楽しい異変ー8
「ただいまぁ~」
「おかえり。今日は遅かったな」
「メッセージで送っただろ?」
「見たが、時間までは書いていなかった」
「そうだった」
今日は、堰神や八東と一緒に訓練をしていたから、いつもより遅く帰るとクラエスにメッセージを送っていたが、その中に帰宅時間は書いていなかった。
クラエスは、俺が返ってくると同時に、鍋に火を入れ、電子レンジで食べ物を温めだした。
「慣れたもんだな」
「もちろん。タダ飯を食って、住処を与えられてゴロゴロしているだけでは申し訳ない」
「実際は、ゴロゴロしていても貰うもんは貰っているから、そんなにも気にしなくてもいいとおもうけどな」
俺の神器にクラエスの魂が入っているので、いつでも竜核式神器にすることができる。
俺が何かの手違いで、持っている神器に損傷を受けてしまっては、クラエスの魂を危険に晒すことになる。これほどの危険を冒してもらっているのだから、感謝以外に何を感じろというのか。
「そういえば、ユキトが言っていた通り怪しい男女の2人組が来たぞ」
「そうか。それで、何か問題でもあったか?」
「特に何も。言われた通り、2人が来てからは息を潜めて誰も居ない風を装った。完全に隠れている訳ではないからバレては居ると思うが、まぁ問題を起こしている連中に対しては問題ない対応だろう」
「すまんな。変な奴らに絡まれて」
謝ると、鍋のフタを開けて味噌汁にネギを投下しながら、クラエスは笑った。
「それは私のことか?」
「んなわけないだろ」
「良かった。私のことかと思って、ドキリ、としたぞ」
声色に、そのような感情を微塵も混ぜていないくせに、こんなことを言う。
クラエスは、出来上がった料理をテキパキと皿によそうと、テーブルへ運んでいった。
「手を洗って、早く服を着替えろ。ホコリが立つから、服は洗面台の前で着替えるんだぞ」
「はい」と、クラエスは部屋着を渡してくれた。
あまり気分の良い内容ではないが、登校するとき、このアパートにも来た男女の2人組が話した内容と、下校時に、父さんの知り合いという松島の話をクラエスにした。
クラエスは、日本に来てから他の人に自分が竜人であることを話したこともなく、ランドリーで一悶着をしたような喧嘩は2、3度したが、大事になるようなことはしていないという。
つまり――。
「あいつらにカマをかけられたってわけか……」
「そうなるだろうな。そのマツシマという男も、気に喰わないな。恩人の云々、言うのであればもっと早くにユキトを助けるべきだ」
俺の代わりに、クラエスが憤慨してくれた。彼女は、父さんからの頼みを任され、文字通りその足で日本にやって来た。
慣れない日本で、あんなみすぼらしい姿になってまで、ずっと探してくれた。
「これから、どうするんだ?」
「今まで通りだ。でも、今まで以上に危険になるのはクラエスだろう」
クラエスを本物の竜人と信じていようが信じていまいが、今日のように何かしらの接触があるはずだ。
神器にクラエスの魂が入っていて、何となくではあるがこちらの状況を知ることができるらしいが、それでも完ぺきではない。それに、俺はクラエスがどうなっているか分からない。
身を守ってくれ、というのは簡単だが、それを成すのは大変、難しい。こんな世の中であれば、なおさら。
「自分の身は、自分で守れるつもりだ。それに、一番、危険なのは私の魂も持っているユキトだから、ユキトの身を第一に考えて欲しい」
「そうは言っても……」
「ユキトさえ無事なら、私は不滅だ」
それはつまり、他の竜核式神器と同じになるということだ。魂だけとなり、
「それは、ダメだ。クラエスは、絶対に俺が守る」
「ありがたいが、私はナリノリに約束をした。ナリノリの家族を守る、と」
「俺は、俺が守りたい人を守る。もちろん、自分の願いを叶えながら」
胸にした決意を言葉にすると、酷く独りよがりで身勝手な言葉になっていた。しかし、クラエスは小さく吹き出すと、その決意が「輝いている」と讃えてくれた。
褒めているのか貶しているのか微妙な言い方だったけど、俺の決意に変わりはないし、クラエスも腹の底から言っている笑いではなかったので、文句は飲み込んだ。
これから、制覇大会まで一所懸命に訓練に励もう。
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