第22話 魔族たちの宴3 開戦前夜

「第1偵察隊より報告!」


 魔王都より1日ほど東に進むと幾ばくか開けた場所があり、現在ではそこが

『ミリディエットテスタ討伐隊』のベースキャンプになっている。その中でひときわ大きなテントが司令室になっていた。


「うむ、聞こう」

「本隊より20キロ先にミリディエットテスタを3体確認!その内の一体は、かなり大型のようで通常より倍はあるかと」


「「「おお」」」


 どよめきと感嘆の入り交じった声が上がる。

「では、開戦は2日後か、魔王城とギルドに至急連絡!」

「御意!」

(…倍の大きさか、もしや『亜種』ではあるまいな)

 ガドは指示を飛ばした後、遥か東を見つめるのだった。


……


『緊急依頼書

 ミリディエットテスタ2体討伐』


『緊急依頼書

 ミリディエットテスタ(亜種の可能性あり)一体討伐』


 ギルド内は慌ただしくなった。お祭り騒ぎとはいえ、流石にランクごとに役割分担がなされてるらしい。


「亜種って何だよ!」

「ヤベェ!ランク足りねぇから亜種行けないわ(泣)」

「するってぇと今回3体も出たのかよ!」

「報酬の心配いらないじゃねぇか!ヒャッホォーー!」


 冒険者たちの士気は最高潮に達している。


「順番に並んでくださーい!」

 受付嬢たちの声が飛び交うなか、一人の男の登場で場は静まり返った。


 青い肌に山羊と狼を足したような顔とツノ。鍛えあげた身体はまるで鋼のように強靭。身に纏うのは赤黒い装飾のされた漆黒の鎧、携えるは深紅の大鎌。

 戦闘準備を整えたギルドマスターだった。

緊張と高揚が織混ざる奇妙な空気の中、彼の言葉は良く通った。


「良く来た冒険者諸君!皆が待ちわびた獲物の襲来である!諸君らには思う存分に暴れてもらおう!」


『『オォォォォォ!!』』


 全員の目に歓喜と闘争心が宿る。その端で出発を待つ冒険者のパーティーがいた。

 ナバルたちである。鋼鉄のバトルスーツを違和感なく着こなし、腰の小太刀を早く振るいたいのだろうか先程から柄を弄っている。


「ようやくだな」

少年の言葉に3人は大きく頷く。


「亜種?は上級者や軍に任せるとして、オレらはどっちを攻める?」

オレの問いにナバルは少し考えると


「3匹の中で一番はぐれてるヤツかな。他の2体に邪魔されたらたまんねぇよ」

「なら兄ちゃん、最初、高いところで様子みた方がいいよね」

「ガドのおっちゃんが見張り台を造ったって言ってたニャ」

「なら決まりだな。行こうぜみんな!」

「「「おーっ!」」」


……


 ギルドから続々と旅立つ冒険者たち。彼らと獣車の列を屋上から見送っていると知った顔が見える。彼ら4人は笑いながら歩いていた。ふと小熊がこちらを見ると大きく手を振りだし他の3人もこちらを見つけたのだろう、笑顔を浮かべ手を振った。


「良い子達ですわね、ノーチェス様。」

「…騒がしいだけさね。退屈しないがね。それよりアンタの旦那も行くんだろ?」


隣にいるエリナも柔らかい笑顔で答える。

「ええ…先程うんざりするほど抱き…オホン!泣き言いってましたからり出しましたわ」

「やれやれ」


 ハァとため息をつく魔女はゆっくりと据え付けられた椅子に腰かける。

「ノーチェス様は行かれませんの?」

「アタシは町にいるよ。亜種かも知れないんだろ?一体は」

「ええ」

「なら町にいて結界の1つも張っておくよ」


 アレは最初の見た目では亜種かどうか分からないからねぇ。用心に越したことはないだろうさ。


「王城の方も出たのですよね?」

「そうだねぇ…東以外に新型のゴーレムを配置するって言ってたけどねぇ」

「陛下がですか?」

「ああ、そうだよ。相変わらず子供みたいに目をキラキラさせてはしゃいでたねぇ。アレもずいぶん変わったよ」


 そう、出会った頃は『無機質』そのものだったねえ。


「想像つきませんわね」

「アレを変えたのはアタシでもなけりゃ初代剣狼でもないからねぇ」

「あれからもう、千年も経つんだねぇ」


……


 軍のベースキャンプにはわりとすんなり着いた。まあ、雑魚の魔獣はミリなんたらにビビって逃げてるらしいし怖いもの知らずな魔物は先を行く冒険者にボッコボコにされてた。たまにじゃんけんで獲物争奪戦してるし。


「ってか『じゃんけん』あるのかよ」

「私が教えたんですよ」

 オレのつぶやきに、いつの間にか隣を歩いてるギルドマスターが答えてくれた。


「…なあ、ギルマスさ、この祭りが終わったらオレとサシで話せねぇ?」


「そうですな。私もそうしたいと思っていたのですよ。《故郷・・》の事とか」

 いつかはハッキリさせたかったんだよね。それは向こうも同じだったようだ。


 冒険者たちは到着すると各々それぞれテントを張り、武器を手入れするもの、さっさと寝る者、飯を食うものなどわりと自由に行動を移す。オレたちはというと、流石に疲れたのかナナイとホルンは飯を食わずに寝てしまった。オレとナバルは順番に火の番をすることにした。

 翌朝、さっさと飯を食ったオレたちは軍が用意した高台に上っていた。オレの隣にはギルマスもいる。


「実は私、ミリディエットテスタを見るの初めてなんですよ」

「へえ、色々美味しい魔物ってのは良く聞くけど『どんな魔物か』聞かないな」

「そうなんですよねぇ…かなり大きいらしいのですが…」

 そんな会話をしてると地響きがし始める。


『きたぞぉぉ!!』


ガンガンガン!!


 合図の鐘が鳴り響く。

 オレとギルマスはハモってしまった。


「「カメじゃん!!」」




巨翠亀ミリディエット・テスタ


 遥か東の死滅の谷から来ると言われる巨大な亀型で岩石系の魔物。獲得できる素材は希少金属、宝石、高純度の魔石など数多くのレアアイテムを獲得できる。通常個体からしてかなり巨大であり、通るだけで村などは壊滅してしまうため、通常は小型の魔物は逃げていく。


 …にしてもデカすぎだろ、。

「おいおい、野球場のドームじゃねぇかよ」


 そう、それに足が生えて歩いているのを想像してほしい。オレがそうボやくとギルマスはどこから出したのかダテ眼鏡をかけ


「イソノ、野球しようぜ!」

「うるせぇよ!緊急事態だっつーの!そのネタ、オレにしか通じねぇよ!」


 ツッこまれたギルマスは嬉しそうに

「そうなんですよ、皆さんポカンとするだけでつまらないんですよ」

 心底やるせなかったとボやく。

 はあ、もうだいたい分かっちゃいるけどね。


「まあ、続きは生き残ってからやろうや!」

 オレたちは飛び出した。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る