第19話 残念な人々

「はい、確かに受けとりました。

お疲れさま、二人とも」


 受付うけつけのリリンさんに鉄鉱石を納品した。リリンさんの素敵な笑顔に思わず


「エヘヘ、余裕ッスよ~」


 と思わず答えるオレ。

 何故かため息を付くナバル。

 終始笑顔のリリンさん。

 わかってますよ?営業スマイルだって。それでも元気が出るのが『男』なのです。

 そういえばとナバルがリリンさんに話しかける。


「ここら辺で腕のいい鍛冶屋って何処どこかわかるかな」

「それならボードゥさんとガットさんの所かしら?」

「二人もいるの?」


 そう聞くナバルにリリンさんは笑顔で答えてくれた。


「そこはね、狩人と鍛冶屋が共同経営しているのよ。武具を依頼しに行っても材料が足りなかったって事があるときに素材の販売もできて儲かるからって言っていたわ」


 そう楽しそうに教えてくれた。


「へ~そうなんスかぁ、でもここら辺、店が多いからわかんなくなりそうッスね」


 デレデレしながら聞くオレにリリンさんは優しく微笑んで


「うふふ、大丈夫よ?色々と有名な人達だから。いいほうでだからね。

それにとても楽しい人達だから」


 なんだろう、漫才コンビでもあるのかな?


「負けられねぇな、ナバル君!」

「何を?」


 やれやれ、これだから天然ボーイは困るぜ。


……


「ナバル君よ、鍛冶屋に行く前にアレ飲んでいこうぜ」


オレが指差したのは果物屋?から甘い香りのするドリンクコーナーだ。


「…旨そうだな」


 店のおばちゃんに二つ頼むと次いでに鍛冶屋の事も聞いてみた。


「ねぇ、おねえさん (社交辞令)、ボードゥとガットって人達の店ってどの辺かわかる?」


 おばちゃんはガハガハ笑いながら、


上手じょうずなクマちゃんだねぇ、あの二人の店なら、うちの店の裏に行きゃすぐだよ」


 ほお、以外と近そうやね。

 とりあえず一口飲むと懐かしいフルーツジュースの味がした。

(オレがこっち来てもう4~5年はたつんだなぁ)


「めっちゃくちゃ旨めぇな。今度ナナイもつれてくるかぁ」


 ナバルも気に入ってた。しかしそうなるとホルンもつれてこないと後でねるかもしれん。でも、たまにはホルンと散歩さんぽも良いかもしれんな。

おばちゃんにお礼を言うと早速いってみた。 

 近くの鍛冶屋ならここで間違いないだろなぁ。あれ?見覚えのあるおっさんとエルフの兄ちゃんが談笑してる。


「よお、おっさん。元気か?」


 オレが声をかけるとおっさんは


「おお、あん時のチビどもか。どうした?こんなとこで」


 初めてギルドに行ったときに会ったおっさんで間違いなかったか。


「ここらの鍛冶屋でボードゥとガットって人の店を探してんのよ。もしかしてここだったりする?」


 俺がそう聞くと隣の兄ちゃんが答えてくれた。


「そうだよ。私がボードゥだ。見ての通りエルフだ。よろしく」

「それでオレがドワーフのガットだ」


 ガハガハ豪快に笑う。なるほどドワーフだったのか。

 待てよ?ドワーフとエルフ、

 狩人と鍛冶屋。なるほど、納得だな。


「なるほどな。凄腕ハンターのエルフが狩ってたくみのドワーフが武具を打つと。

最強のタッグじゃないの」


 俺がそう誉めちぎると二人は顔を見合わせ微妙な顔をした。

あれ?


「…まぁ、普通はそうだよな」

俺達おれたちはちょっと特殊でな」

そこで言いよどむ二人、

どゆこと?


「じつは、エルフの私が鍛冶屋で」

「ドワーフの俺が狩人なんだよ」



へ??


 オレたちは顔に出たのだろう、二人はスゲェ弁明してきた。


「いやいや、ガットはすごいんだよ!遠く離れたドラゴンの目玉も撃ち抜く腕前で魔王軍では度々たびたび助っ人として呼ばれるくらいなんだから!」


 そう言うエルフのボードゥの言葉にガットが続ける。


「ボードゥだってスゲェんだぜ!王城の魔王陛下から『天匠てんしょう』の称号を受けるほどの鍛冶の達人なんだよ!」

 必死だった。わかったよ。

 触れないでおくさ。そんな風に気遣うオレにナバルが


「二人とも、種族が逆なら良かったのにな」


 爆弾ばくだん落としやがった。


 場が凍るってホントにあるんだね。

 二人は顔を見合わせたあと、


 泣きそうな顔をして、


 ひざを抱えて丸くなった。


 ナバル~(怒)

この天然ボーイがぁぁぁ!


