豪結ー8

 竜人外骨格服アークスマイトスーツを着用しての飛行は初めてだったが、昔、父さんに教えてもらった方法を試してみると、驚くほど安定して飛ぶことが出来た。

 初めは、堰神の剣仙じんぎとリンクさせて飛ぼうかとも思ったけど、昔取った杵柄というか、飛行に関しては全く問題ないようで良かった。

 あとは戦闘だけだが、今現在、俺が顕現できる武器は爪型の粒子刃フォトンブレードだけだ。

 他は、巨爪の化け物ロノ・ペルロにセットされていないので、何か問題が起きた場合は、俺も堰神と同じように近接戦で戦わなければいけない。

 俺に合わせて飛んでいるからか、堰神の飛行速度は竜人外骨格服アークスマイトスーツにしては、やや遅い。お陰でついていけているが、荷物になっているようでやや情けない。

「――はい」

 飛行注意、通信が入った。前を飛ぶ堰神からではなく、外部からの通信だ。

 その通信回線を開くと、俺の携帯経由で届いた電話のようで、呼び出しには『クラエス』という表示があった。

「どうしたの?」

 集中を欠いたため、飛行速度が著しく低下した俺の異変に気付き、堰神が近くまで戻って来た。

「クラエスからの電話だ」

「出なさい」

 今は緊急事態なので後でかけ直せばいいか、と思い、通話の『切断』を押そうとすると、堰神から待ったがかかった。

「でも、今は急ぎだろ?」

「そちらが急ぎではない、という理由はないわ」

 確かに、クラエスが連絡を寄越すとしたらメッセージが主だ。学校が終わったから、というのも考えられるが、長いことコール状態にあるにも関わらず、クラエス側から切ることは無かった。

 何か、問題が起きたのかもしれない。

「もしもし」

 通話状態にすると、クラエスの声は聞こえなかった。代わりに、『ドッ』『ガッ』という、何かを殴る音と一緒に、携帯が地面に落ちる音が聞こえた。

「クラエスッ!? おい、どうしたッ! クラエスッ!!」

 その後、すぐに電話は切られたようで、聞こえてくるのは『ツー、ツー』という無機質な音だけだった。

「何かあったの?」

「クラエスに何かあったらしい」

 問う堰神に、何とか平静を保ち答える。しかし、鼓動は早くなり内心は不安でいっぱいだ。

「連絡はつかないの?」

「さっきからリダイヤルしているけど、つながらない。そもそも、切れる直前に嫌な音がした」

 嫌な音がしたが、ランドリーで斎藤たちを殴り、軽々、放り投げていた。そんなことが出来るクラエスに、対抗できる人間が居るだろうか?

 そこまで考え、かぶりを振る。

 できるかどうかではなく、今、クラエスの身に何かが起きているんだ。ならば、今やるべきことは、クラエスの安否を確認すること。

「確か、逆探が……」

 逆探なんて大仰な物ではなく、ただの迷子アプリだ。ただし、これは竜人外骨格服アークスマイトスーツを経由して表示できないので、携帯を取り出しての操作となった。

 携帯に表示されているのは、今から30分前の物。そこで途切れていた。

「どこか分かった?」

「近くのホテルだ。そこで、アプリが切れてる」

「なら、行くわよ」

 俺の携帯を覗き見て、表示されているホテルがどこの建物かすぐに理解した堰神は、俺が言うよりも早く飛び出した。

「おい、待てっ!」

 俺も堰神を急いで追う。操作に慣れたおかげで、堰神が飛ぶ速度にもついて行くことができるが、たぶん、本気の速度はもっと早いんだろう。

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