第20話 魔族たちの宴1世界情勢と事前の対策

「すまんが二人とも、明日からしばらもくは修練は休みにしたいがよろしいか?」


 今日の修行が終わった直後、師匠はそう言い出した。珍しいね。


「オレらは別にいいっスけど、どうしたんです?」


 何気なくナバルを見るが知らないようだ。


「実はのう、魔王都ギルドランにミリディエットテスタが接近しておるのだ」


 みりで…何だって?師匠の説明によるとそれは200mを超える大型魔獣らしい。確かに大事おおごとだな。


「それにのう、200年ぶりのせいで魔王都ギルドランはお祭り騒ぎなのだよ」

「魔獣が来るのにお祭り騒ぎ?どゆこと?」

首をかしげるオレとナバル。

「そうか、そこから話さねばならんかぁ」


 話が長くなりそうなのでバアちゃんちで茶を飲みながら聞くことにした。この時、初めて茶請けにポテチと塩味の煎餅せんべいを出したんだが、まあ、エライ勢いで無くなってったわ。

見てると好みが別れてるね。ポテチは子供勢 (ナバル、ナナイ、ホルン)。

 で、大人勢 (バアちゃん、師匠)は煎餅寄りらしい。ウィルは満遍まんべんなくまんでる…

って!なんで魔王がいるんだよ!!


「「「ウマウマ」」」

…子供勢はほっとこう。


「で、師匠さ、魔獣が来るのにお祭り騒ぎって『それだけ忙しい』って意味じゃないんだよね?」


 煎餅を食べる手を止めると、 


「そうだな。そのままの意味だ。

実際に出店でみせも出るしのう」


 そんな会話をしてるとバアちゃんと魔王ウィルから


「そういやアンタ等は初めてだったねぇ」

「ミリディエットテスタはね、素材の宝庫なんだよ。実際にアレからは大量の希少金属から、それこそ宝石、ひいては高純度の魔石までれるんだよ」


まじか!!


「配当はどうなるんだ?」

「基本は『取得した者』なんだけどね…魔王軍としてはいくらかを回収、勿論もちろん本人の希望のものは渡してだよ?その町へと分配が今まで通りなんだよ。そうしないと戦えない者たちがあんまりだからね」


 へー、『力こそ正義』じゃないよな。相変わらず。そう思ったら、すかさずウィルが


「やっぱり『魔族らしくない』かな?」


 笑いながらそんなことを言ってきた。


「実際に今の魔王都ギルドランが建国する前はそれこそ『力こそすべて』だったんだよね」


 それを聞いていたバアちゃんは


「懐かしいねぇ。アンタの意思に賛同した子達で始まったんだよねぇ」

「…ちょっと待って?賛同しなかった奴らは?」

「「さあ?」」


 バアちゃんと魔王、二人して首をかしげる。おいおい


「どこかで集団になって暮らしてんじゃない?」

「名前は聞かないねぇ」


 あ、こっちが滅ぼしたとかじゃないのね。なら良いか?

そこへ師匠が


「元々大所帯のところはそのままだがな」


 へぇ、大所帯ねぇ。


人間ヒューマン以外で山脈や森林に隠匿してるドワーフやエルフを除くと、巨大勢力は今ある中では3つだな。」


 そして教えてくれた。


▪ ▪ ▪ ▪


魔王勢


魔王

ヴィレント・イル・ギルドラン


国家; 首都及び魔の森全域

首都;魔王都ギルドラン


勢力

種族が混成、魔王の理想に共感した者たち

保有戦力; 魔王軍

   (剣狼ガド率いる陸戦部隊)


▪ ▪ ▪ ▪ 


獣王勢


獣王

ガウニス・フォン・フェルヴォーレ


国家; 南東にあるデンテ諸島全域

首都; ひときわ大きい島

   フェルヴォーレ


勢力

獣人。

保有戦力, 海上戦最強部隊

   『テンタクルス』など


▪ ▪ ▪ ▪


龍王勢


龍王 (魔龍大公)

ヴォーグルス・グラン・ローゼンハイト


国家; 魔の森より東にあるアングルス山脈全域

首都; 世界最高峰の山『グラフオール山』

  のふもとローゼンハイト


勢力

龍人族ドラグーン

保有戦力; 空挺師団(飛空挺の目撃情報あり)