……


 彼らが復活するのには少し時間がかかった。


「ご、ごめんなさい」


 珍しくしゅんとするナバル。


「こ、子供の戯言だからよ、勘弁してくれ!」


 必死にフォローするオレ。


「わかってるよ、気にしてないから」

「まったくだ、最近言われないから、久々に決まっただけだから」


 二人とも死んだ目をしながら言ってた。

 よし!ここは装備の話しでもふって忘れてもらおう!


「なあ、武具で売れ筋ってどんなのあるんだ?」


二人の目にはようやく生気が戻り始めた。

よしよし


「戦闘スタイルによってまちまちだよ。ガッツリ重武装で決めるのもいれば軽装で最低限のやつもいるし」


 はなしを すかさずナバルにふる。

爆弾はもう いらないからな!


「ナバルならどんなのが良いんだ?」

「片手剣の盾無しで動きやすいのが良いなぁ」


 ボードゥはしばし考え込むと


「チェーンメイルなんてどうだい?」


 お!さすが職人!すっかり目付きが頼もしいじゃないの!

チェーンメイルを知らないナバルの為に在庫の鎧を見せてくれた。


「サイズが違うが大体こんな感じだね」


 現物げんぶつを見ると分かりやすいな。ナバルもデザインに関してあれこれ注文しだした。


「君たち、ここに来たって事は材料はあるのかい?」

「あるぜ!…これで足りると思うんだけどなぁ」


 オレはそう言うと鉄鉱石を出した。


「随分あるね…おや、これは…!!」


 ボードゥとガットが驚き止まる。

 あれ?いくつか光ってるのがあるな。


「コイツは…アダマンタイトじゃないか!」


 オレたちはとんでもないヤツを採掘しちまったらしい。嬉しい誤算だね♪

 そう思ってたら店の奥に違和感を感じた。

何だろう?

 商品に埋もれてソイツはあった。


「なぁ、これは…」


 オレの独りごととも言える問いに


「あ~それな、ギルドマスターから特注で受けたんだけどキャンセルされちゃったんだよ」


 ボードゥは笑いながら言った。ちゃんとキャンセル料も払われたから良いそうだが。

 そう言い、皮袋にしまう。

 そこへ冒険者がやって来たわけだが…


「やあ、あれ?トラン君にナバルかい?」


 …ラフな格好に量産剣を腰に下げた魔王ウィルがやって来た。

 ホントなにやってんだろ、この人。


「やあ、ウィルさん、例の防具は出来てるよ」


 そう言い、奥の皮袋を取りだし、中身を見せる。



 それは純白の革で光沢が輝き所々ミスリル銀で装飾そうしょくのされた美しい軽装鎧だった。

 この場の全員がウットリした。ホントに綺麗なんだもんよぉ。


「…流石だね」


 ウィルも満足したようだ。


「なあ、それウィルさんが着るのか?」


 オレは気になったんだよね、そしたら何時いつもの微笑にやけがおみで


「違うよ。友達に頼まれてね。どうせならグッと良いのを渡して驚かそうと思ったのさ。それにコレは女性用だよ」


 スゴいご機嫌で教えてくれた。

 ウィルさんは近くの椅子に座り皮袋を横に置くと3人で楽しそうに話し始めた。邪魔しちゃ悪いな。オレたちはおいとま することにした。

 ナバルの鎧は2週間で出来上がるらしい。良かったな。



 そう言えば、ウィルさんが置いた皮袋の隣にあったの、ギルマスのキャンセルした鎧が入った皮袋だったよなぁ。

…間違えないよな。別に良いか。


……


「…陛下 みずからご用意していただき、このリアリー、感謝に堪えません」


 先程さきほど渡した皮袋の鎧の事だろう。私自身 とれたほどだ。


「うむ、気に入ってくれたのならよい」


 …彼女は皮袋を持ち、ワナワナ震えている。

おかしいな…素晴らしくて感動した、というのとは違う…


「ですが!このリアリー、陛下のご真意を確かめねば気がすみません!!」


 …あれ?おこってる?そう思った矢先、彼女は袋の中身を取り出した。






 それは、世に言う『ビキニアーマー』だった。


 それも露出卿ギルドマスターが自らデザインした過激モデルである。



「ブフォォォ!!」


 吹き出す魔王。直後、メイドの怒りは最頂点を振り切った。


「ちょっと待って!それ違う!」

「…陛下」

「あのね!話せばわか…」

「陛下!!」


 がくりとひざをつく魔王。

 襟首をつかむメイド。


「陛下、お話し しましょう」



 その日、魔王城から断末魔が響き渡ったとか



「ちがうんだよぉぉぉぉ!!」





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