったのはしばらくしてからだが、時間がたつのは早く感じる。


「それとよぉ、ギルマスの言う《魔動炉》って言ったか?アレの試作品が出来たからちょっと見てくれ」

「おお!もうですか!仕事が早いですね」

「ハッハッハ!仕組みさえ言ってくれれば何とでもなるさ。…にしてもよく思いつくな。俺にしてみればそっちの方がすげぇよ」

悪魔アクマしゅも色々ありますからなぁ」


 …まさか『異世界から転生』してきたとも言えるわけもなく適当にごまかした。

(でも、ようやくですか)

 これから出来るであろう《新たな物》に私は期待を膨らませたのだった。


……

………


 魔の森の南、森の入り口に隣接する人間の町、ある意味人間と魔族の境界線ともいえるその町は、数年前までは小さな村だった。

 とある貴族の領地になってから発展の一途をたどっている。

その町には貴族の寄付により大きな教会が建てられていて、その最上階の屋根の上にローブで頭から身体をすっぽり隠した少女が立っていた。


「あのいけすかない公爵も、こういう才能はあるのね」


 彼女は立派になった町を睥睨へいげいする。そして森の方を見て、


「でもやっぱり駄目ね。全然ダメ。そもそもなんで壁を作らないのよ。いくら千年間、手出ししてこなかったからって。しょせん《魔族》じゃない」


 森との間には小さな柵が敷かれていて、その途中には魔物避けの結界の要石かなめいしが設置されていた。それを見ながら少女はイライラしながらつぶやく。


「でも良いわ。今あそこで『面白いこと』が起きてるし。ちょっとだけ遊んであげる」


 そう言い残し少女の姿は跡形もなく消え去った。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る