   『ドラッケン』など


▪ ▪ ▪ ▪


 思いの外、色々とあるのねぇ。心配になってきたわ。


「なあ、戦争とかあるのか?」


 オレの問いに3人は「そういえば」といった感じだ。あったらこんなにのほほんとしてないわな。


龍人族ドラグーンは他種族に無関心だしね。獣人族は海の上がメインだし…」


 ウィルがそう言うとバアちゃんが思い出したように


「そういえばウィルや、100年ほど前に獣王の坊やの戴冠式にアンタもばれたんじゃなかったかい?」


 ウィルが懐かしそうに微笑んで


「あったね。ヴォーじい、龍王と3人で久しぶりに飲んだのもアレ以来だね」


 魔王、獣王、龍王の3人でかよ!その輪に近づきたくねぇ!

そう思ったらウィルが空の容器を差し出して


「おかわり頼むよ」


アンタまったりしすぎじゃね?



「なんの話しだっけ?

…あ、ミリディエットテスタだよ!」


 ありがたいことに魔王ウィルの方から思い出してくれた。


「魔王軍の対応は話したけど、今回は冒険者も居るだろ?」

「そう、それ!今回は軍で回収出来る素材も減るんじゃないの?」


 オレがそう言うと魔王はニヤリと笑って


「それもすでに手を打っているよ」


 気がつけば全員がウィルの話に耳を傾けていた。それに気づいたウィルは「ゴホン!まあ、元はギルドマスターのアイデアなんだけどね」と、前置きをして


「ギルドにポイント制を設けてもらったんだよ」


 ナバルたちはピンと来てないようだった。あのギルマス、良く頭が回るなぁ。変態だけど。ウィルの説明が続く。


「ミリディエットテスタからの素材を納品すると、素材に応じた『ポイント』が支給される。で、そのポイントでギルドに保有されてるアイテムと交換できるってシステムなんだよ」




つまりこういうことだ。


とある名剣=1000ポイント


素材を納品➡ポイント獲得


1000ポイント貯まる➡ポイントと交換で名剣ゲット



 確かにコレなら素材が集まるな。でもそんなに魅力的な武具がギルドにあるのか?レンタルの武具が足りないから鉄鉱石のクエストを出したくらいなのに…そう思ったら


「私 みずから手を加えた武具をあげてるから問題ないよ」


 …え~魔王へっぽこの武具~。

そう思ったらまさかの師匠からフォローが入った。


「陛下は元々、武具作りが趣味だったのだ。最近こそ作られていなかったがな。過去に造られた中で最高峰の七つの武器は七神具セブンマイスズと言われて保有する国では国宝に指定しているのだぞ?

そしてワシの夜月もその一振りだ」


 な、なんだと!


「まさか!残りの幾つかが出るのか?!」


 オレの叫びに魔王と師匠はそろって流石さすがに無いと否定した。


「今回は町の鍛冶屋に依頼したものだよ。もっとも材料はミスリル等の希少金属に上位魔獣の部位からだし。

付呪と仕上げは私が手を出したけどね」


 …十分ヤバい代物が出来そうだな。後でリストあれば見てくるか。


「こちらから提供する代わりにミリディエットテスタの素材をこっちに回してもらうのさ」

「でも、それじゃ王城の出費がデカすぎない?」

「溜め込みすぎても意味無いし、ある程度は回さないと町が痩せてしまうからね」


 太っ腹と言うか豪胆というか…

もしくはまだ隠し玉があるか…

そんな話をしてたらナバルはオレに向いて


「明日ギルドに行くんだろ?景品けいひん気になるもんな」

「そりゃなナバルも気になるんだろ?」


 オレがそう言うと


「景品も気になるけどよ…明日なんだよ。オレの鎧ができるの」


 あ、もうそんな経つのか。俺たちがそんな話をしてるとナナイとホルンがそわそわして


「ねぇ兄ちゃん」

「ホルンたちも、ついていって良いかニャ?」


 一緒にあのフルーツジュース飲みに行くか!バアちゃんも


「たまには良いかねぇ」


 って了承してくれた。

明日が楽しみだ。




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