第25話 魔族たちの宴6 討伐

「踏みつけ来るぞ!」

「地揺れに備えろ!」

「クソ!甲羅の破片飛ばしてきやがった!」


 怒号と剣撃が響く。ギルドマスターも冒険者のフォローに回るような動きで奮戦していた。


「ホルン殿、無理はしてませんか?」

 背中合わせに立つ相手に問う。足取りがわずかに鈍く感じたからだ。


「みんな頑張ってるニャ!勝ってトランにいっぱい誉めてもらうニャ!」

 思わず笑みがこぼれるギルドマスター。

「ですな」

 そしてナナイを見る。詠唱に入っているが、先ほどの大出力の砲撃はあと一度が限界だろう。ならば


「ホルン殿、我らが先ほどから攻撃して緩くなった『首の下の付け根』が見えますかな?」

「あるニャ、固くて割れないニャ」

 ギルドマスターはニヤリと口を歪めると


「割れないのであれば『はぎ落とし』ます」

「!! わかったニャ!」

 ホルンとギルドマスターは駆け出す、お互い逆方向に。

 ギルドマスターは大鎌に魔力を走らせる。


「ウオォォォォォ!」


 左のストレートが炸裂する。大きな甲羅と、隣の小さな鱗の間に僅かな隙間が生まれる。そこに鎌を食い込ませた。


(理論上ではいけるんですよね)

 ギルドマスターは文字道りの『悪魔の鎌』を起動させる。


ッーガガガガガガガ!!


 鎌からはあり得ない機械音が響きわたる。それは『掘削機』を模倣したギミックが仕込まれた鎌だった。

 深紅に変色したそれは元は『オリハルコン』に恥じない強度を誇る。固い鱗の裏の皮を削り落とすのには十分であった。さしもの巨翠亀ミリディエット・テスタも、これには激痛で暴れだす。が、ギルドマスターはある程度剥がれた鱗を今度は力任せに引きちぎる。


『ボアァァァァァ!』


 悲鳴をあげ一瞬白目を剥く巨翠亀。


「ナナイ、あそこだニャ!」


オーバーレイディスト穿フランムつ!』


 ホルンの合図に奇跡の一撃は2度めの光を放つ。


ドオォォォォン!!


 その光は巨翠亀ミリディエット・テスタを貫き、後ろの木々をも燃やし尽くし、がくりと膝をつく巨大な魔物はそのまま息絶えた。


「…ウオォォォォォ!」

「やった!1体倒したぞ!」


 1体の巨翠亀ミリディエット・テスタが遂に墜ちる。


 歓声は冒険者の目に光をともす。

 次はオレの番だと。

 瞬時に下がったギルドマスター

「まずは一体ですか」

 そう呟き問題の希少種に目を向けると。


 彼が目にしたのは巨翠亀ミリディエット・テスタの光の砲撃が町へ向けて撃たれた瞬間だった。



「師匠!コイツ腹が光りだした!」

「!!砲撃だ!

 射線上から全員待避!!!」


『ッアァァァァ!』

ドオォォォォン!!


 巨翠亀ミリディエット・テスタいななきと同時に極太のレーザー光線が口から放たれる。射線上の木々はことごとく焼き払われ、魔王都ギルドランの外壁へと迫る。


「くそ!」


 それを見たもの全員が絶望する。

 その瞬間


ガァァァァン


 光の砲撃は虹色の障壁に阻まれ霧散した。

「なんじゃありゃ」

「アレは…『永遠クリフォール・ド断崖エターナル』、ノーチェス様の結界だ」


 オレの呟きに師匠が教えてくれた。バアちゃんスゲェ。

 よく見れば亀の野郎、バカみたいにくち開けたまんまじゃねぇか。オレはほくそ笑むと


「ウィンドクロス!」


 風の鎧を纏うとヤツめがけて飛びだす。


ダダダァン!


 風の魔術で足の裏から加速、次いでに空中移動を決めると巨翠亀ミリディエット・テスタの口の中に飛び込んだ。


 砲撃後ならしばらく撃てねぇだろ。2発目なんざ撃たせねぇよ!腹のなかで暴れてやるぜ!



 トランが口の中に突撃しやがった!無茶しすぎだあのバカ野郎!


 トランの出鱈目な魔力はアイツが今どの辺にいるのか良くわかる。もう中腹に入り込んでいた。


「師匠!」

「ナバル!合わせろ!」

「おぅ!」


 俺と師匠で延びきった亀の首に斬撃を放つ


相乗そうじょう

 汝、安息クインテット終焉ディメンションを!」


「狼牙絶空!」


 黒く巨大な斬撃が2本、亀の首を交差する。

 と同時に亀の後ろからトランが突き抜けた。


ドオォォォォン!


 墜ちる希少種の首、風穴の空いた身体。

 2体目が墜ちた瞬間、3体目が冒険者たちによって墜とされた。


 一瞬の静寂せいじゃく、そして



「…やった」

「やったぞ」


「ウオォォ!勝ったぞー」


 冒険者も兵士も共に喜びあう。

 死線を越えた戦士達の歓声は響き渡った。


 てくてくと歩いてくるトラン。

 スゲェ笑顔で。コイツどんだけ無茶してんだよ。

 オレは誤魔化すように言った


「なあトランよぉ。お前、亀のケツから出たの?」 


「はへ?…あ!」

 トランは膝を着くと叫んだ。



「やっちまったァァ!」




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