けづくろい
中村未来
けづくろい
――さばんなちほー
「さ、サーバルさん何してるんですか?」
「けづくろいだよ、かばんちゃんはそういうのしないの?」
「ぼ、ボクは……」
木陰での休憩中、ぺろぺろと手を舐めてはその手で頭を擦るサーバル。ネコ科の動物であればどの動物でも同じような毛づくろいの行動である。
「そうだ、かばんちゃんも手伝ってよ! この姿じゃ、わたしだけじゃ自分で届かないところあるから」
「ええっ、ぼ、ボクですか?」
「わたしが教えてあげるから!」
「うう、ど、どうしたらいいんでしょうか」
かばんがサーバルの横に移動すると、サーバルはこの辺りをぺろぺろってすればいいんだよとかばんに指示する。かばんもそれに従ってサーバルに口を寄せると、サーバルが手を舐めていた時と同じ要領でぺろぺろとし始める。
「かばんちゃん、上手だよ。すごーい!」
「こ、これでいいのかな」
「大丈夫、大丈夫。あ、その辺り、気持ちいーよ」
「よかったです、サーバルさん」
しばらく、サーバルのいう場所の毛づくろいを手伝うかばん。一通り終えると、サーバルも非常に満足そうな表情を浮かべる。
「またお願いしたいな、かばんちゃん」
そして二人は水場へと向かって再び移動を開始した。
それからしばし時は流れる。
――ろっじ「アリツカ」にて
窓から見える星空を見ながら、かばんとサーバルは宿泊部屋のベッドに座ってのんびりと話をしていた。
「ねえ、かばんちゃん」
「どうかしたの? サーバルちゃん」
「この”ふく”って脱げるんだよね、それで脱いだらつるつるになるんだよね」
「この間の温泉で分かったね」
「ねえ、かばんちゃん。つるつるになってけづくろいしてよー」
「ええっ!? それって毛づくろいって言わないんじゃ……」
「いいからいいからー、あっ、わたしもかばんちゃんのけづくろいしてあげるよ!」
「ええええっ!?」
そして……
「ひゃああああああ!!」
ろっじに響き渡る声。その声は共有スペースでのんびりしていたアリツカゲラ、タイリクオオカミ、アミメキリンの元に届いていた。三人は慌てて声の主人の元へ急ぐ。
「どうした、かばん。白いセルリアンが出たのか!?」
まず、タイリクオオカミが部屋を開ける。次いで、アミメキリン、アリツカゲラも部屋を覗き込む。
「えっ、皆さん!? ひゃ、ひゃあああ!!」
二度目の悲鳴が響いた。
その後……
結局ドタバタした後、大事ではないことが分かり一安心した三人。改めてセルリアンのことを考えようとして集合したものの、場には微妙な空気が漂う。部屋でのことは気になるものの詳細に触れないようにする三人、所在なげな表情が一人、嬉々とした表情が一人。
「いやあ、実にいい表情を見せてもらったよ」
「新たな難事件かと思ったのに、残念です」
「ぼ、防音出来るお部屋を用意したほうがいいのでしょうか」
「かばんちゃん、またやろーね!」
「ボクはもういいよぉ……」
ろっじの夜は更けていく。
けづくろい 中村未来 @chicken_new39
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