第23話 魔族たちの宴4 少女たちの冒険

「みんな!オレたちは右端のヤツを行くぞ!」


 ナバルが叫んで端のヤツに駆け出す…が、先頭を歩く一際ひときわデカいのがナバルに向かって歩き出した。


「うげ!こっち来るんじゃねぇよ!」

 そう叫ぶと小太刀を抜き


顕現スピリストする覇王息吹スパーダ!』


 光の剣を出現させると斬りつけた。距離があるため牽制けんせいかと思いきや光の斬撃が亀に向かって飛んでいく。

魔物は基本的に『光属性』に弱いという特徴があるのだ。


「ナバルお前!あんなことで来たのかよ!」


 飛ぶ斬撃、しかも光属性の剣とは恐れ入る。しかしオレの驚きは次の瞬間消し飛んだ。斬撃を受けた巨大な亀は輝き出したのだ。


「離れろ!こいつは亜種ではない!『希少種きしょうしゅ』だ!」


 師匠の叫びで一斉に距離をとる冒険者と軍の者たち。彼らの目はすでに観察し、行動を分析している。

 いままでデカいだけの亀は他の2体とは明らかに違う光をまとい俺たちを襲いだす。


「オイ!どう言うことだ!」

 オレの叫びに駆けつけてくれた師匠が答えた。


「アレの希少種は『光属性』なのだ!」

 師匠の言葉を聞きナバルは青くなって


「オレ、もしかして失敗したかな」

「いや、アレを見破るには初めに光属性で『攻撃』するのがてっとり早いのだよ」

 師匠のフォローが入るがヤバイことに代わりはない。光属性は攻撃面で最強に近いのだから。


「亜種と違うの?!」

「亜種は熱線を吐く!だがアレは…」

 ああ、もうわかったわ。でも待てよ?

「じゃあ、離れちゃ不味いんじゃ!」

「光線の前に予備動作がある!それは亜種と同じだ!」


 攻撃の手を休めず、オレと師匠は疑問を解消していく。にしても最悪だな。光属性のビームを吐くのかよ。


「強力な魔力崩壊の使い手で囲め!

魔力抵抗レジストを決して緩めるな!」


『『オオッ!!』』


 魔族にとっても光属性は驚異そのものだ。しかし、恐れることなく、むしろ嬉々として襲いかかる兵と冒険者たち。

 その動きは、とても寄せ集めの集団とは思えぬほどに練度の高い動きだった。


「「すっげぇ」」

 思わずナバルとハモってしまった。

 後方からも薄黒いオーラを纏った矢が雨のように降り注ぐ。エルフの部隊のようだ。彼らが撃つ矢の中で黒いレーザービーム…のような矢が混じっている、どんなヤツだよ。


 その弓兵は…ドワーフのガットだった。


 ちょっと待て!エルフより凄腕のドワーフってどうなのよ!

ガットの矢は魔物の足、の間接かんせつ裏、ちょうどけんの部分だろうかボッロボロに崩している。それを3匹同時にやってるからもう、わけが分からない。


 一度距離をとると全体を見回す。

「よし、もっかい行くぞ!」

「ちょっと待った!俺、魔力崩壊使えねぇよ!」


 あ、そうだった。…待てよ?

オレは自分の剣爪に宿った魔力崩壊のオーラを見ると

(そういやオレは浸食型だったよなぁ)

「なあ、ナバル、オレの魔力崩壊が付呪ふじゅ出来るか、やってみるか?」

 ナバルは大きく目を見開くと

「駄目元で頼む!」


 ナバルはオレに剣のみねを向ける。みねに手をのせ、自身の剣爪に宿らせるよう、小太刀に乗せてみる。


 小太刀は黒紫色のオーラに包まれた!

よし!成功だ!


「おお…気持ち悪りぃ…」

「失敬だなぁキミぃ!」

 気持ち悪いは無いだろ、泣くよオレ。



 ホルンとナナイは当初の予定通り、はぐれた一匹を相手取ることにした。


「じいちゃん!出番だニャ!」


 ホルンの叫びに答えるかのように胸のペンダントが輝きだす。

その光はホルンの両手足、胸と腰に収束する。そして…


 指貫から肘までをしっかりガードしている手甲、

 シャープながらも堅牢な造りの具足、

 動きを妨げないライトアーマー。

 その光は機能美と芸術をあわせ持つ防具へと姿を変える。これこそ武具精霊となった老虎の現在の姿だった。


 顕現・白王凱歌アルベドラシミュルクロス


「力が湧いてくるニャ!」


ドゥゥン!!


 そう言うや否や、彼女は瞬時に距離を詰める、と同時に6発の打撃を当てる。巨翠亀ミリディエット・テスタが反撃を試みるとき彼女はもういない。逆の足、腹に鈍い痛みを感じたがそこにもいない。ホルンのヒット&ウェイは現役冒険者を唸らせるのに十分な動きだった。


ザザァッ!


 ナナイのところまで一度引くホルン。

 それはナナイの詠唱が終わったことを意味する。


「みんな!ここから真っ直ぐにデカいの行くニャ!」


 ホルンの叫びに即反応する冒険者たち。ナナイの詠唱に気づいていた彼らはその合図を待っていたのだ。直線上が開ける。

 直後、輝く両手を広げていたナナイは、ゆっくりと手を合わせていき


オーバーレイディスト穿フランムつ!』


 光・闇・火・水・風・地、全ての精霊の力を束ね幾重にも紡いだ砲撃。

 伝説キャリバンヌ魔女ノーチェスより託された奇跡のひとつを行使した。


 二人はトランたちが特訓している頃、彼女たちなりの研鑽をしていたのだ。この時ようやく実を結んだ。


 極太の破壊砲を受けた巨翠亀ミリディエット・テスタは破片を撒き散らしながらも最後は後ろの両足でがっしりと踏ん張りきった。


「…頑丈だニャァ」

「もう一回だね!ホルンちゃん!」

「ニャ!」


 彼女たちは駆ける。もう待っているだけではないと証明するかのように。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る