かばんちゃんの怖い話

@nutaunagi1205

第1話

かばんちゃんが遊園地からゴコクエリアへ旅立つまでの間にこんな一幕がありました。


「タイリクオオカミさんを懲らしめたい… ですか?」


「そうです」とアフリカオオコノハズクの自称『コノハちゃん“天才”博士』

「なのです」とワシミミズクのこれまた自称『ミミちゃん“天才”助手』


「あいつはいつも不気味な作り話をしてフレンズを怯えさせるのです。この島の長としてそのような横暴は捨て置けないのです。」

と博士。民の心の平穏を慮る素晴らしい長と言えるでしょう。


「そうです。博士などは特別臆病なので錯乱して威嚇したあげく失「ごほんごほん!!!と、ともかく一度ぎゃふんと言わせてやるのです!」

要するに、博士は自分が怖い思いをさせられた仕返しがしたいようです。


「え、えぇ〜 でもぉ」

「でももへちまもないのです。今迄何人の尊いフレンズが犠牲になったと思うのですか」

「へちま?犠牲はちょっと大袈裟なんじゃ…」

「大袈裟なものですか。現に私は怖くて一人でトイレに… と、とにかく分かりましたね!」

「わ、分かりました」

まくし立てる博士と、博士の勢いに押し切られ、つい了承してしまうかばんちゃん。助手はいつもの無表情で、しかし何処か楽しそうに眺めていました。


「えーと、懲らしめるといっても具体的にはどうやって…?」

「それはかばんに一任するのです。なんだかんだ、信頼しているのです。光栄に思うのです。では」

「我々は忙しいのです。賢いので。では頑張るのですよ(ニヤリ」


「…えぇ〜」


==============================


「…というわけなんだ。どうしたらいいかなサーバルちゃん」

「あはは!博士はとっても怖がりなんだね!」

「私もオオカミにはいっぱいおどかされたもん!たまにはオオカミもおどかされる側の気持ちになってみるべきだと思うな!」

サーバルちゃんは乗り気のようです。慈母の異名を持つサーバルちゃんですが、イタズラ好きな一面もあるのです。


「それでそれで! どうやってオオカミをびっくりさせるのカバンちゃん!」

「うーん、オオカミさんは頭も鼻もいいから悪戯を仕掛けるのは大変そうだなぁ。」

「そうだ!かばんちゃんもオオカミみたいに怖い話をするのはどうかな!」

「怖い話… あっ そういえば…」


==============================


「へぇ?図書館で読んだ面白い物語?いいね、是非聞かせて欲しいね」

「はい、これは体験談らしいんですけど「なになにー!私もききたーい!たのしそー!」

「かばんさんのお話!アライさんも聞くのだ!」「へぇー 面白そうだねぇー」

「お話… ボクも聞く…!」「あら、楽しそうね 私も混ぜて」

「なになになんでありますか!」「オレっちも気になるっス〜」

オオカミさんだけに聞かせる計画でしたがコツメカワウソちゃんに見つかったのが運の尽き。楽しそうな声に惹かれ続々と集合するギャラリー達。


「わ、わぁ〜 どうしようかサーバルちゃん」

「にぎやかだねー!みんなで聞いた方が楽しいよ!」

サーバルちゃんは計画のことをすっかり忘れたようです。今更引っ込みもつきません。かくして恐怖の宵が始まったのです…。


==============================


すっかり日が落ちた遊園地。広場に集まるフレンズ達を月明かりと奇跡的に生き残っていた観覧車の装飾灯の不気味に点滅する光が照らしています。


「え、えっとでは初めます。」

(ガヤガヤ わーい! 楽しみなのだ! ワクワクするでありますなぁ! ガヤガヤ)

「あはは、えっとこれはとあるフレンズさんの体験談を書き残したものらしいんですけど」


==============================


さばんなちほーで暮らしていたあるネコのフレンズさんは、いつものように友達のシカのフレンズさんと狩ごっこをして遊んでいたんです。


その日はさばんなちほーらしくないじめっとした日で、太陽は昼間なのに黄色っぽい光を放っていました。


そして、何回目かの逃げる側になった時、走りはじめても狩る側のシカさんが追ってこないことに気づいたんです。


見回すと、シカさんは表情のない真っ青な顔で何処かをじっと見つめています。


友達のそばへ行き、その視線を追ってみると、変わったフレンズ… だとネコさんは思ったのですが、不思議なものを見つけました。


遠くでよく見えませんが、真っ白な姿でくねくねと奇妙なダンスを踊っているようです。


それが何だと思うか隣のシカさんに尋ねると、ひと言「わからないほうがいい」と答え、そのまま帰ってしまいました。その声はまるで別人のようだったそうです。


呆然と友達を見送った後、先ほど『くねくね』がいた場所に目を戻しますが、そこにはいつもの平原が広がっているだけでした。


翌日、遊びに来ないシカさんが気になり、シカさんの寝床を訪ねる事にしたネコさん。


寝床が近づくと、ネコさんの鋭い耳は不思議な音を捉えます。寝床が近づくにつれその音は大きくなり、それが歌だということに気づきました。


そして寝床に辿りついたネコさんが見たのは不気味な歌を歌いながら笑顔でくねくねと踊り狂うシカさんの姿でした。


呼びかけても身体を揺すっても全く反応を示さない友達。怖くなったネコさんは賢いフレンズに助けを求めるためその場を駆け出しました。


しかし、助けを連れネコさんが戻るとシカさんの姿は忽然と消えていました。それから何日も他のフレンズさんと協力してシカさんを探しましたが見つかることはありませんでした。


そして友達を失ったネコさんがやっと元気を取り戻しはじめた頃のある朝。


ネコさんが目を覚ますと、…じめっと蒸し暑い。そして太陽はあの日のような黄色っぽい光を投げかけています。


==============================


「…そして彼女は見つけました。遠くで並んで踊る2人の『くねくね』を」

「えっと、この話はこれでおしまいです。どうでしたか?」


みんな真っ青な顔でそれぞれの相棒と無言で抱き合っていました。サーバルちゃんはオオカミさんと抱き合い、コツメカワウソちゃんは… 話しはじめた直後に光る観覧車に興味を惹かれ突撃、姿を消していました。


「ふ、ふふ、なかなか面白い話を聞かせてもらったよ。しかし、さばんなちほーにしか出ないんだったら私にはあまり関係はなさそうだね。」

としっかりサーバルちゃんと抱き合ったままのオオカミさん。


「…いえ、この話が不思議なのは、いくつも似たような話が別の本でも見られるところなんです。」

追い討ちをかけるかばんちゃん。


そのとき


__ぽてっ


「「「「ぎゃああああああ!!!!」」」」



「…きゅう」

またもや失神してしまった博士でした。木の上からこっそり聞いていたようです。


「やりますねかばん。ミッションコンプリートですね。ダブルノックアウト、なのです。」


「え?」

同じく木の上で聞いていたらしい助手の指差す方をみると、サーバルちゃんに抱かれたままコウテイよろしく白目で失神しているオオカミさんがいました。


「しかし少しやりすぎなのです。…作り話なのでしょう?」

「「「「え?」」」」


「これこれこういうわけで…」

ネタバラしにより、ようやくみんなに笑顔が戻ります。しかしそれはそれ、これはこれ、その日は皆一箇所にくっついたまま寝ることになったのは言うまでもありません。



(____本当に僕の作り話だったらよかったのになぁ)

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

かばんちゃんの怖い話 @nutaunagi1205

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