転換-1
かつてこの世界は、
しかし、そこで
各国、数に差はあれど作り出した神器を使用し、自国を襲う
その後も、今後、起きるかもしれない
ここ
★
渦が好きなわけではない。ただ早く終わらないものか、と常に願いながら、こうして無駄な時間を過ごしている。
時刻はすでに午後10時を過ぎており、この洗濯機がある学校のランドリーに幸徒以外に姿は見えなかった。そして、今洗っているこの洗濯物は、全て幸徒の物ではない。
全て幸徒が所属する、
幸徒自身もこの学園に所属する神器遣い候補生だし、この洗濯は幸徒が買って出た訳でもない。
クラスで――いや、学園での幸徒の立場が特殊過ぎるので、このようなことをしなくてはいけなくなっている。
幸徒の父は、
しかし、3年前に博物館に展示してあった神器を盗み出し、国外へ逃亡したという噂が広まってから、幸徒の不遇は始まった。
特に問題だったのが、その盗み出された神器と言うのが竜王の魂が籠められたと言われるほど、強力な魔力を有している国宝だったからだ。
今後、この日本が
それからというもの、連日連夜、憲兵から恫喝ともとれる取り調べがあり、家には常にマスコミが張り付いている状態で、獅童家の人間に安住の地は無くなってしまった。
最後は、証拠不十分という形で幕を閉じたのだが、成典が少しずつ積み立てていた功績は全て白紙化され、国から支払われていた恩給は停止となった。
さらに、マスコミによって広められた悪評はなくなることはなく、さらに心無い人たちから『国家の裏切り者』と蔑まれるようになった。
そのせいもあり、父のような神器遣いになろうと入学したこの
逆らえばどうなるか分からない。それは、入学した初日に理解した。
しかし、幸徒は弱い人間ではなかった。喧嘩もできる。しかし、喧嘩をすると他のクラスメイトよりも厳しい罰則が発生する。
『国家の裏切り者』だからだ。
さらに幸徒を追い詰めるように、
成典から教えられた全てを使えば、学園でも上の方に行けると幸徒は考えていた。
しかし、「いつ裏切るか分からない人間に神器は渡せない」ということで、能力をセーブ――という名の壊れた――した神器しか貸してもらうことが出来なかった。
神器からは常に魔力が漏れ続け、戦闘をする時に使用する
そのせいで成績は常に最下位。AクラスからEクラスまであるクラスの、最低クラスであるEのさらに最下位だ。
特に幸徒の心を挫くのが、このクラスは『
そんなクラスでも、神器が壊れている状態では誰一人として勝つことが出来なかった。
こんな学校は、親も自分も裏切り者扱いをするくせに、幸徒の成績の低さを叱る時だけは
それでも幸徒はこの学校に通い、神器遣いになるしかなかった。
入院している妹の治療費のためであり、また、父親に貼られた『裏切り者』というレッテルを消すためだ。残念ながら、母親は心労が祟りすでに亡き人になってしまっていた。
「クソッ!」
ガンッ、と渦を作る洗濯機を強く殴る。泥に汚れたトレーニングスーツは、一度洗っただけでは、汚れがなかなか落ちない。
汚れが酷いところには、別途、部分洗いをしなければいけない。それに、全体的に汚れている時は、何度も洗濯機を回さなければいけない。
「何やってんだろうな……」
この学校で、俺がやっていることといえば、神器を使った実習よりもこうした洗濯や掃除をしている時間の方が長い。
他クラスではどうか分からないが、Eクラスでは成績が一番悪い生徒が、こうして全ての雑務を押し付けられる。
反対に、Aクラスの成績優秀者には何人も世話役の生徒をつけられ、蝶よ花よといった生活をしている。
俺は、Eクラス最下位なので、Eクラスの汚れ物を全てやらされる。幸いなことに、女子の物は女子最下位の生徒がやるので、その分、負担が減って良かった。
とはいえ、このまま行けば、神器遣いになるどころか、クリーニング屋に就職するしかなさそうな学園生活だった。
「おっ、ラッキィ~」
ヘラヘラ、と笑いながら、トレーニングスーツを着た数人のクラスメイトがランドリーに入って来た。今まで神器を使う練習をしていたのか、彼らのトレーニングスーツは泥で汚くなっていた。
「チッ」
洗濯機の前に立っている俺と目が合うと、Eクラスでトップの成績で大将格の斎藤が舌打ちをしてきた。こいつは厄介な人間で、常に俺を目の敵にして嫌がらせをして来る。
「あ~ぁ。くっせぇ、くっせぇ。裏切り者が居ると、
わざと俺に聞こえる声で言うと、取り巻きがゲラゲラと笑いだした。
「ほんと、マジで死なねぇかな?」「やる? ここでやる?」「やっちゃっていいっしょ。どうせ裏切り者なんだから」
殺す勇気もない癖に、一丁前に威勢だけはいい。馬鹿馬鹿しい話に耳を傾けることなく、とにかく洗濯が終わるのを待つ。
「さぁ~て」
ゴソゴソとトレーニングスーツをその場で脱ぎだす斎藤。
洗濯機は全台稼働中なので、未洗濯物を入れるカゴも用意してある。そこには、先に来たクラスメイトのトレーニングスーツも入っている。
しかし、こいつらは――。
「ダーーーーンクッ!」
「ウヒョーッ!」と猿のような奇声をあげて、あろうことか
「うわっ、クソッ!」
投げ込まれた奴を急いで取り出すが、溶けだした泥は綺麗だった水に広がっていき、一瞬にして泥水へと変わっていった。
「お前ら、なにすんだよ!」
「ナニすんだよ、じゃねぇだろゴミクズが。なに、俺のスーツ捨ててくれてんだよ!」
額に血管を浮かべ、斎藤が俺の胸倉を掴む。ブチブチ、と服の繊維が千切れる音が聞こえた。。
「そこに洗濯カゴがあるだろ! どこに目ぇついてんだ!」
「んだコラッ!!」
体格差はそれほどないが、箔付けのために入学したやつがほとんどのEクラスでは珍しく、神器を使う訓練を真面目にしている珍しい人種だ。
しかも、さきほどまで動いており、体が温まっているので俺よりも力が発揮しやすい。そのため、抵抗をするも簡単に振り回されるように投げ飛ばされてしまった。
「
ガゴンガッ、と並んでいた椅子を吹き飛ばしながら、地面を転がる。
「クソッ」
四つん這いになり立ち上がろうとするも――。
「よそ見すんなや」
バキッ、と首か頭蓋骨か分からないが、おかしな音が体に響くと同時に顔面に激痛が走った。
「アガッ!?」
他の仲間が、目の前に転がって来た俺の頭に蹴りを入れたのが分かった。
その蹴りを合図に、殴る蹴るの暴行が始まった。手や足ならまだいい。しかし、誰か分からないが、転がっていた椅子を脳天に叩きつけたことで、俺の意識は無くなった。
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