楽しい異変ー6
俺に飛び乗った堰神は、ガシュッ、とわざわざ俺の顔の横に実剣の刀を突き刺した。
「おまっ! 危ないだろ! 降参って言ってる奴に追い打ちとか、性格、悪すぎるぞ!」
「性格が悪いのは、貴方じゃない。やるならやるって言いなさいよ」
それは、俺が出した、堰神が求めるあの技のことだろう。
「なんでテレフォンパンチ染みたことをやらないといけないんだ。そんなことやったら、俺に勝ち目はないじゃないか」
「その程度で勝てなくなるくらいなら、初めの内に降参しておいた方がいいわ。貴方は、その技を私に教えるだけでいいんだから」
「お前の方が性格、悪いじゃないか」
ほらどいて、と上に乗る――端から見ればなかなかヤバい見た目になっている堰神をどかすと、続いて俺も立ち上がった。
「満足しましたかね、旦那ぁ」
「普通に嫌がらせじゃねぇか。早く終わりの合図をしろよ」
「ヒヒヒ。すみませんねぇ。イリヤから、邪魔はしないで、と言われていたもんで」
「買収されんなよ」
「なーんにも貰っていないから、これは買収とはいえないよ」
あはは、と悪びれた様子もなく笑う八東。俺から技のやり方を聞き出すどころか、それに気づかずやられただけ。さらに、コピーキャットたる自分の得意技ができなかったので、不服といった顔で堰神は俺を睨み続けている。
「近接戦は、問題ないみたいね。そもそも、イリヤ相手にあれだけ善戦できるとは思っていなかった。さっきから、ネットにはこの試合の書き込みがとんでもないことになっているわよ」
「見たくないなぁ。どうせ、頭の悪いことしか書いてないだろ?」
「結構ね。でも、獅童君を認める書き込みを多かったよ?」
「奇特な奴も居たもんだ」
「またそういう……」
困ったもんだ、と言いたげな顔で、八東は力なく笑った。
「じゃぁ、次は中遠距離ね。獅童君はどう?」
「遠距離はそれほど得意じゃないな。父さんは、遠距離が得意だったけど地味すぎてそんなあいたぁ!?」
八東と話していたら、頬に衝撃が走った。ゴトリ、と鈍い音と共に地面に転がった物を見たら、先ほど堰神が地面から足を引き離す時に出た地面の破片だった。
「えっ……? なに……?」
状況が飲み込めず、落ちた破片と飛んできた方向を見た。犯人なんて一人しか居ない。
「お前っ、堰神ッ! 石を投げるとか、強化素体のおかげで低減されているとはいえ、痛いことには変わりないんだぞ! それをお前、こんなデカい破片を軽々しく人の顔面に投げつけやがって!」
怒りを露わにしているのに、堰神はツンとすまし顔で余所を見ている。まるで自分は関係ない、といった様子で。
「まったく、ごめんなさいが言えない子供かってーの」
ボソリ、と文句を言うと、すまし顔だった堰神の仮面は簡単に崩れ落ち、俺の方を睨んできた。
それでも、自分は関係ないと言いたいのか、睨むだけでそれ以上のことは言ってこなかった。
「それじゃ、こっちも始めようか」
「あぁ、問題ない。よろしくたのむ」
「じゃぁ、移動しようか」
八東は移動する先を告げなかったが、今から行うのが中遠距離の訓練のため屋内訓練場になるはずだ。
中遠距離での戦闘は、魔力射出装置――つまり銃を使っての戦闘がメインとなる。
しかし、魔力保有量が少ない魔力核式神器では魔力射出装置が使用できないため、俗に言う鉛弾を発射するタイプの銃を使用する。
銃を使うのは授業で多少程度でしかないので、特にこだわりがない俺は学校で正式配備されている28式突撃銃という名の銃を使用する。
突撃銃とはいっても、生身の人間が使用することを考えていないので、重機関銃を一回り大きくしたような形をしているが。
初めは「大きさを統一した方が、万が一の時に他の兵士も使える」という考えで小さかったが、奪われる可能性を考慮してこの大きさになったようだ。
対して、八東が持つのはベースが俺と同じ28式だが、それを長距離射撃用に改造された狙撃銃になっている。
竜核式神器で顕現できる
他の銃器は目くらまし程度の威力しかない。だから、俺の選択した武器は
まぁ、今回は練習だし、装備も強化素体なので問題はない。
八東を先頭に、俺、堰神の順で歩き、たどりついたのは射撃訓練場。しかも、室内専用。
「ここでやるのか?」
「やるよ? なんかダメだった?」
「いや、これだと取り回しが悪い狙撃銃を持つ八東の方が不利じゃないか?」
「そんなことないって! それに、私が普段から使っているのも、こんな長物だから感覚を鈍らせないためにも使わないとね」
そう言い、八東は持っていた28式狙撃銃を掲げた。つまりこれは、突スナで今から対戦するということか。
「手加減なんていらないから」
「元からそんなことするつもりはないよ。本気でもヤバいだろうしな」
「うん、そうだね!」
自分の勝利を疑いもしない八東に、吠え面をかかせるのが当面の目標となるだろう。
部屋を作るパーテーションは、ランダム設定になっている。つまり、各部屋や通路をクリアリングしながらの戦闘になる。
これは勝てるな……。
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