第18話 発掘と強者

表現に残酷な描写があります。苦手な方や不快に思われましたらリターンをお願いします。



………………………………




「結局 何時いつもの格好で良かったのか?」


 ギルドを出て、門に向かっている時のことだった。ナバルは武具の貸し出しを断ってしまっていた。だから何時もの村人ルックと木剣だけだ。


「うん、俺ってまだ子供だろ?だかられない鎧着ても、かえって邪魔になるんじゃないかと思うんだよな」

たしかになぁ。でも鉄の剣くらいは借りても良かったんじゃないか?」


 オレの問いに、

「俺もそれは悩んだんだけどなぁ。」


 ナバルはそう言うと腰の木剣を軽く持ち上げ、

「魔力で強化すれば下手な剣よりよっぽど強いんだよなぁ」


 そう言った。コイツなりにちゃんと考えてることに感心してしまったよ。

 ギルドから支給された地図を見ると町から西の方は崖や鉱山になってるらしい。…正確には鉱山ではなく岩石系の魔獣の死骸なのだが。ただ、西側の奥はヤバイらしいのでそこそこ手前にあるんだけど。

 門を出て西に向かうと見慣れた三人組ゴブリングたちがやって来た。


「あれ?今日は西に行ってたのか?」


「アニキ達はこれから西に?」

「オレらは魔物の皮を狙ってんですがね?」

「魔物いなかったお。東で頑張るお」


 ありゃりゃ、毎回ポンポン出るもんでもないけどね。冒険者が増えたって聞いたからその分魔物も減ったのかな?


 彼らと別れ、採掘予定地までまったく魔物に出会わなかった。楽だけど拍子抜けだな。


「トラン、支給されたツルハシ出してくれ」

「あいよ」


オレはゴソゴソとリュックを漁り2本のツルハシを出した。


「テテレテッテレ~、ツルハシ~」

「…何やってんのオマエ」


 呆れられた。これだから異世界人は!

 …異世界人オレだった。


……


 凹みながらも採掘をしていたら規定の数は集まってた。


「どうするよ?俺らの分もとるか?」


 ナバルがそんなこと言ってきた。


「甘いなナバル君や、オレはとっくに集めてるぜ」(キリッ)

「…うぜぇ」


 言葉とは裏腹にスゲェ掘り出した。愉快だなナバル君(笑)。

 オレは一息つこうと近くの岩場に座り水筒を取り出す。造りは簡単で竹みたいな植物に穴開けて杭を差し込んで蓋にしただけなんだけどね。


「ナバル君や、君も一息どうだね?」

「…もうちょい掘る…」


 鉄製品の防具は初心者冒険者の憧れらしい。レンタルも革の防具だったなぁ。鉄は武器ばかりだし。

 鉄を鍛えた『鋼の剣』が一人前の感覚はこちらでも同じらしい。何とって?ビア○カは俺の嫁!

…デボラもいい子なんだよ?

 アホなこと考えてたら随分奥の方から微かに戦闘の音が聞こえた。気になるから行ってみるか?


「おーい、オレちょっと奥まで行ってくるわ!」

「わかった!」


 ナバルは…まあ一人でも平気だろ。

ということでやって来たわけだが…


 その先の谷で、25m級の地竜と互角に戦う一人の男がいた。



 第一印象は『出鱈目でたらめ』だった。

 男はボロいマントに武道着?のような服装に見える。武器なしの素手だった。それに対する地竜は、ほとんどティラノサウルスだよ。

 地竜はクッソ速い動きで右へ左へと男を襲う。噛みつきでかすった木々がボロボロだ。時たま振るう尻尾の凪ぎ払いで岩が砕け散る。そんな即死確定の攻撃をなんなくかわすその男。

 そして、イラついた地竜が大振りの一撃を放った直後だった。地竜の鼻面に男の右ストレートが食い込む。


ドゴォォン!


