豪結ー9
中へ入るために、一度、スーツを脱ごうかと提案したが、その暇を惜しむかのように堰神はそのままの姿でホテルのロビーへと入っていた。
神代学園が近いことで、海外の賓客も多く宿泊するこのホテルは、そこいらの高級ホテルに引けを取らない雰囲気を放っていた。
俺とは無縁の世界に及び腰になるが、堰神は気にした風もなく、
フロントスタッフは突然、入って来た
「いらっしゃいませ、堰神様。本日は、どのようなご用件でしょうか?」
「ここに、女性が拉致されているわ」
「そっ、そんなまさか!?」
突然の言葉に、スタッフは堰神がやって来た時、以上に驚いた。
「位置情報から、確認したわ。神代学園からの、捜査協力書も発行されている」
ポップされたウィンドウには、飛び立つ前に堰神が学園に申請していた物が表示されていた。それを見たスタッフは、すぐに電話で誰かに取次始めた。
「時間がないわ。ここに、
「たっ、ただいま――」
取り次ぎながらも、スタッフは堰神に言われた通り大人数でこのホテルを利用している客を調べ始めた。
その間、他の宿泊客と思われる人たちが、こちらに携帯のカメラを向けて撮影を始めた。
「あっ、ありました。3組です」
居心地の悪さを感じていると、スタッフから結果が言い渡された。
「すでに引き払っているのは?」
「1組です」
「何時ころ?」
「20分前です」
「移動手段は?」
「ヘリコプターでした」
堰神はスタッフから情報を聞き出すと俺に向き直った。
「ここには居ないわ。次に行くわよ」
「あぁ、分かった!」
慣れた様子で話を聞き出し、次々と指示を出す堰神。序列1位というだけでなく、人としても優秀な姿を見せられ、心強くなった。
それと同時に、自分の至らなさに恥じ入る。
「皆さん、突然、我々が入って来て驚いたと思います。我々は現在、人質をとった武力集団を追っています。このホテルスタッフの協力により、その集団についての有力な情報を手に入れることが出来ました。皆さんの安全は、我々が作り上げます」
突然、始まった演説に俺は目が点になった。確かに、不安そうにしている民間人に対してこういったことをすることもあるが、堰神はこんなことをする人間じゃない。
「行くわよ、
「おっ、おぉ……」
戸惑ってしまい、先ほどのような返事を返すことが出来なかった。
ガシャガシャ、と機械音を響かせながら、ホテルの外へ出ると、来た時と同じように飛び上がった。
「何度も聞いて悪いが、行先は決まっているのか?」
「今日、ヘリコプターで申請された航路予定図から、現在、飛んでいる物を割り出した。衛星からの映像と照合して、申請されていないイレギュラーなヘリコプターが居れば、それが犯人の物よ」
ホテルのスタッフから、ヘリコプターで出て行ったという話を聞いてから数分と経っていない。だというのに、堰神はわずかな時間でそこまでやった。
「港に居るようね。外国船籍に乗せられると面倒だから、急いで向かうわよ」
「おぉッ!」
全て堰神にやってもらう形になり、申し訳なく思う。
万が一、誘拐犯たちと戦闘になったら、防御能力が低い堰神の剣仙の前に出て、弾除けになるくらいはしないといけない。
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