豪結-7
クラエスの髪の色のような、赤と黒が混ざった攻撃的なカラーリング。学校や、軍隊が使っている
これが、俺の
その名に恥じないように、俺の左手には
「そんなものがあるなら、初めから出しなさいよ」
堰神は、刀身が半分になった刀を鞘に納めると、反対側に帯びた鞘からもう一本の刀を引き抜いた。こちらは、先ほどのような実剣ではなく、俺の爪と同じ
「何が狙いだよ? クソっ……。こんなところで出すつもりはなかったのに……!」
俺が竜核式神器を持っていることは、もう少し秘密にしておく予定だった。そうでなければ、学校――ひいては国に対して言い訳ができないからだ。
すでに俺の姿は、運動場に集まっている多くの生徒に見られている。次々とポップするウィンドウには、『動画撮影されています』と表示されている。
「本気でやらなければ死ぬだけよ。私はその覚悟がある」
「意味が分か――ッ!?」
目の先――空を切る堰神の刀型
「――早いじゃない」
堰神は、今の攻撃を当てに来ていた。しかも、今までのように見せてから切るのではなく、会話状態からのほぼ不意打ちで、だ。
しかし、俺は反応して避けた。堰神としては、決して本気ではない速度だったが、不意打ちの一撃を避けられたことに驚いていた。
「見えるんだよ」
見えた。強化素体では目で追うどころか、感覚すらついて行かなかった堰神の剣仙の動きを目で追うことが出来た。
「そう」
だが堰神にとって、自らの動きを目で追えることはそれほどプライドを傷つけることではなかったらしく、俺の言葉に鼻で笑った。
「じゃぁ、これはどうかしら?」
スッ、と堰神は
どのような攻撃が行われるのか。どのように動くのか。堰神の次の動きがどんな風になるのか、ほんの少しの動きも見逃すまい、と目を皿のようにして堰神を見る。
しかし――
しかし、堰神は動かなかった。
「なに――」
「なッ!?」
「どうしたんだ」と堰神に問うために声をかけようとしたら、俺の顔の真横から、バチバチ、という紫電が暴れる音が響いた。
「ッ!?」
ヒヤリとする、脳に響く嫌な音。それが、横一閃に振り切られた堰神の
目の前に居たはずの堰神は、いつの間にか俺の背後に回り込み、
さらに驚くことは、俺の意思とは無関係に、左爪が堰神の
完全に油断していたにも関わらず、まるで切られるのが分かっていたように防いだことにより、堰神からも驚愕の声が漏れたのだろう。
周りの野次馬たちからも、驚きのどよめきが漏れている。
「完ぺきだったはず……。なのに、なぜ!?」
堰神は
「貴方、無意識に掴んでいたわよね?」
「さて、どうかな?」
ハッタリも戦闘技術の内だ。内心、何が起きたのか分からず、今すぐにでも何が起きたのか解明したかったか、今現在、それは叶わない。まずは、目の前に居る暴れん坊を何とかしなければいけない。
「時間ね――」
次はどのような攻撃が来るのか。先ほどの動きを見る限り、本気になった堰神にスピードで追いつくのは不可能だと悟った。
しかし、堰神は次の攻撃を仕掛けてくるどころか、刀型の
その不可解な行動が何を意味するのか探ろうとしたが、背後で起きた
ドォォォォォン、と圧縮されていた何かが爆発する音に、周囲が騒然となった。
爆発した場所は――確かめる手間もなく、それは分かった。モウモウと湧き上がっている白煙は校舎の裏から立ち上がっている。
その場所には、学校で使うお湯や暖房に使っている水蒸気を発生させるボイラーがあった場所だ。
白煙は一本だけだったので、三基あるボイラーの内の一基が壊れたのだろう。
だが、それが自然に壊れた訳ではないのが、その後に起きた爆発で理解した。
ボンボン、と続けざまに爆発音が耳をつんざき、続けざまに水蒸気柱がもう2本増えた。
「なっ!? どうなってんだ!」
「確認しに行くわよ」
驚く俺とは違い、堰神は冷静に爆発の原因を確かめに空に飛んだ。
俺はどう動けばいいのか、と考えるが、それも一瞬で止めて飛び上がった。俺は今、
他の生徒たちは、皆、強化素体か制服だ。今ここで何かが起きても生き残りやすいのは、
「クソッ!」
堰神の後を追うように空へ舞い上がる。強化素体でジャンプするのと訳が違う、血液や臓器が置いて行かれそうになる上昇力に目眩を覚えながら、堰神の後を追った。
空へ上がると、水蒸気柱が上がっている近くに堰神が飛んでいた。急いでそこへ向かう。
「一人で行動するな! 危ないだろ!」
「ヘマはしないわ。それより、下に降りるわよ」
何が起きているの分からない状況で、状況確認をせずに行動するのは自殺行為だ。たとえそれが、
にも関わらず、堰神は注意することなく爆発現場へと降りていく。
『何やっているの? 早く降りてきて』
地面へと降りた堰神は、俺がまだ飛んでいるところを見とがめると、通信で早く降りてくるように言ってきた。
これは、行動が遅いのではなく上空から不審な
「まずは状況確認からだろう。何があるか分からないんだ」
そういうと、堰神は「はぁ」と大きなため息を吐いた。
『あのねぁ。これが事故ならこれ以上の爆発は起きないわ』
