11.信用できない?
一度、郁乃と別れて家に戻った青也は、再び準一に捕まった。
今度は玄関で靴を脱ぐ時だったため、青也はそこに腰を下ろしたまま、話を聞く羽目になった。
「まさかとは思いますが、郁乃様に会っていたりしませんよね?」
「なんでそんなこと聞くんだよ」
「薔吾様から、遣いが東都に入ったと連絡がありましたので」
準一は、青也と郁乃の関係を知っている数少ない一人であるが、そのことを快く思っていない。
丁寧な言葉遣いだが、責めるような口調で言われると、青也は不機嫌になって眉を寄せた。
「別にどうでもいいだろ」
「よくありません。先ほど言ったばかりですよね?統帥としての自覚を持つように」
「仮に、俺が郁乃に会ったからって、十妖老が直属妖魔士に会っただけだろ。よくある話じゃねぇか。それともお前は親でもねぇのに、俺の人付き合いに文句言うのかよ」
「貴方の交友関係に口出しなど、本来はしたくありません。ですが青也様のお友達は、揃いも揃って良いとは言えない方々です」
「あー、そうかよ。悪かったな、友達選びが特殊で」
「もっと他にいるでしょう。秋月院様のご子息や、白扇様のお孫様などでは不満ですか?」
青也はその二人のことを思い浮かべながら、それに答えた。
「あいつらとは仲いいよ。けどな、俺より二つも年下だし、大人しすぎるから遊び相手には物足りねぇの」
「……それはそうかもしれませんが」
「だろ?」
第一、と青也は続けた。
「お前だって、叔父さんに未だに郁乃のこと言ってねぇんだろ。本気で嫌なら報告しろよ」
「……それは」
準一は言い淀んで口を閉ざす。
厳しい言い方をして、その行動を制限しようとしても、根本的に準一は青也に甘い。そして郁乃のことが気に入らない以上に、先代のことが好きではない。
「青也のことを任せる」と言われた以上、必要以上に先代に介入されたくはないというのが本心だった。
青也の自由奔放であることを責めながら、それが個性だと思っている男にとって、そのあたりの調整は難しいことでもある。
「いいじゃん、お前の言う通り大人しくしてるからさ。遊ぶことぐらいは見逃せよ」
「……危険なことはしないでくださいね」
「うん、しないしない」
青也にとって、本部に忍び込むことは「危険なこと」には入らなかったので、軽快に答えた。
その答えに満足した準一が立ち去ると、青也は自室へと戻る。出かけた時と変わらぬ状態で放置されている部屋は、特にその後誰かが入った形跡もない。
「えーっと、確か……」
壁の金属製ラックへと手を伸ばす。
物をあまり持たない代わりに、何かを特別に捨てようとも思わない性格のために、ラックの中は少々乱雑だった。
高校を辞めた時のまま捨てていない教科書は、皺一つなく綺麗なまま積み上げられている。開いたこともないし、中が気になったこともない。
その教科書の山の向こう側から、青也はクリアファイルを一つ取り出した。教科書に比べると少し使い込んだ痕跡のあるファイルから、束となった見取り図が透けている。
それは連盟本部の内部の見取り図であり、ほぼ全ての階を網羅していた。
何年か前に電気系統の大幅な見直しをする際に使われたものらしく、専門知識がある者なら喜びそうな代物だった。
「よかった、まだあった」
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