 倒れたのは地竜だった。


 その男は地竜から目を離し、ゆっくりと崖の上の俺を見た。


 ソイツはまるで血に飢えた狼みたいな目をしてやがった。見た目はただの人間なのだがまとった覇気は…十分ヤバイ。でも何よりヤバイのは…

 コイツ、今度はオレとやりあう気か?

 オレは何時でも剣爪を出せるように意識する。

 暫く睨みあってると不意に精霊?がその男にまとわりつく。なんだか気が抜けたオレはそっとその場を後にした。


 採掘場に戻ると大量の鉄鉱石を前にしたナバルがうずくまってた。何やってんのこの子。


「…掘りすぎちゃった。運ぶの手伝ってくれ」


 目の前の子は『アホの子』だった。


 オレはナバルをからかいながら町に帰る。

 その途中、やはりあの男が気になった。

 アイツからは臭いがしたんだ。



 大量の『人間の血』の臭いが。


……


 俺が育ったのは小さな集落だった。

 集落では精霊様をお守りすることがおきてだった。いや、それこそが俺達の役目であり誇りであった。

 ある日の事だった。俺になついていたエトとヤヨの兄妹が夜遅くになっても帰ってこないと騒ぎになった。

 精霊様のお導きで案内されたのは集落の外れで複数の足跡と馬車の跡だった。

 俺はみずから志願した。彼らを探す事に。

 そうして俺は旅に出た。

 精霊様の導きで二人の居場所は直ぐにわかった。俺は夜になり、そっと忍び込んだ…


 エトは元気が有り余っている少年だった。大きくなったら強くなって俺と一緒に御守り番として付いてくると言っていた。

 ヤヨは寂しがり屋の少女だった。

 いつもエトにひっ付こうとしては、おいていかれ、俺に引っ付いていた。お礼にと俺に花飾りの腕輪をくれた。冠のつもりらしかった。


 扉を開け、俺が見たのは


 四肢を切り落とされ変わり果てた二人の姿だった。

 死なないようにだろう。精霊様と強引に融合されている。そんな事をすれば身体に拒絶反応が出て、いずれは自我が崩壊する。

 二人は血の涙を流し、言葉にすらならない呻き声をあげていた。

 もう助からない。助けられない。

 俺は二人を殺した。

 同じような子供たちも殺した。


 管理していた魔術師を殺した。

 警護の騎士たちも殺した。

 貴族らしき男たちも殺した。

 みんな殺した。


 窓ガラスには


 返り血と己の涙で崩れ落ちている『鬼』が写っていた。


 俺は強くなりたかった。

 てっとり早いのは『魔の森』での修行だろう。あそこの森は全てが規格外だ。


 それに、そこには精霊様の祠があるという。そこで二人を埋葬したかった。

 あんな姿の二人を集落の者には見せたくなかった。見せられなかった。


 祠の入口近くに巨大な地竜が居座っていた。こいつを倒さねば先には進めなかった。元より邪魔をするなら…



 全て殺す。



 戦いの最中、視線を感じた。敵意が無いから相手にしなかった。

 地竜を殺した俺は初めて視線の主を見た。


 そこには本物の怪物がいた


 見た目はただの小熊にしか見えない。

 だが、内包されたちからはまるで神話の悪魔のようだった。

 それにそいつは…構えからして戦い慣れていた。

 今の俺で仕留められるだろうか…嫌な汗が背中を伝う。

 しばらく睨み合うと精霊様からお声をかけられた。祠へ歓迎すると、地竜を倒したお礼だと。

 小熊は居なくなっていた。


 俺は祠へと足を踏み入れる。その際、精霊様から、


『貴方の悲しみはまるで呪いだね』


 と言われた。

 寂しそうに言われた。


 あの子達の事は忘れない。助けられなかったことも、殺したことも。


 俺はこの日、今までの名を捨てた。

そして刻みつけよう。その名を。


「今より俺の名は『カース』だ」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る