第24話 魔族たちの宴5 暗黒の光

 横からとんでもない魔術?の砲撃が亀を撃つ。


「なんじゃありゃ!」

「ナナイ!!」


 オレの呟きにナバルが叫ぶ!どうやらナナイが撃たれたと勘違いしたらしい。現にピンピンしてるナナイを見てホッとしてるし。


「…でっかくなりやがって」

 嬉しそうな、寂しそうな微妙な顔をした。気持ちはわからんでもないかな。


「お兄ちゃんよぉ、今度はオレらの番だな!」

 オレの言葉にハッとした顔をして


「オゥ!」

 そう言い駆け出すナバルだった。


 父ちゃんの手伝いをするときも、

 魔王都ギルドランに来てからも、

 俺の後ろを着いてきた妹。

 父ちゃんの代わりに守らなきゃ。

ずっとそう、思ってた。


(あいつも頑張ってたんだなぁ)


 後ろを歩いてた妹は

 俺の隣に来ようと

 ずっと一生懸命だったのかな。


 そんな事を考えながらトランに付呪された剣を見る。

 最初は気持ち悪かった。感覚が吸い込まれるような今までにない感じだったから。


(そういえばバアちゃん言ってたなぁ)


……


「名前を呼ぶのか?」

 魔術の勉強の時だった。詠唱と呪文の説明でトランが質問した時だった。


「そうさ、トラン。お前が…そうだねぇ。町に遊びにいったとしようかね」

「いつも留守番だけどね」

ここぞとばかりにトランが愚痴る。


「男は過ぎたこと何時いつまでも言ってるとモテないよ」

「オレ、すみっこで泣いてていい?」

 既に膝を抱えて準備万端だった。


「バアちゃん、先いってくれ」

「お前の友情に涙出そうだぜ」

 言葉とは裏腹に恨めしそうにオレを見つめるクマ。そんなトランを撫でるホルン。


「ヘイ、ハニー。

優しさは時にナイフになるんだぜ」

「ハニー?ハチミツはンッマイニャ!」


 ため息をつくトラン。「キミはそのままでいてくれ」と意味わからないことを言っていた。ほっとこう。


「ハァ、とりあえずだよ。

町にいて『おい!』とか『お前!』って言ったところで誰を呼んでるわからないだろ?」

 確かに。

「魔術も同じだよ。『名前』を呼んで初めて形になるんだ。中には呼ばずに完成させる術士もおるがね」


「名前を呼ばなくても『発動』するの?」

「するよ。イメージがそれだけ強いと形になっちまうんだ。まあ、魔力の力業ちからわざだけどね」

 魔力の無駄遣いなんだがねと付け加える。


「それでも『名前』を呼んだ方が威力は上がるね」

 強くそう言った。

「特にナバル、アンタは特殊だ。キチンとした名前があるはずだからしっかり『聞く』んだよ」

 わかってるよ。『俺の中』にいるヤツにだろ?


……


 俺は剣を強く握る。俺を引きずり込んでくるコイツと。

そういえばこの黒いのまるで底がない『夜』みたいだな。そう思ったときだった。


『闇』が何かわかった気がした。


 目の前の亀を見てもそうだった。

『光』が正しい訳じゃない。

 だから

『闇』も悪いのとは違うんだ。


 …

『始マリニシテ終ワリナルモノ』


 他の属性の時と同じだ!

 あの声が聞こえた!


『我ハソノ欠片ニシテ全テナルモノ』


『我ハ…』


 そうか、それがお前の『名前』なんだな。



 トランの付呪の効果が切れる。

「ナバル!」

 トランは攻撃を防いでいるところだった。そんな顔をするなよ。俺はもう大丈夫だ。


 さあ、『世界』にお前の存在を刻んでやろう。

 俺は剣を天高く掲げると叫んだ。



「汝、安息クインテット終焉ディメンションを!」



 掲げた剣は『黒い光』を解き放つ!

 さあ、お前の力を見せてくれ!



 ナバルの剣が暗黒の光を放った

「なんだありゃ!」

 誰かが叫んだ。

 魔力崩壊とは違う黒いオーラ。

…いや、『黒い光』だ。

 いつもの軽いステップで敵を翻弄ほんろうし、数度斬りつける。魔力崩壊とは違う攻撃は巨翠亀ミリディエット・テスタに苦痛を刻み付ける。


「効いてやがるじゃねぇか!」

 ナバルも頑張ってんだ!オレも一丁気合い入れるか!

 オレは思いきり息を吸い込むと亀野郎に『咆哮』をぶちかました。



『ガアァァァァァッ!!』



 アレ?冒険者たちまでビビってこっち見てる…オレは仲間よ?

オレは何事もなかったように亀を襲いだすことにした。



 始め見たときは小熊の使い魔かと思った。トップランクのウィルさんの知り合いらしい。あの気さくな冒険者の知人なら悪いヤツじゃないだろう。

 冒険者仲間でも『面白いヤツが入った』と噂にはなっていた。隠れファンの多いリリンさんに目をつけるとは、やるなコイツ。

俺たちもようやく中級ランクになってこれからという時だった。


巨翠亀ミリディエット・テスタの討伐


 コイツはツイてる!

 メンバー全員が興奮した。その日は宴会したほどだ。次の日の買い出しは歩くのもしんどかったが。


 戦場につくとクマの相棒の少年が襲われた。腕はたつが相手が悪い。そう思ったのもつかの間、何と光の剣で対抗した。スゲェ逸材じゃないか!今度パーティーに誘ってみよう。


 戦いが激化した。デカいのは亜種ではなく『希少種』だった。

 でも不安はなかった。俺たちだけなら逃げる算段で一杯だが、ここには他の冒険者と軍の奴等もいる。それに…

 あの『剣狼』の剣技を間近で見られるんだ!こんな幸運まず無いだろう。


 それに『怪物』はもう一人いた。

 ギルドマスターだ。見た目からそうとう強いのでは?と囁かれていたが、アレは規格外の強さだ。巨翠亀ミリディエット・テスタの踏みつけを弾き返す時点でどちらが魔物かわからない。

 勝てる!そう思い突っ込もうとした時だ。


「汝、安息クインテット終焉ディメンションを!」


 そう叫び声が聞こえたら少年の剣は今度は闇の光を放っていた!


 俺たちはそれを知っていた。かつてキングベヘモスが魔王都を襲ったとき、仮面をつけた魔王陛下が一撃でふった技が『暗黒の光』を放っていたのだ。しかし驚くのはそれだけではなかった。


『ガアァァァァァッ!!』


 心臓を鷲掴みにされたような恐怖が全身を走り抜ける。


 声の主はあの時の『小熊』だった。

 他の冒険者も俺と同じなのだろう、警戒感をあらわにすると小熊は少し落ち込んで誤魔化すように亀に攻撃を仕掛けた。左右10本の剣爪を展開して。


「しゃべる黒刃熊ニグレドラベアとか…聞いたことねぇぞ」


 …敵じゃなくてホントによかったぜ。




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