豪結ー2

 今日、出たばかりの出力結果を前にして「ふぅ」と一息つく。

 これは、この間、幸徒に渡した魔力核式神器が正常に規定値の出力を出しているかモニターしているのだが、実績のある魔力核は問題なく動いている。しかし、本当に欲しい竜核式神器が起動した際の数値がまだ取れないでいる。

 そもそも竜核式神器は、神代学園の序列20位までが所持することを許されている特別な神器だ。もちろん、竜核式神器何て分かり易い名前ではなく、高出力型魔力核式神器と呼ばれている。

 そんな特殊な物が管理されていない状態で、裏切り者と呼ばれた神器遣いの息子が持っていたらどれほど問題になるだろうか。だから、残念に思ってもその数値が採れるのはまだまだ先だと諦める。

 温くなるどころか冷たくなってし合ったコーヒーを口に含むと、「宮前さん」という小さな声と共に、ノックもなしに研究室の扉が開いた。

「ノックくらいしなさいって、いつも言ってるでしょ?」

 ノックをせずに入ってくるのはいつものことだが、その表情は暗く普段とは違っていた。

 何があったかは、学校からの知らせが来たので知っている。たぶん、そのことの相談にやって来たんだろう。

 だから、いつも通り安心させる。

「大丈夫よ。滅茶苦茶やってきたのは学校の方なんだから、こっちだって分からないように滅茶苦茶にしてやる・・・・だけなんだから」

 何をどうするとも言わない無責任な言葉だったが、それだけでも随分と元気づけることが出来たようで、入って来た時とは別人のように顔が明るくなった。

 昔から変わらない所は美点だけど、そろそろ変わってもらわないと将来が心配になってくる。



 買い物袋を手に持って、商店街をフラフラとうろつく。すでに買い物は済ませているので、後はこのまま帰るだけだが、何か忘れているような気がしてならない。

 クラエスに何か頼まれたか、とも思ったけど、メモ帳やメッセージに何も記録されていない。なら何だろう、と考える。

 とはいえ、このまま商店街を彷徨い続ける訳にもいかないので、そろそろ帰ろうかと思った矢先、視界に嫌なものが入って来た。

 父さんの部下だという、松島という男性だ。

 彼は初めて学校の校門で会って以来、こうして時間と場所を変えてちょくちょく接触してくるようになった。その度に多少は話をするが、一方的な話ばかりで意思の疎通ができていなかった。

「…………」

「…………」

 一瞬、目が合ったが向こうは何も言わず、俺からも何か用があるわけではないので声をかけることもない。しかし、商店街のど真ん中で、このまま剣呑な空気をまき散らしながらいる訳にもいかない。

 その脇――というには離れた距離を横切ろうとすると、松島に声をかけられた。

「近々、竜と太陽の神話会で大きな動きがある。竜人を捕獲しようとする動きだ」

「――――」

「魂を抜いて竜核にするか、どこか遠くへ逃がすかしない限り、あいつらは諦めないぞ」

「松島さん。貴方は、父さんの部下だと言っていましたが、それって本当ですか?」

 疑問を口にすると、松島は「何を今さら」と胸ポケットから、初めて会った時と同じように父さんと一緒に写った写真を出して来た。

「ほら、これが証拠だ。まだ疑うのであれば、持って帰って調べてもらっても良い」

「それはもういいんですよ。一緒に写っていたからって、当時は上司部下だったかもしれませんが、その後のことは知らない。そもそも、それを判断できる人が居ない」

 拒絶の言葉を発すると、松島は少しだけ目を伏せた。そのことに少しだけ罪悪感を覚えるが、しかし、その程度では気にはしない。

「そもそも、竜と太陽の神話会が行動を起こすとして、俺はどうすれば良いんですか? ただのガキに、貴方たちは何を期待しているんですか?」

「ただ無事ならそれでいい。我々の方でも何とかしているが、私はほとんど個人で動いているような状態だ。君の協力なしに組織には勝てない」

「なら、どうすれば……何をすれば勝てるんですか? そもそも、何かが起こると忠告してくれるのはありがたいんですけど、何に注意をすればいいのか分からないし、さっきも言ったようにガキにできることの程度なんてたかがしれてますよ」

 松島と同じく、竜と太陽の神話会のあの男女も時折、接触を図ってくる。いつもと同じメンツに同じ服。恐ろしいくらい同じやり取りで、同じようにネットに書き込まれる。

 今では、「強く断らないから、向こうも脈があると思ってやって来る」「すでにつながっている」「強く断らない時点で、お察し」と、ネットに書かれる始末だ。

 現時点で、世間から見て俺は、竜と太陽の神話会に接触している人間、と見られてしまっている。

「君たちを、うちで保護したい。一人で暮らす――いや、竜人と暮らしては何かと不便だろう」

「竜人なんてどこにもいないし、もし、俺が一緒に住んでいるのことを例えているのであれば、全くもって不便ではありません」

「――っ!? しかし、現に彼女のせいで君は竜と太陽の神話会から迷惑をかけられているじゃないか!?」

「この時点で、貴方も同じですよ」

 やはり、松島も竜と太陽の神話会と同じだ。クラエスを――竜人を動力源程度にしか考えていない。一応、竜と太陽の神話会は祀ると言っているが、それもどこまで信用できるか分からない。

 そもそも、下っ端しか話に来ないのだから。

「それでは」

「このままで良いのか!? 手に負えなくなるぞ!」

 夕飯を作る時間で人通りがまばらになっているとはいえ、それなりに人通りがある商店街にも関わらず人目をはばかることなく、松島は皆に知らせるように大声を出した。

 だが、ここで反応しては相手の思うつぼなので、これ以上、相手にしてはダメだ。

 どいつもこいつも、クラエスを道具程度にしか考えていないのに腹が立つ。

 力があるのだから、来る者は全て潰してしまえばいい。そんな危険な考えが頭をよぎってしまうくらいには、精神的に参っている。

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