豪結ー6
俺がDクラスの生徒に対戦を申し込んだときは、学校から制覇大会が近いという理由で延期するように、と強制で先送りされた。
そのことを鑑み、堰神は俺に申請をした後に、受け入れは戦う直前にするように、と言ってきた。
これを無視して、今すぐに受け入れをしても良かったのだが、それをやって学校側から不受理のメッセージが届けば、堰神の不興を買い、このクラスの生徒が大義名分を得て敵になる。
成績優秀者が偉いというのは、この学校が推奨していることだし、直接、俺を襲うように命令をすればそれは犯罪となり、指示した者、実行した者、その両方が罪に問われる。
だから、堰神の試合申請を断わったとしても、犯人が分かりにくい嫌がらせが多少、増えるだけだ――と思いたいところだが、ここは最底辺のEクラス。
序列1位の堰神に、何かを期待して動く奴が居るかもしれないので、ここは従う他ない。
俺から了解を得た堰神は、クラス全員に「ここで見たこと、聞いたことは他言無用である」としっかり言い聞かせてから自分のクラス――Aクラスへと戻っていった。
ただ
どれだけ苦手意識――いや、怯えているんだ
そして放課後。Eクラスにしては珍しく、あの時に堰神が言った言葉は守られていたようで、俺たちが3人で訓練をしていた時のような見学者はほぼ皆無と言っていい人数だった。
「遅かったわね」
「だから、Eクラスは色々とやらされている仕事が多いんだよ」
第1運動場で待っていた堰神は、珍しくトレーニングスーツだった。肌にピッチリと密着するスーツは、堰神の鍛えられた綺麗な体をトレースするように張り付いている。
「おい、今からやり合うっていうのに、何で強化素体になっていないんだ?」
俺は、ロッカールームの時点ですでに強化素体を顕現してからここに来ている。堰神の神器の調子が悪いのか……?
「後で顕現するわ。それより、試合申請を受け入れなさい」
腕を組み、堰神は高圧的な態度で言った。少しだけ緊張したような、何か不気味な気配がする。
「不受理された場合は、どうするんだ?」
「ラグが発生する。その間に、終わらせる」
「んな無茶な」
どれだけの早さで終わらせるのか分からないが、前回のこともあって、たぶん俺に対しての申請の監視は厳しくなっているんじゃないだろうか?
戦った記録を残すためっていうのは分かるが、そもそも、力量差がありすぎる間でこんなことをしても無駄だ。堰神にとって、マイナス点しかない。
「早くしなさい」
不受理になっても困らないというのに、何を焦っているのか、堰神は急かすように試合申請を受け入れるように言ってきた。
「分かったよ。そう急かすな」
携帯の画面に表示された『堰神イリヤから、試合の申請がありました』という文章の下にある『受ける』という項目をタッチする。
次に、日程が表示され、一番、上にある『今すぐ』にチェックを入れる。
すると、俺と堰神の眼の前にウィンドウがポップした。
互いに、『申請が受理されました』という文章が表示されている。
「これで良いわ」
「良いわ……って。それで、これからどうするんだよ?」
強化素体の俺とトレーニングスーツの堰神が向かい合い、これから何が始まるんだ、と野次馬に来た生徒たちに戦慄が走っている。今までただの訓練しかしていなかった2人が、突然、試合を始めたんだからそうなるだろう。
序列1位とEクラストップ。無駄なこと、と分かりつつ、野次馬の目は期待に満ちていた。
「もちろん、戦うに決まっているじゃない。全力で来ないと、死ぬわよ?」
「何を言い出すのか」と問おうとする前に、堰神の神器が輝き出した。その核の色に違和感を覚える。
普段見る神器と輝きが違う――と思った次の瞬間には、なぜ堰神がトレーニングスーツで来たのか理解した。
バジィ、という耳障りな音と共に現れたのは、赤と白のおめでたい塗装が施され、高高速度で行われる超近接戦闘に特化した、防御を考えない狂気の軽量化が行われた神器――剣仙と呼ばれる
訓練は、魔力核式神器で強化素体を顕現して行われる。しかし、今、堰神が使っているのは竜核式神器だ。
「お前ッ!? 何を考えているんだ!」
堰神の姿を見た周囲の野次馬たちから、悲鳴混じりの驚愕のどよめきが聞こえてくる。何より、一番、驚いているのは俺だ。
「それは、こっちの台詞よ。なぜ、あなたは顕現しないの?」
「強化素体じゃ、相手にならないだろっ! お前は、今なにを顕現させているのか理解していないのかっ!?」
「分かっているわ。ちなみに、実戦であれば、あなたはもう死んでいる。早く顕現しなさい」
こいつ、俺が竜核式神器を持っていることを知っているのか?
でも、なぜ知っている?
どこかから情報が漏れたか、それとも、父さんが盗み出した国宝の神器を俺が持っていると勘違いしているのか!?
「早くしなさい」
堰神の声が背後から聞こえた。
今まで目の前に居たというのに、肉眼で追うことが出来ない速度で、一瞬で俺の背後に回っていた。
「ツッ!?」
「強化素体では、私の剣仙を追うことは不可能よ」
振り返ろうと体を動かす前に、背中に衝撃が走り、俺の体はボールのように飛んでいった。
飛距離など分からない。少なくとも、100メートル近く蹴り飛ばされた。
「ガハッ!?」
突然の蹴り上げに反応できず、受け身を取ることもできずに地面を情けなく転がる。
顔に砂がつき、痛みが走る。息を吸おうとすると、国の中に入った砂が喉の方へ侵入し、呼吸を難しくし、むせた。
「早く顕現しなさい」
「――ッ!?」
俺の後ろから蹴り上げてきた堰神は、苦しみながら顔を上げると、すでに目の前に居た。移動の時に起きる風切り音も全く聞こえなかった。
「でないと――」
カシュッ、と軽い射出音と共に、堰神は脇に帯びた刀を引き抜いた。粒子処理がされていない、本物の実剣だ。
「(本気かコイツ……!?)」
見上げる堰神の顔は、今まで見たことがないくらい冷淡になっていた。無表情とは違う、今から人、一人を
「まぁ、良いわ」
堰神は、刀を振り上げ俺の頭を見た。
いくら強化素体を纏っていようと、
なぜこの様なことをするのか理解できない。
「ヤメロッ!」「先生、呼んで来い!」「緊急! 警備だッ! 警備の方を呼べッ!」
異常事態だ、と理解した野次馬の生徒たちが、各々、叫びながら散り始めた。それと同時に、腕に覚えのある者は、強化素体を纏い
「さようなら。あなたが悪いの」
何のためらいもなく、堰神は実剣を俺の頭目がけて振り下ろした。
強化素体で絶対に追いつくことが出来ない速度域で活動する、堰神が駆る剣仙。その剣仙が刀を振り下ろせば、俺の頭は真っ二つになっていた。
しかし――。
「ふざっ――ケンナァァァァァァ!!!!」
バギャッ! という鈍い音を立て、堰神が振り下ろした刀は半ばから
刀が飛んでいった先も、堰神の表情も、次にどのような行動をするか足運びを確認することなく、俺は後方へ飛んだ。
「なっ、何だあれはッ!?」
異変に気付いた、こちらに駆けてきていた生徒の一部が、俺の姿を見て驚いた。
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