地上に居る堰神は、こちらを見上げながらその証拠を指さす。証拠と言っても、爆発したボイラー群を指さしているのだが、そのどれもが大きく穴が開き、中には倒壊している物もあった。
『それに、もしこれが人の手によるものなら、犯人はすでに逃げた後――時限式が使われているわよ』
堰神が言っていることももっともだが、これが人を集めるための爆破だった時が危険だろう。
しかし、それでも堰神は引くことなく、俺に降りてくるように言ってきた。こうなってしまえば、向こうが折れることは無いのでこちらが降りるしかない。
「やっと降りて来たわね」
「もっと慎重に行動しろよ」
「こっちは、
茶化して言うが、この辺りを焦土化するミサイルだって
「そもそも、なんで俺が
堰神は、俺が
しかし、俺の質問に堰神は。
「何で知っているかは、自分で調べなさい。全部、教えてもらえると思ったら大間違いよ」
ニヤリ、と今までに見たことがない、「お前の上を行ってやったぞ」と言いたげな、子供染みた表情で堰神は笑った。
「とにかく、現場を確保して、先生たち――いや、警備の人間を待とう」
そうはいうものの、反面、来てほしくないとも思う。それは、今の俺の姿が
後で、あの試合を見ていた生徒たちから学校へ話が行くだろうけど、言い訳を思いついていない状態で調書されては、答えられるものも答えられない。
「――あったわ」
こちらへ向かっているであろう、神代学園の警備が居ないか目を配っていると、携帯を弄っていた堰神がどこかのサイトを見ながらつぶやいた。
「どうした?」
「犯行声明が出てる」
「どれだ?」
携帯の画面を覗き込むと、そこには『「竜と太陽の神話会という団体から、近々、神代学園に抗議をしに行く」という公表があった』と書かれていた。
「これが抗議だと!?」
破片は校舎を傷つけ窓ガラスにヒビが入っているが、見える範囲には怪我人は居なかった。しかし、状況が悪ければ死人が出る事態だ。
それを、竜と太陽の神話会は『抗議』というのか!
「落ち着きなさい。怒ることが出来るのは良いことだけど、その瞬間と矛先だけは間違えてはいけないわ」
万が一、ということもありえた状況で、堰神は冷静だった。冷静過ぎて、同じ人かと思えるほどだ。
冷静な堰神に空恐ろしさを感じていると、背後に車が滑り込む音が聞こえた。
振り返ると、神代学園のロゴが入ったバンが止まっており、後ろの扉が開けられると、フル装備で盾と銃を構えた警備部隊がゾクゾクと下車して来た。
「状況はどうなっている?」
「ボイラーが三基破壊されました。我々が到着した時には、犯人は既に逃走していました」
警備部隊の隊長に問われると、堰神は今までのことをスラスラと答えた。
「ここは、我々で処理をしておく。君は――」
「犯人の逃走経路を割り出し、追跡します」
「分かった。学校へ申請した後、追跡するように」
「分かりました」
序列上位の生徒は、何らかの事件や事故が発生した場合、学校側からの要請があれば出動しなければいけない、とは話で聞いていた。
しかし、生徒まで狩り出さなければいけなくなる状況などなかなか無いので、俺はこれを方便だと思っていた。
しかし、堰神は慣れた様子で申請書を作り学校へ送信した。
「許可がおりたな」
非常事態というのは分かるが、学校内で爆発事件があったにも関わらず、学校のシステムは問題なく稼働しているようで、堰神が送った申請書は許可された状態で戻ってきたようだ。
「では、堰神イリヤと獅童――ん?」
俺の名前を読んだところで、警備部隊長はシールドの向こうで眉を上げた。
「獅童幸徒……。何でまた、こんな低いランクの生徒が――」
その言葉を最後まで言うことなく、途切れさせることになった。
途中で、すぐ近くから、ドォォォォ、と断続的に爆発音が鼓膜を震わせ、次いで生徒たちの叫びが聞こえたからだ。
「クソッ! 向こうでもか!?」
警備部隊長は、爆発音がした方を見て吠えるように言った。
「到着までは!?」
「現在、こちらに来ていた第二が、爆発があった方へ向かっています。それに続いて、
音のした方にある施設は、屋内演習場だ。強化素体だけでなく、
音からして外で爆破されたはずだ。中に居た生徒は無事だろう。しかし、運悪く外に居た生徒は、怪我をしたか運が悪ければ――。
「では、我々は向かいます」
「分かった。健闘を祈る」
学園の地図を頭で展開していたら、警備部隊長と話をしていた堰神は早々に話を切り上げ、俺の方を向いた。
「行くわよ」
「当てはあるのかよ?」
「多少はね」
「そんなんで意味があるのか?」
「意味はあるわ。逃走中の怪しい車が見つかるかもしれないし、
確かに、神代学園の序列1位であれば雑誌に載るほど有名だし、そんな奴が出てくればちょっとやそっとの抵抗では無意味だと否が応でも理解させられる。
「ついて来て」
「――分かった」
正直、気持ちは進まなかったが、ここで引いては後悔するだろう。それに、学園の生徒に
ならば、華々しくデビューすることで、その力を見せつけなければいけない。
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